地主神社①


 清水寺に来た、本当の目的。それは。


「地主神社、こっちだ!」

「そうそう! 階段上った上った!」


 縁結び!

 恋人いない! 新しい友達ができない! という悩みが未久にはあるそうで、いや、私にもあるけど。

 階段を上った先の小さな広間で、親子とすれ違う。軽くお辞儀をした先で、やっと境内に着いた。


「本堂、どこ?」

「さあ?」

「まだ階段あるね」


 一先ず階段を上らず、奥に進む。横並びでは進めなくて、体を傾けながら人の隙間を進む。たどり着いた先には、稲荷神社があった。未久が振り返る。


「順番に行く?」

「手水舎あったしね」

「ほんと?」


 今度は私が先頭になって、来た道を戻る。今まで見た中で一番豪華な手水舎には、先客がいた。人の流れに押されて、私と未久は隙間に追いやられる。そこで先客が去るのを待った。彼女たちはなぜか首を傾げながら去っていく。隙間から出て手水舎の前に立って、彼女たちが首を傾げた理由を知る。


「本当に手水舎? 祓戸大神って書いてあるけど」

「でも、柄杓あるよ?」


 光溢れ、両脇に灯る提灯。神棚みたいな祭壇のような。でも、竜の口から水は流れているし。柄杓は一つとは言わず、いくつも並んでいるし。水を掛けるべき対象も見当たらない。

 私たちは顔を見合せて、苦笑した。ハンカチを取りだし、粛々と手を清める。

 そのまま奥に引き返し、朱色の社殿・栗光稲荷神社に手を合わせた。

 今度はさらに上に行こうと踵を返すと、他の参拝者と肩をぶつけた。


「すみません」


 相手は他のモノに気をとられているようで、返事もなければ目も合わなかった。


「大丈夫?」

「うん」


 なんとか階段前までたどり着くと、二人の巫女さんとすれ違った。よく見る格好じゃなくて、三人官女のように着飾った、今まで見たことのないきらびやかな姿だ。


「あれ、正装かな?」

「ぽいね。なにかあるのかな?」


 人混みに押しやられるように、階段を上る。景色が広がり、見上げれば空が臨む。辺りをキョロキョロ見回しながら、大きな社殿に挟まれた小道を進んだ。


「もしかして、ここが本殿?」

「ぽいね」


 地主神社の中で一番大きな社殿には、お祝いで贈られるような熨斗のついた酒瓶が、これでもかと並んでいた。よくよく確認する暇もなく、人混みに追いやられて本殿を通りすぎてしまう。

 端の端まで追いやられて、やっと振り返ることができた。観光客とも参拝者とも知れない人で、本殿の前が込み合っている。


「恋占い、できるかなー?」

「今日は無理じゃない?」


 恋占いの石があるのはあの小道だ。どうみても、目を瞑って石から石まで歩けるか、なんて試せるわけがなかった。


「こっち、人いないから、ここら辺から参拝しようか」

「そうだね」


 泣き顔の未久をつれて、本殿の脇に並ぶ社殿の方へ向かう。


「ドラがある!」

「えっ! なんで!?」


 突然の大声に驚きつつ、未久を肩越しに振り返る。未久の視線を追うと、神縁と書かれたドラがあった。よく見るそれより、固定されているように見えるけど。


「良縁達成だって。響きで願いが叶うかどうか、分かるんだって」

「え? それ、恥ずかしい」


 私は人混みを見て、尻込んだ。だけど未久は目をキラキラと輝かせて、ドラを眺めている。


「先に他も見ておこうよ」

「そう?」


 鳴らしたいような、鳴らしたくないような。試したいような、試したくないような。願い事はあるが、叶わないと知れるのが怖くて、鳴らしたくても鳴らせない。


「撫で大国様だって」


 悩む私をそっちのけで、未久は何があるのか報告してくれる。


「あっちは水掛地蔵だって」


 ただ、どれも不馴れなものばかりで。すぐに参拝方法が分かるようなものじゃない。少し、私にはハードルが高い。参拝は手水舎見たいに一緒に行えないから、なおさら。


「ああいうの、すごく躊躇うんだよね」

「そう? じゃ、私やって来て良い?」

「どうぞ」


 あっさりと私に背を向けて、未久はドラの元に走っていった。楽しげに清く正しく参拝を済ませている未久に、羨ましさを覚える。あ、ドラって三回鳴らすんだ。すごい、響いてる。

 おいてけぼりになった私は、一人で大日大神様とおかげ明神様に参拝することにした。参拝を終えると、境内の端に身を寄せて、未久を待つことにする。

 境内にはさらに人が集まりだしていて、いよいよをもって本殿の参拝が難関になってきた。

 参拝客が、迫ってくる。私に気づいていないようで、ぶつかりそうになった。私は謝ると、一歩後ろに引いた。この人も友達としゃべっていて、気づいていないようだけど。

 人混みの中から、未久が飛び出してくる。


「人増えた?」

「うん」


 さっきの参拝客もそうだけど、境内に集まった人たちは参拝をしようとしてはおらず、まるで何かを待っているかのように足を踏み鳴らしていた。


「やっぱり、何かあるみたい」

「行ってみよう」

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