平等院鳳凰堂②
藤棚の脇で何やら装飾をしているお兄さんを見ながら、クリスマスまでのカウントダウンが始まりつつあることを思い出した。
そんなときに一人、極楽浄土。なんて物悲しい。
そう思いつつクスッと笑えてしまう私は、どんな境地を通り越してしまったというのだろう。
十円玉の風景を横目に進み、撮影スポットを探す。やっぱり定番は真正面なんだろう。数名の観光客が陣取っていて、撮影するには時間がかかりそうだけど。カメラを掲げる後ろ頭を見つめながら、人のいない空間を探した。池のほとりで辛うじて人がいないスペースを見つけて、カメラを構える。菩薩様は扉で閉ざされていて見えない。それがなぜか、ちょうどよく思えた。
池袋に写る鳳凰堂は撮れなかったけど、満足のいく写真が撮れるまで三十分格闘して、集印所に向かう。小さな横長の建物に、数ヵ所の窓が並んでいて、各窓口に禰宜さんや巫女さんが座っていた。皆柔らかな笑顔を浮かべていて、吊られるように私も微笑んでしまった。
「御朱印ですが、種類がございます。いかがなさいますか?」
そう言って指し示された場所を見やる。私の視線の動きに合わせて、禰宜さんは説明をしてくれた。
一つは鳳凰堂の御朱印。もう一つは阿弥陀如来様の御朱印。もちろん、すべての御朱印を授与していただく事が可能だ。
私は2種の御朱印をお願いした。世界遺産である鳳凰堂の御朱印に、御祭神である阿弥陀如来様に。そういえば、阿弥陀如来様のご利益ってなんだっけ? なんて。無知な私を思いながら、禰宜さんの手の動きを追った。滞りなく動き、滑らかにすべる筆先に、なぜかそっと心を撫でられている気がした。
順路にそって進むと、人気のない場所に出た。見るからに奥に進むように書いている案内板を見ながら、指し示された壁を見やる。どうやら飛翔館というミュージアムに続いているらしいが、それ以外にはなにも書かれていない。唐突な館内への案内に、少し戸惑う。金銭的なものの不安も感じて、思わず入棺時にいただいたチケットを確認した。だけどどこにも飛翔館の文字はなく、案内板にもなんの説明もない。どれぐらい立ち尽くしていたか分からないが、ようやく通りすがった清掃スタッフに声をかける。
「あの、ここって入館料とか払ってなくても入れるんでか?」
「大丈夫ですよ。追加料金なしで見ていただけます」
なんて太っ腹な。なんて驚いたあと、私はお姉さんにお礼を言って、飛翔館に向かった。
コンクリート張りの静かな通路を進む。まるで異空間に連れていかれるような、そんな感覚を抱く不思議な場所だった。静かで、どこか爽涼で、魂を少しだけ軽くして、私を今じゃないどこかにつれていってくれるような。そんな感じだ。
展示される様々なものに心を浮わつかせながら、私は説明版に軽く目を通しながら鳳凰を360度に渡って観察したりして、館内を見て回った。その途中、雲中供養菩薩像の前で佇む。一つ一つは小さな雲の上で居座る一個体なのに、五十二躯集結して壁に浮かぶ一行は圧巻の一言だった。説明で読んだ通り楽器や舞を踊る菩薩様を、目で順に追っていく。銅鑼を持った菩薩様、笛を奏でる菩薩様、健やかな表情で舞を踊る菩薩様。耳に届く音楽が空想であることを知りながら、私はその壁から立ち退くことができずに佇む。
目の前にあるのは、灰色の壁に飾られた菩薩様。
臼ぐらい空間で私は、菩薩様に踊らされてむかう、極楽浄土を思った。
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