第122話 初めまして、彩葉の彼氏です! よろしくお願いします。なわけで
別にクラスメイトと話さないわけではないが、積極的に関わらない。それは昔からで、今も変わらない。
冷静に考えるとクラスからちょっと浮いているのかもしれない。
そんな自分が上級生のクラスに行って、他の女子と先輩を取り合う。
結果告白され、彼氏持ちになる。
ハッキリ言って目立つ!
クラスでは直接言ってはこないが、噂されているのを感じる。
まあ、そんなことを気にしても仕方ない。積極的には関わらないのが私だ。そう思い無視を決め込んでいる。
ただ、先輩と付き合いだして、お母さんと話す機会も増えたし想像以上に得たものもが大きいと思う。それにこれからのことを考えるとウキウキするのは自分が浮かれている証拠なのだろう。
まさか自分がこんな気持ちになるとは思いもしなかった。
でも平常心である。このクラスでの立ち位置を変える気はない。
コロコロと変わる心を落ち着かせようと大きく息を吐く。
「茶畑さん?」
突然声を掛けられ、驚きを必死に隠しながら前を見ると、クラスメイトの
私と目が合うとクスッと笑ってプリントを机に置く。プリントにチラッと視線を移すとクラスの文化祭で使う自分たちの住む街の歴史の資料だ。
街の歴史を分担して調べ、まとめる役を自分が担っているから持ってきたのだろう。
「茶畑さんが、ぼんやりしてるの珍しいね。いつもピシッとしてシャカシャカ動いてる感じなのに」
なんだその虫みたいな擬音は。とか思いながらも当たり障りのない笑顔で答える。
「文化祭に使う資料だよね。ありがとう井上さん。後は私がまとめておくから」
普通ならこれで、プリントを置いて帰っていくのだが、井上さんは帰らない。寧ろ、プリントはついでで本当の用事があるかのようだ。
嫌な予感がする。
「ちょっと噂で聞いたんだけどぉ。茶畑さん上級生の人と付き合ってるって本当?」
やっぱりそれかっ!
夏休み終わりから付き合いだして、新学期になって2週間程度。直接聞かれず噂に止まっていた日々。よく持った方なのかもしれない。
嘘を付いても仕方ないし、あくまでも冷静にを心掛け答える。
「うん、夏休みの終わりくらいからね」
「へえ、へえ~。うん、うん、そっかそっか」
井上さんが感心したようにしきりに頷く。
「で?」
「で? って?」
で? だけで分かるわけないだろう! そう突っ込みたい気持ちを抑えながら冷静に質問に質問で返す。
またまたぁ~みたいな笑みを見せる井上さん。
あぁ~察した。もう察したっ! その表情の意味することはあれだ。
「ほらぁ付き合って、男女がすることって言えばぁ……ねっ?」
やはりそれか。何が「ねっ?」だ大体付き合ってそれしかないことはないだろう。
……いや男の場合それもあるのか。だけどトラ先輩は違う……はず? うん、あの人は違うと信じてる。
「私も気になるな!」
ここでクラスメイトの、
こいつら聞いてやがったな。よく見ると、周囲のギャラリーも気にしていないフリをして私の発言に耳を傾けているのを感じる。
「ああそういうの──」
「キス! キスはしたの!!」
否定する前から被せてきやがる。正直めんどくさい。
どうにもこういう話題は苦手で、なんと返せば無難に会話を終了させれるのだろうか。
私を囲む3人を見上げどうしたものかと悩んでいると、教室が一瞬ざわっとし、空気が変わると「失礼しま~す」聞きなれた声が聞こえて、その声の主が私の横にやってくる。
「彩葉。遅いから迎えに来たんだけど……文化祭の打ち合わせ中だった? 外で待ってるからゆっくりで良いよ」
私の机にある資料を見てそう判断したのであろう、私が付き合っている人。彼氏と言えばいいか、
虎雄とか強そうな名前であるが実際は、ふんわりとしてて優しい人だ。頼りないかといえばそうではなく、芯の強いところもあって頼れる人……ってのろけか。
一緒に帰ろうと約束していたが、時間を過ぎても来ないので迎えに来てくれたのだろう。
嬉しいが、今はタイミングが悪い……。
私の前にいた3人は既にトラ先輩にターゲットを移している。
「あのっ、先輩! 茶畑さんと付き合っているんですよね」
「うん付き合ってるよ」
私が言葉を発するよりも先に佐野さんがトラ先輩に尋ね、付き合ってるの答えにみんなが「おおぉ」って感じで色めき立つ。
ってこういう質問にも焦ることなく、自然に答えれるのが凄いと思う。
「じゃあ、もうキスとかしたんですか?」
「してないよ」
「え~そうなんですね。それじゃあ、したいとかって思わないんですか?」
「そうだね。したいって思うよ」
ぶふっっつ!?
思わず吹き出してしまう。
女子たちを中心にもう聞いているフリとかじゃなくわらわらと集まってくる。
「でもね。キスとかはお互いの了承得て、後はタイミングが大事だって思うんだ」
「先輩は、茶畑さんを大切にしてるんですね」
井上さんの言葉にもちろんとばかりに爽やかな笑顔で頷く。やばい、さっきの不意打ちで止め損ねた。これは危険だ!
私の勘がそう告げる。
「もちろん! 彩葉はボクにとって大切な人だもの」
「ちょっと、トラ先輩……」
私の言葉を遮るのは狙ってなのか、たまたまなのか。いつの間にか増殖してトラ先輩を囲むクラスの女子たちによって阻まれる。
「え、どこが一番可愛いか? それはねぇ笑ったときなんだけどね、面白くて笑ったときももちろん可愛いんだけど、お弁当おいしいよって言ったときに見せる笑顔が特に可愛くてねぇ」
何を言ってんだあの人は!?
「うん、ボクには持っていないものいっぱい持ってるし、すごく優しいんだよ。──うん、そうだね。──うん! もちろん好きだよ」
あわわわわっ!?
私は思わず立ち上がるとみんなを押しのけて、ズカズカとトラ先輩のもとに向かう。
「何を恥ずかしげなもなく、包み隠さず話してんですかっ!!」
恥ずかしくて、カアッとなった私は、ついトラ先輩の足を蹴ってしまう。
「ごめんっ! ごめんなさい! 本当に可愛いし、好きだから嘘つけなくて」
「だぁっ!? それが恥ずかしいっていつも言ってんじゃないですかぁ!」
謝るトラ先輩の鳩尾に私の突きが入って気が付く。
教室がしーんとしている。
これは勢い余ってやってしまったかもしれない。今の私の行動を見て明日から皆の態度が変わるかも、それも悪い方に……
「茶畑さんって、結構面白い人なんだぁ。顔真っ赤にして恥ずかしがるの可愛いし」
「うん、彼氏さんが可愛いって言うの分かる気がする」
「先輩もすごくいい人だし、優しそうだもんね。それにさっき
「えー、うらやましい~! いいなぁ、いいなぁ!」
教室が花満開といった感じでぱあっと明るくなって、後はただただ騒がしいだけだ。私とトラ先輩は囲まれ、質問攻めに合うわけである。
途中でトラ先輩を引っ張って逃げたけど……。
明日から大丈夫かな? まあ何とかなるでしょっ。
勘だけどトラ先輩が関わって不幸になることはない気がする。
これは間違いなくのろけだっ!
私が引っ張っていたのに、いつの間にか追い付かれ手を繋いで帰ることになる私は、楽しそうに歩くトラ先輩の顔を見て笑ってしまうわけである。
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次回
『トラの挨拶はまだ続くわけで』
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