弐 近代化
「では、さっそく仕事にとりかかってもらおうか」
「は、はい!」
しかし、来てしまったからには仕方がない。閻魔王の指示に従い、わたしはさっそくここでの仕事にとりかかる……つまりは〝亡者の裁判〟だ。まさにご先祖さま・小野篁が手伝っていたやつである。
キリスト教徒などは直に煉獄へ行ったりとまた手続きが異なるのだが、アジア圏の人間はほとんどが死後、この閻魔王庁で裁きを受け、浄土かあるいは他の六道(天道・人道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄)へ行くかが判断される。
鬼籍登録もこの裁判を受けるために必要なものであり、ゆえにわたし達死民課の仕事とは切っても切り離せない関係にあることから、この出向制度が設けられているというわけだ。
まあ、行政というよりは司法の仕事なので、ほんとにこの出向が必要なのかという疑問に捉われないこともなくはないが……。
ともかくも、その閻魔王庁での裁判のことは誰もが知る有名な話なので今さら説明もいらないと思うが、じつは世間一般のイメージとは少々異なるところもある……。
まず、裁判を取り仕切る役目は閻魔大王のみが行うのではなく、他にも秦広王、初江王、宋帝王、五官王、変成王、泰山王、平等王、都市王、五道転輪王という九人の裁判官がいて、合わせて〝十王〟と呼ばれる。
そして、明らかに善人や悪人である場合は閻魔王の審議一発で即判決が下るのでよいのだが、これが善悪つけがたい人間の場合は非常に面倒なことになる。
なんとその場合、十王が交替で裁判長になって、七日ごと七回の審理を行わなければならないのだ。さらに亡者側から異議申し立てがあった時には、追加審理も三回までが許されている。
となると、当然、簡単に善人・悪人と判断できるような人間はむしろ少ないわけで、ほとんどの亡者が七回審議を行わなければならない。だから、閻魔王庁毎日大忙しだ。
「篁さんは私にならって裁判の
「あ、はい!」
わたしに与えられた役目は、
中国風の装束を着た二人に混じり、事務服姿のわたしがいるのはなんとも滑稽な絵面に思えたのだが、そんなわたしの懸念に反して特に誰も気にしている様子はない。
いや、それもそのはずだろう。一見、すべてが古式ゆかしい中国風だと思いきや、じつはそうでもなかったのだ。
「え? 紙と筆じゃなくて電子パッドなんですか!?」
巻物と筆を使うものと想像していたが、手渡されたのは石でできた電子パットみたいなものと電子ペンである。
「いや、
「少し前までは
驚く私に、指導役の司禄さんと司命さんはそう説明をしてくれた。
どうやら、閻魔王庁でも時代の変化に合わせて近代化が進んでいるらしい……。
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