高台寺


 入り口で拝観料を払って、順序と思われる道を進む。

 いつも訪れるようなお寺の雰囲気はなく、どこかの庭園に迷い混んだような気分だ。いったい何を見て回れば良いのか分からないまま、自然の空気に触れて歩く。平日で観光客も少なく、半ば貸しきり状態なのに、どこか勿体ない気分だ。石畳の坂を上った時の興奮はすでになく、迷いにまた視界を失っていた。

 緑がある。道がある。建物があって、空がある。

 迷いのせいで、感動も何もない。そこにあるものを、ただそのまま受けとることしかできない。

 どれくらい回っただろうか。階段を上った先、はじめて、建造物の入り口に、お姉さんが立っていた。


「こちらは、寧々さまが眠る霊屋おたまやです」


 入り口で立ちすくんだまま、お姉さんの説明に耳を傾ける。


「中央には菩薩様が鎮座されており、右には秀吉公が、左には寧々様が鎮座されております」


 一通り説明を聞いたあと、お礼をして中に入る。お姉さんに聞いたことを確認するように中央を見やり、右を見やり、左を見やった。菩薩様は扉が閉じられていて目にすることはできなかったけれど、秀吉公と寧々さまはその姿を拝むことができた。壁掛けの絵画に描かれたお二人が、そのまま立体化したような像だった。

 私は覗きこんで凝視して見納めたあと、菩薩様の前に立ち戻る。

 そして、気になっていた賽銭箱に目を落とした。

 参拝、すべきなんだろうか。否、参拝していいものだろうか。

 菩薩様に手を合わせるのが普通のことでも、ここは寧々さまの眠る場所。いつものように、参拝と称して手を合わせることは間違いではないのだろうか。

 誰も来ないことをいいことに、私は視線を菩薩様や寧々さまにさ迷わせながら、逡巡する。

 今まで賽銭箱があれば、とりあえず参拝してきた。それを今さら考え込むのも遅すぎる気がするが、今までとは違ってなんだか大事なことのように思えた。

 姿の見えない、菩薩様を見つめる。

 いつも、お願い事をしてきたわけじゃない。今ここで、手を合わせることは間違いではないはずだ。

 私は再び賽銭箱に視線を向けて、いつもの通りに五円玉を滑り込ませた。一番ナゾな行動だ、なんて思いながら。

 一礼して手を合わせ、当たり前のようにお礼を唱える。そして、寧々さまを思いながら、どうぞ安らかにと続けた。

 一礼で締め括り、庭園の観光に戻る。道中、竜の置物に目を奪われて、はじめて感じた浮き足立つような興奮を写真に納めた。

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