第2話 選別大会


魔獣ビーストにも、血液は巡っている。

肉体もある。

故に、触れてしまえば、殺し、消え行くまで動物となんら変わりない触感を感じることになる。


だから私は_________。


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「マレア、そっち頼んだ」


「........分かった」



今回の討伐大会にて、強者は一人で戦う傾向が多く見られていたが、短い言葉で連携を取りながら次々と魔獣ビーストをほふる二人組がいた。


一人は自ら魔獣ビーストに飛び込み拳で戦う者。もう一人は魔獣ビーストを寄せ付けない程の量の武器を作り出しては魔獣ビーストに向けて放つ者。


その二人組の足元には大量の魔獣ビーストが消された証拠として、きらきらと鈍く光る黒い欠片が散乱していた。



所詮この大会で倒す魔獣ビーストは教師陣が作り出した模擬的な物であって、本物とは違うため肉も血も残らない。

だから戦える。

青年は心の中で自分に言い聞かせ続ける。

作り出した槍が、剣が、斧が、血肉を抉り、裂いていく様は作り出された物相手でも触感が嫌になるほど生々しい。強いことは生きる上で、誰かを守る上で大切だが今自分は生き物を殺していると実感させてくるこの瞬間があまり好ましく思えない。


「....きりがないや」


討伐大会。

大会自体は確かに昇級や見せ場といった生徒それぞれの目的のためのものだが、実際は強い人だけが魔獣ビーストと戦闘を繰り返し、弱い人は隅で逃げ惑うだけの、強者選別大会。


今しがた実感した。


実際、魔力の多いものにでも寄ってくる傾向があるのか、私の方にばかり寄ってくる魔獣ビーストをマレアが淡々と作業のように倒していく様は弱い人には出来ない芸当だと我ながら思う。

私も私で倒してはいるけれど、マレアには到底及ばない。彼女は拳1つで戦っているにも関わらず、私の倍は倒していることだろう。

それは小柄で弱そうな体躯からは想像も出来ない圧倒的な強さだった。


「............カリヴェル、休憩。」


そう聞こえたのは戦闘をはじめてどれくらいたった頃だったろうか。

声に反応して顔を上げると、周囲の魔獣ビーストは全て欠片と化しており、少しの間は休めそうな雰囲気ではあった。


「....ああ、そうだね。そろそろ私も魔力を垂れ流すのは疲れたし休もうか」


適当な場所を見繕い、隣り合わせで腰を下ろす。

討伐、と言うよりも作業と言った方が適切な気がする先程までの戦闘を思い返しながら一息吐いていると、地面を見つめる私の頭上から声が聞こえた。


「おいサリンド、もう休憩か?参加も遅かったくせして....特別クラスとやらはやる気がないのか」


「駄目ですよ、シルヴァン君。ヴェルが先程まで戦闘に徹していたのを見ていたでしょう?」


聞き覚えのある二つの声は知り合いのもの。


「クグリに、....シルヴァン。クグリは兎も角、シルヴァンは入学式以来か」


「ええ、お久し振りです。元気にしていましたか?玄武と朱雀がヴェルに会いたがっていたので、能力を使っていいこの大会でヴェルに会わせようと思って探していたんです」


クグリ、ことクグリ・カミギクは東の国からわざわざこの学園に来た黒髪の少女だ。

彼女は祖国の方位を司る神様から力を借りることを能力としているらしい。

入学式に多少会話をして以来、会話は多くないものの話は合うため休み時間などに

話す間柄で、何度か彼女の能力で現れる霊獣とも(気軽に触れていいものか分からないが)触れあっている。

クラスは一番上で、Aクラス配属。


「はっ、入学式以来だが相変わらずだなサリンド。貴様は戦い方が一方的にも程がある、効率も悪い、そこを僕はやる気がないと言っているんだ....魔力の異端児イレギュラーめ」


此方の皮肉をつらつらと吐いている男はシルヴァン。ジェラット・シルヴァン。

雪のように儚く綺麗な容姿からは想像も出来ないような毒しか吐かない皮肉れ者の自信家。

中々話すことはないものの、入学式で顔を会わせた際に入学試験での私の能力の行使の仕方に文句をつけてきたのがシルヴァンだった。

ただ、シルヴァンの言うことは全部が全部嫌味等ではなく、一部は強ち間違ってはいないアドバイスだったりもするのではね除けたり聞き流すことはしない。

此方もAクラス配属だ。


「魔力は能力を使う度に勝手に垂れ流してしまうんだ、シルヴァンみたく上手く調節出来るようには時間がかかる」


彼は見たところあまり魔力は多くないものの、その調節と扱いに秀でているようで彼の試験は無駄のない動作で行われていたと記憶している。

この年齢で大人顔負けの技能を持っている君も、私からすれば十分に異端児イレギュラーだけどね。


「...そういえばサリンド、そこの少女は誰だ。勝手に身内でも連れてきたのか?学園内に関係者以外を入れてはならないと教わったろう?教師に怒られるぞ」


ふとしたようにシルヴァンは隣で大人しく私たちの会話を聞いていたマレアに視線を向けた。


「ああ、彼女は私のクラスメイトだよ。先程まで一緒に戦ってくれていたんだ」


とても強くてねぇ、と話す私と隣のマレアを交互に見て"信じがたい"とでも言うような表情をするシルヴァン。案外分かりやすいのが彼の特長。

クグリはクグリで驚いたような表情をしているが、シルヴァンと違ってマレアの戦闘場面も見ていたらしくシルヴァン程は驚いていなかった。


「マレア・シーリス、転校生。初めまして」


ずっとだんまりを決め込んでいたマレアは、口を開いたかと思えば短く自己紹介をして、また口を閉じた。

口下手か人見知りなのかもしれない。


「ふむ、シーリスさんか....僕はジェラット・シルヴァンだ、宜しく」


「神菊 潜....クグリ・カミギクと言います。初めまして、シーリスさん」


クグリは元々優しいが、わざわざ座っているマレアの為にしゃがんで目線を合わせる辺り優しいんだよな、シルヴァンって。


二人の軽い自己紹介にこくりと頷くマレア。やっぱり人と話すのが苦手なのだろうか?


「にしても、お前と一緒に居るということは....また特別クラスに人が増えたのか。サリンド、またお前やヴィンドレンシアのような異端児イレギュラーじゃないよな?ウィンドレンシアは今回竜巻を起こしていたが」


レレン・ヴィンドレンシアは私のクラスメイトで友人だ。風番人と呼ばれる彼女の能力はあらゆる風を思いのままに操るものだが、普通の風系統と違ってレレンの能力は威力が段違い。私も竜巻を相手にするのは気が引ける。というか無理だ。


異端児イレギュラーって言われてもなぁ....どうだろう。マレアはとても強いけど、拳で1体霊獣を呼んだクグリと対等ぐらいじゃないか?」


霊獣1体でも中々に強いけれど、拳1つで魔獣ビーストを倒し続けるマレアの体力と強さを考えると1体くらいなら互角かそれ以上に戦えると思う。


「それは十分な異端児イレギュラーだろうに....まぁいい、特別クラスの奴らは手に負えん変わり者の集まりだしそんなこともあるだろう。........シーリスさん、君も災難だったな」


どういう意味だい、それ。


「私の霊獣と対等、ですか....確かにそのぐらいは出来そうな見事な戦いぶりでしたもの、2体くらいはいけるんじゃないでしょうか」


いやどういうことだい!?それ!


私に戦闘解析なんて技能はないから強いなぁぐらいにしか考えてなかったけど....これは想像以上の話なのかもしれなくなってきた。

マレアが許せばボミットに解析を頼もう。


完全な蛇足になるが、私は強いものが好きだ。

それは単なる力ではなく、強かさや芯の強さも含む。

マレアもクグリもシルヴァンも、皆一様に力は強いしそれぞれ考えること、根本的な強さが違って見ていて飽きない。本当は普通のクラスに配属されて他の誰かの力を傍目で見ながら私なりの強さを得られればと思っていた。

それは叶わなかったが、変わりに一番上のクラスのクグリとシルヴァンと出会えた。

そして、今日、圧倒的な力を持つマレアに出会えた。

なんて幸運だろう。


「マレア、君って本当に強いんだね」


私は君に会えて嬉しいよ。

強者の在り方は何時までも見ていたい。


「うわ、サリンドが笑ってる....カミギク、明日は槍が降るぞ」


「降りますねぇ、これは」


こそこそと会話をする二人を置いてマレアの方を見る。

私の褒め言葉に照れもせず、かといって傲った様子もなく、ただ1つ、マレアはこう答えた。


「そういう風に、そだてられたから」



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それからまた増え始めた魔獣ビーストを倒しに立ち上がり、マレアの流れるような戦闘を見ることとなった。後半は四人で戦ったせいか前半よりもかなり短い時間で戦闘は終わったので討伐大会が終わるまでの暇潰しにシルヴァンに魔力調節の方法を教わったり、マレアに拳での戦い方を習ったりと有意義な時間を過ごした。


大会の集計は後日出されるとのことで、アナウンスでひとつの場所に集められた私たちはそれぞれのクラスへと戻された。





「ボミット、話があるんだ。今いいかな」


クラスに戻るなり部屋の隅の机で大量の紙と向き合い、何かを書き続けている男子生徒に声を掛ける。


「....カリヴェルじゃん、何か用?」


クリーム色に近い金髪と青い瞳を持つふくよかと言うべきか肥満と言うべきか悩む体型をした丸眼鏡の男子生徒、ことウォリア・ボミットは我らが特別クラスの博士と呼ばれている男だ。

彼は能力持ちの戦闘解析を趣味としており、その趣味が大人に認められるレベルにも達している。自称戦闘オタクだ。

その類い稀な観察眼と解析能力は自分の能力の扱い方に困っている人、他の使い方を見つけたい人など多岐に渡る人達に重宝されている。

服の汚れや戦闘の形跡が一切見られないことから討伐大会に参加したはいいものの偵察と生徒の監察だけして帰ってきたのだろう。


「ほら、今日転校生が来ただろう?彼女と一緒に戦ってきたんだけど....君が気に入りそうな戦いぶりだったよ」


「....まじ?へぇ、小さいし細いしで戦えねぇ支援系と思ってた。いいなぁ、お前んとこも偵察しときゃよかったかも」


「偵察ばかりじゃ大会での昇級チャンスを逃してしまうだろ....変わらないなぁ、君は。」


「僕らみたいな準、....いや、いーの。僕はどうせ戦う気なんてないし。何より血生臭いのやなんだよね」


何かを言いかけて止めたボミットに疑問を持つも、そこまで気にはならず私も言及はしなかった。


「そっか。....まぁ、なに、興味を引いたのならマレアと話してみてくれないか?ボミットから見た彼女の強さが知りたいんだ」


「そういうことならお安いご用さ、何よりカリヴェルからのお願いだからね。今日は僕も学園内動き回って疲れたし明日辺り声かけてみるよ」


二つ返事で了承してくれたボミットに、私は"ありがとう"と軽く頭を下げる。

頭を下げる私にボミットは


「興味を引く話を持ってきたのはカリヴェルだからね、これは半ば趣味だし頭下げなくたっていいよ」


と苦笑していた。


それから数分後に我らが担任が教室に入ってきて始まった今日の総まとめのような話....不思議の国に喩えられた分かりにくい話を軽く聞き流しながらその日は幕を閉じた。

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