第5話一八二三年、異国貿易を献策

「父上、また東照神君の御告げがありました」


「なに、また御告げがあったのか。

 だがもう余に話す必要はあるまい。

 源之助が望むのなら、何時でも上様に謁見できるではないか」


「そうはいきません、父上。

 私はまだまだ若年で、何時何者に襲われるかもわかりません。

 殿中で襲われてしまったら、護ってくれる者がおりません」


「そうか、確かにそうだな。

 源之助の名声が広がるにつれて、源之助を疎ましく思う者が増えておろう。

 多くの有能な者や権力者が、殿中で殺されている。

 そう考えれば、源之助を御城に行かせるのは危険だな。

 分かった、できるだけ余が代わりに上様に御伝えしよう。

 どうしても源之助が申し上げなければいけない時は、余が後見してやる」


「御願い致します、父上」


「それで、今回の東照神君の御告げは何なのだ」


「異国の来襲に備えて軍資金を蓄えろという事でございます。

 そのために、先年松前家に返還した蝦夷地を高須家で預かり、清国や朝鮮、雅加达や阿育他亚に直接赴き交易をしろという事でございます」


「海禁を破れと東照神君は申されたのか」


「いえ、そもそも東照神君は鎖国など命じていないと申されました。

 海禁を行われたのは二代様と三代様ですが、それは東照神君の御考えとは違うそうで、東照神君の狙いは、幕府による異国貿易の利益独占だそうです。

 それが今では、薩摩島津家と蝦夷松前家、それに対馬宗家に独占されているとのことでございました。

 この事に関しては、東照神君はかなり御怒りでございました」


 完全な嘘である。

 俺の幕末対策に必要な軍資金を得るために、大嘘をついているのだ。

 だが今の俺が言えば、まず間違いなく同意が得られると思う。

 それだけの実績は積み上げている。


 問題は尾張徳川家の継承だが、十一代将軍徳川家斉の甥、徳川斉朝が十代藩主となっている。

 徳川斉朝を押しのけて、俺が尾張徳川家を継承しようとしたら、暗殺されてしまう可能性が高い。


 そんな危険を冒すわけにはいかないから、幕府がそれほど重要視せず、松前家に復帰を許した蝦夷地と樺太を手に入れる。

 まあ、幕閣に対する松前家の賄賂攻勢が利いたのだが、その点を東照神君を使って咎めたら、徳川家斉も俺に蝦夷地と樺太を寄こす可能性が高い。

 どうしても渋るようなら、家斉の父、一橋治済が徳川家基を毒殺した事を突いてらればいい。


 徳川家斉は徳川家基の祟りを本気で恐れていたはずだ。

 徳川家基を一橋治済が暗殺した事を東照神君が咎め怒っており、一橋治済と徳川家斉は死後地獄に落とされると言ってやれば、俺の言う事を聞くだろう。

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