大神神社③
ごねる美優をなんとか宥めて、私たちは大神神社の社務所に戻ることにした。
「休憩所あるって」
最後の上り坂で、また美優は気を散らせる。
「え! 御朱印は!?」
「おみくじもだよ」
「じゃ、あとで行こ」
大して疲れていなかったからか、美優はあっさり引き下がる。もしかしたら、明らかに口数が減った私たちを、気遣ってくれたのかもしれない。
「御朱印ココだって」
坂を上りきったところで、美優が目ざとく御朱印帳の文字を見つけた。私はすぐさま鞄から御朱印帳を取り出す。
「あ、おみくじ向こうだ」
朋子の声に、美優の足がむかう。
「ちょっと! 私もするよ、おみくじ!」
置いていこうとする二人の背中に叫ぶ。
「しょーがないなー」
「待ってるよ」
「頼むよ!」
帰ってくる二人に半泣きになりながら叫ぶと、二人は楽しげに笑った。こっちはなにも楽しくない。
私は書いてもらうページを開いて、一人座るお兄さんのもとに駆け寄る。
「御朱印、お願いします」
神社のお兄さんは笑顔で御朱印を受け取ってくれた。
「はじめてですか?」
「はい」
にこやかな笑顔に気持ちが昂った。お兄さんの手元を見ていると、さらにテンションがあがる。リズムを刻みそうになる足をなんとか抑えながら、書き上がるのを待つ。
「お待たせしました」
ちょっと離れた場所で私を待っていた二人に合流する。御朱印を見せてとせがむ二人にお披露目しながら、拝殿の脇にあるテーブルへ向かった。テーブルの上には、狭井神社にもあった大祓いの棒と六角系の木筒が三つ並んでいた。
「戦いはここから始まっているのです」
「なんの台詞?」
「さっさとフるよー」
思い思いの木筒を持って、振る。横に降り、ひっくり返して上下に振った。何度目かで、質のいい割り箸のような棒が一本落ちてくる。
「え? この棒、抜けないんだけど!」
「抜くなよ。番号覚えてって書いてあるから」
「あ、ほんとだ」
「お前もかーい」
美優は朋子にもすかさずツッコんで、社務所へと先人を切った。行儀良く一列にならんで、番号を告げる。おみくじを受けとると、見ないよう勤めた。
「せっかくだから、休憩所でみようよ」
朋子の提案に、休憩所に向かった。休憩所には喫煙所があり、自販機があった。ポットやコップなどが用意された窓口もあったのだが、閉まっていて利用するには憚れた。並べられたテーブルには、年寄りの夫婦だったり、おばちゃんのグループが十分な空間を開けて座っていた。
美優が自販機の前で足を止める。
「みて。アイスの自販機ある」
「ほんとだ! 美味しそう!」
「懐かしいね」
私と朋子の顔をみて、美優が笑う。
「じゃーんけーん」
「いや、じゃんけんはやめて」
「え! 奢るのは良いの!?」
制止の声に美優は口を尖らせた。
「じゃ、何で決めるよ」
なぜか奢ることは確定された中で、美優は提案を促した。朋子と顔を見合わせて、二人で逡巡する。
「おみ、くじ?」
「良かろう!」
朋子の提案に、美優は胸を張って答える。
各々おみくじを取り出すと、両手で挟んで構えた。
「せーのっ!」
響いた声に、一斉に開く。
「大吉!」
「小吉」
「末吉」
美優は一人ガッツポーズを決めた。
「まって! 中吉と末吉ってどっちが下なの!?」
「神社によって違うんじゃなかった?」
「調べよう、調べよう」
二人でスマホを取り出して、我先にとググる。私が調べ終わるより先に、朋子のやった! という声が聞こえた。
負け確定を、耳と目で確認するはめになった。
「私、チョコミントー」
「私はなんにしよかな」
項垂れる私に、歓喜の声が届く。
「くそう!」
「席取ってるねー」
ご機嫌な美優は大して混んでもない席を取りに行く。
私は泣きながら、自販機に飲み込まれていく千円札を見送った。
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