第14話一八二三年、蝦夷と樺太の開発一
さて、武装と交易の問題は、徐々に始めることができた。
次は領地開発である。
蝦夷と樺太の原野を、山林を伐採し道を作りながら開発するのだ。
折角伐採した山林を無駄にしたくない。
冬に寒さを凌ぐために嫌でも燃やさなければいけない材木を、無駄にしたくない。
だから、窯場や鍛冶場や炭焼場を中心に、開拓拠点を設けることにした。
夏場は個々の家に住んで開拓作業に従事するが、雪に閉じ込められる冬には、越冬拠点を設けて、陶磁器、刃物、炭を作ったり手仕事をしたりするのだ。
その為には、陶工、鉄砲鍛冶、刀鍛冶、野鍛冶、甲冑師、炭焼きが大量に必要だ。
当然彼ら以外にも、原野を切り開いて農地に変える郷士や農民が必要だ。
更に、西洋帆船の建造拠点も、自前の材木が使える蝦夷や樺太に設ける事にした。
だが出来る事なら、自前の費用は極力抑えたい。
ここで前世の知識が役に立つ。
田沼意次が蝦夷地開発の時に、穢多頭の弾左衛門と話し合った条件がある。
幕府が関八州以外の穢多非人も弾左衛門の支配下だと認める代わりに、蝦夷地開拓資金三十万両と七万人を弾左衛門が投入する条件だったのだ。
だがこの条件は問題も多い。
幕府の支配地以外では、諸藩の事情で穢多非人の支配が決められてる。
特に寺社や公家の力が強い場所では、寺社が穢多非人を支配下に置いている。
幕末の混乱を知っている俺は、寺社や公家を敵に回したくなかった。
軍事上必要な革製品を確保したい幕府は、既に穢多非人に死牛馬取得権や、井草と草履、筬と竹細工の生産販売独占権を認めていた。
穢多地と決められた田畑や屋敷の年貢も免除していたので、豊かになった穢多の中には、農民地を買って年貢を納める者までいた。
それどころか、豊かな資金を使って、町奉行所の同心株を買う穢多までいるのだ。
これ以上特権を認めるのは、弊害の方が多すぎる。
だから、関東以外の穢多非人は、個別に開拓に参加させることにした。
自由参加して、自費で荒地を中畠十町(三万坪)分の農地に開拓した穢多非人は、良民に取立てる事を約束した。
どうせ西洋列強と戦う時には、四民平等と国民皆兵制度を導入するのだ。
悪辣なようだが、豊かな彼らを利用させてもらう。
同時に穢多頭の弾左衛門との交渉を有利にするために、浅草の車善七をはじめとした五人の非人頭を、弾左衛門の支配下から解放した。
彼らは何度も幕府に開放を訴えていたが、幕府の裁定で弾左衛門の支配下とされていたのだ。
非人も良民に取立てる約束をすれば、競争意識を持って開発してくれるだろう。
俺の計算では、関八州以外の穢多非人も参加することになると思われるので、七万家が蝦夷樺太に移民し、七百万石の新田開発が見込めるのだ。
一方幕府は、旗本御家人の知行地や、扶持に与える玄米の収穫地を含めて、八百万石の勢力しか持っていない。
開拓の完成に何年かかるか分からないが、七百万石の蔵入り地を手に入れる事ができれば、俺の資金力は幕府を超えるので、幕府から独立する事も夢ではない。
まあ、西欧列強と戦うためには、幕府と敵対するのではなく、上手く操縦しなければいけないのだが。
「年貢基準一反(三百坪)」
上田 :一石五斗
中田 :一石三斗
下田 :一石一斗
下下田:九斗
上畠 :一石二斗
中畠 :一石
下畠 :八斗
下下畠:六斗
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