第121話 誕生! DESYU SYAIZU……英語じゃないよローマ字だよなわけで

 早くもベース、ギターに加え衣装や楽器の提供そしてメイクの伝があるかもしれないことを伝える為、笠置のもとへと集まる。


 俺と夕華、きな子さんに囲まれ少し目を大きくして驚く笠置を見て、ちょっぴりだけこの子の感情の変化が分かってきた気がした。


 今の状況を説明すると、表情の変化は小さいながらも驚きから喜びに変わる。


「ありがとう……心春ちゃん。私だけじゃ……メンバー集まらなかったの……」


「わたちをメンバーに入れたのは、かしゃぎでしゅ。なりゃ、こりぇは、かしゃぎが出した結果でしゅ! わたちの力ではないでしゅ」


 喜ばれて恥ずかしいのもあって、全て笠置の手柄だと言う俺を見てフルフル震えながら笑う笠置は言う。


「心春ちゃん……やっぱり……ツンデレ。セリフがもう……ツンデレなの」


「わたちはチュンデレ違うでしゅ!」


 笠置に怒る俺の両隣がぼそっと呟く。


「こはりゅお姉ちゃんは……ツンデレ……」

「心春様は……ツンデレ……」


「間違った情報を覚えるなでしゅ! しょして喋り方をかしゃぎに寄せるなでしゅ!」


 無駄にクオリティーの高い2人の物真似に驚きつつも怒る俺を、笠置は見てクスクス笑う。


「心春ちゃん……本当に……喜怒哀楽に素直……羨ましいの」


 喜怒哀楽に素直って、感情の制御できないやつじゃん! って言おうとしたけど笠置の言う意味はちょっと違うのかなと思い、笑顔を見せる笠置を呆れた顔で見ておくだけにとどめる。


「珍しい顔ぶれで集まって楽しそうだね。なんの集まり?」


 笠置の隣の席の人、久野舞夏ひさのまいかが鞄を置きながら興味津々といった感じで尋ねてくる。横にはスーツを着たウサギ型アンドロイドのうっさ~♪ が背筋をピンとして立っている。


 俺が一通り説明した後、なにやら納得したようにうんうん頷いている。


「バンドかぁ、面白そうだね。そういや笠置って結構バンドとか好きでしょ」


「な、なぜそれを……知ってるの……完璧に……隠してたはずなの……」


「笠置が持ってるそのボンボンのキーホルダー、二年前にあったSTRAIGHT To  HELL地獄へ一直線のライブ限定のやつでしょ。私も持ってるし」


「これを見抜くとは……久野さん……できるのっ……」


 笠置の鞄についている、なんの変哲もないボンボンのキーホルダー。俺には全く分からないが二人の間では何か通じ合うものがあるらしい。

 話が盛り上がり、置いてけぼりの俺たち三人。


「……そう……マメントの……歯でギターを弾くとこ……痺れるのっ」


「まじで!? 私あれないわ~って思ったけど。それより、ハントスのドラムさばきの方が凄いでしょ。スティックを空中に投げてる間に手や頭で叩き始めるとか、もう人間じゃないなって感じだし」


 俺の肩がちょんちょんとつつかれ振り返ると、きな子さんが唇を押さえ少し困った表情をしている。


「私は歯でギターは弾けないのですが、バンドにおいて求められるスキルなのでしょうか?」


「い、いや、求められないでしゅ。ちょっと特殊なパフォーマンスでしゅから、気にしなくていいでしゅ」


 ちょっと歯でギターを弾くきな子さんを見てみたい気がするが、隣で口をイーッと開け手鏡で歯をチェックしている妹がいるのですぐさま否定しておく。この子はやりかねない。


「しょれより、舞夏。しょれだけ詳しいんでしゅから、ドリャムできたりちないんでしゅか?」


「ん? ドラム? 私はできないよ。でもうっさ~♪ がドラムできるけど。そうだ、うっさ~♪ 参加したら?」


 舞夏が隣にいるうっさ~♪ に視線を送る。

 ジェントルマンウサギことうっさ~♪ はスーツの襟をただし、深々とお辞儀をする。


「私で良ければお力になります」


 うっさ~♪ がドラムができるとは予想外だ。うっさ~♪ はニコニコと笑顔を崩さないまま、なんだか遠い目をする。


「まさか、舞夏に鍛えられたドラムがこんなところで日の目を見ようとは……なにが役に立つか分かりませんね」


「ねっ、昼休み練習した甲斐があったでしょ」


「ええ、ハリセンを持って色々なものを叩いてきた甲斐がありますよ」


 舞夏とうっさ~♪ はお互い向き合って笑っているけど、その笑顔の意味は大きく違う気がするのは俺の気のせいだろうか。


 ん? 昼休みにハリセン……前に屋上でハリセンを振り回したウサギがいた様な気がするぞ。


「ん~、うっさ~♪ だけ出すのも悪いし私もちょっとなら楽器出来るし指導を兼ねて参加しようかな。面白そうだしなぁ」


 舞夏が俺を見ると、一人頷く。


「うん、私も参加させてよ。生徒会に知り合いがいるから参加の手続きとか任せて欲しいし、メイク担当予定の楓凛さんには私からもお願いしてみるし。


 いいかな笠置?」


「うん、私からもお願いしたい……久野さんが来てくれたら……うれしい」


「じゃ、決まりってことで」


 指をパチンと鳴らす舞夏が、俺の肩を引きよせ耳打ちしてくる。


「副委員長の仕事だけなら雨宮と芦刈に任せてればいいと思ったけど、バンドの方は私が見るから。倒れない程度にシャウトしちゃっていいよ」


 背中を軽くパンと叩かれ、俺のお礼の言葉は言わせてもらえず舞夏は笠置に尋ねる。


「ところで、バンド名とかってあるの?」


 バンド名!? 全く頭になかった。すごく大切なことなのに考えもしなかった。どうする? 皆の頭文字をとってとか?


 なにか提案しようと考える俺だが。いざとなると思いつかないものである。


「あるの」


 ここで自信満々に答える笠置。さすがバンドをやろうと誘ってきただけある。思う名前があるらしい。


「このバンドが……世界に羽ばたく為には……心春ちゃんを全面に押すべきなの」


 ん? 今なんて言った? 世界に羽ばたく? どういうこと?


「幼女がシャウト……観客を舌足らずで煽り……魅了し……そして地獄へ落とす名前なの」


 俺の目指すべき方向が全く分からない。


「『でしゅ しゃいず』……地獄の大鎌を舌足らずで表現してみた……ひらがなは可愛い……ローマ字表記だとカッコいいかもなの。そうそう……『でしゅ』には、死を意味する『デス』と心春ちゃんの口癖『でしゅ』が掛かってるの……」


 どっかの有名なロボットの黒い死神のような名前である。自信満々な笠置の顔を見ていると否定する気にもなれないし、他に名乗りたい名前もないが一番気になることを確認する。


「かしゃぎは、自分のバンドなのに、わたちがじぇんめん全面に出てていいんでしゅ?」


「うん、今後の戦略を考えたら……これがベスト。それにこの名前が……私たちらしい気がするの」


 何の戦略かは知らないが、笠置以外のメンバーも納得しているようなので、これで決定でいいだろう。


 この瞬間から俺らは『DESYU SYAIZU』となってバンド活動が本格的に始まるのだった。


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 次回


『初めまして、彩葉の彼氏です! よろしくお願いします。なわけで』






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