大阪天満宮①
「久しぶり」なんて挨拶は、合流できない事件で流された。
「今、どこ?」
「2階? の、改札でたところです」
「え? なに出ちゃってんの?」
「も一回入ってきて」
新年早々のあわあわな事態に、テンパる。横にいる元・バイト仲間は、”仕方ない”というより”なにしてんだ”という口ぶりで、私と電話越しの元・後輩を先導した。やっとおちあって、環状線にのりこんで、天満駅にたどり着いた。
「え? これ、左? 右?」
「いや、私もはじめてだから、分かんないよ」
「あ、左みたいです!」
天井に吊るされた看板を見つけて、元・後輩が声をあげた。
大阪に出てきて何度目かの初詣。それぞれのバイトの関係で帰省を諦めた私たちは、ちょっと足を伸ばして、天満宮での初詣を決行した。
「結構遠くない?」
「ほんとに合ってる?」
三ヶ日最終日。思ったほど人気がなく、私たちは不安にかられた。不安をまぎらわせるように周囲を見渡しては、気になるお店をお互いにピックアップしていく。「あ、たい焼き専門店がある!」「たい焼きに専門店なんてあるんだ」「あの古書店、お洒落じゃない?」「金物屋なんて、はじめて見た」なんて言葉に、手短な反応を返す。そんな私と元・同期である菜乃花のうしろを、元・後輩であるゆいはただついてきていた。特になにをするでもなく、同調の言葉に同調している。
そのうちに、不安は和らぎ、間違ってないんじゃないかという思いが、溢れてきた。屋台を見つけたときの安堵感といったら。レジ点検でマイナス100円がでたあとで、100円が落ちていたのを見つけたときのようだ。
「屋台、多くなってきたね」
「帰りにクロワッサンたい焼き、買っても良いですか?」
「好きなの?」
「いや、姉に頼まれて」
申し訳なさそうにするゆいに、笑顔で了承する。そのあと何度か話しかけたが、ゆいは手短に答えるだけだった。私は「楽しい?」という言葉を必死に飲み込んだ。
天満宮について、私はまず山門を見上げた。興味のない菜乃花はさっさと中に入っていく。ゆいはどっちに着いていくべきか、私のうしろで足踏みして迷っていた。
ゆいに謝って、菜乃花を追う。菜乃花はすでに手水舎にて手を洗っていた。
「思ったより少ないね」
「まあ、三日だしね」
私たちも手を洗って、拝殿の前で待っていてくれていたらしい、菜乃花に追いつく。拝殿前で立ち尽くしても邪魔にならない程度には、参拝客は少ない。身動きがとれないくらい多いのかと、思っていたからなおさら、少なく感じたというのもあるだろう。
小銭を用意している私たちの傍ら、キョロキョロと周囲をうかがって中央に寄ろうとするゆいに気づく。
「どこからでも良いんだよ」
私の言葉を表すように、天満宮の賽銭箱は拝殿と私たちを隔てるほど大きい。私たちは中央を逸れて端の方で、参拝をした。
横にずれると、露天があった。参道よりも賑わっている様子に、私は二度驚いた。
「境内にも出店あるってすごくない?」
「そう? 八坂神社とかもあるよ」
「そうなんですね」
驚く私たちとは裏腹、菜乃花はさも当然という様子で、賑わいに向かって歩いていく。私とゆいは、それに続いた。
「お昼食べてきた?」
「少しだけ」
「そうなの? 私はまだ」
お昼集合で、屋台を楽しもうと思っていた私としては、ゆいが食べてくるなんて思っていなかった。菜乃花と私の間での暗黙の了解でしかなかったことを、反省した。「母が作ってくれたので」というゆいの言葉を聞いて、さらに申し訳なさ襲われた。
「食べる?」
菜乃花の申し出に、私はゆいを見た。
「良いの?」
「はい。私も小腹空いているので、是非」
ゆいの笑顔に慰められる。「奢るよ」と申し出ると、戸惑いながら「ありがとうございます。でも、良いんですか?」と言われた。私はもちろんと頷く。そういえば後輩に奢るのは初めてだと、勝手に感動した。
「おでん食べたい」
「私、牛串も気になってる」
目を輝かせてお昼のメニューを話し合う。おでんはセットで頼んで分け合うことにして、私は一人、牛串の屋台へ走った。
「じゃあ、席とって、ゆっくりしようよ」
境内の端に設置されたおでんの屋台は広く、仮設された座敷があった。この時にはお昼も過ぎていたので、すぐに座ることができた。私たちは奥の方を陣取って、おでんのセットと割り箸を三本、頼んだ。
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