第118話 バンド? しようぜ? マジで? なわけで
來実が出した業務用たこ焼き器の説明書と、珠理亜の持ってきた書類と照らし合わせる。
「プロパンより電気式の方が学校の許可下りやすいんだろ?
「それは助かりますが、こんなに立派なのを借りてもよろしいのかしら?」
「ああ、電気式は使ってないから良いって、心春の方はどうだ? レシピ決まりそうか?
材料の方も私の方で安く仕入れれると思うし、把握しておきたいんだけど」
來実に振られ、俺は自信満々で数枚のレシピを差し出す。
「どうでしゅ、
俺が厳選したレシピを來実と珠理亜が交互に見ているのを、見ながら背中に突き刺さる視線に気付かない振りをする。
「私は良いと思う。みんなが交代で作るから、味のバリエーションを既製品ありきでやるのはありだと思う」
「わたくしは料理には詳しくありませんから、來実さんが言うなら間違いないのでしょうね。
心春さんの選んだレシピで、進めていきましょう。
では、今日はここまでにいたしましょう」
順調に進む模擬店の計画に3人で同時に安堵のため息をつく。
そして、ため息をついてすぐに來実と珠理亜が俺をキッと見て同時に尋ねる。
「後ろのヤツなんなんだ? 視線半端ないんだが! 気が散って仕方ねえよ」
「なぜあの方はずっとドアの隙間から覗いているのです?」
2人が指摘する人とは、教室のドアの隙間から顔を半分覗かせ、俺にじ~っと視線を送っている
「え、えっと……話があるとかで待ってるみたいなんでしゅけど……あんまり気にしないでくだしゃい」
「いや、そう言われてもな。なあ?」
「ええ」
來実に振られ大きく頷く珠理亜。気にするなと言われても無理だよなと、どう説明したものか悩んでいると、
「雨宮さん、芦刈さん……気にしないで欲しいの……心春ちゃんと……魂の開放をするだけ。心春ちゃん連れてく……なの」
「うひゃ!?」
「うおっ!?」
「ひっ!?」
先程まで教室の後ろのドアから覗いていたはずなのに、いつの間にか俺の隣に座っている笠置に3人同時に悲鳴を上げてしまう。
そして俺は脇を抱えられ持ち上げられると、ひょいっと肩に担がれる。
見た目の細さに反してパワフルなこの子は何者なんだ?
それにだっ!
「な、なん、この持ち方なんでしゅ! なんか屈辱的でしゅ!」
笠置は首をちょっと傾げた後、少し目を大きく開く。
どうやら彼女の表情の変化から察するに何かに気付いたようだ。
「うん……大丈夫。スカート押さえてるから見えないよ……バッチリなの」
「い、いやそういうことじゃなくてでしゅね!」
「心春ちゃん……いっぱい話したいの……私と一緒。……慌てない、慌てない……ふふっ」
「ちげぇっ、あうっ! あ、うえ、ぅわぁぁぁぁぁ」
慌てる俺を嗜めると、笠置がすいすいと歩きだし、助けを求めて2人に手を伸ばすがあっという間に來実と珠理亜から離れて行ってしまう。
笠置の揺れのない移動で下駄箱まで連れていかれると、やっと下ろしてくれる。
「全く、なんなんでしゅ」
「心春ちゃん……今から私の家……行くの」
スカートを叩いてシワを乱れを戻す俺が、文句を言っているのに勝手に話を進める笠置。
「話ちならここでも良いでしゅ。
わたちはオカリュトと無縁な体なんでしゅよ」
「家に来たら……すぐ分かる。私、説明下手なの……家だと……お手軽、早い、簡単……だから来て欲しい……いやなの?」
「嫌どうかって聞かれたら嫌でしゅ。でもまあ、
クラスで全く目立たない笠置が、俺に必死に……些か強引に話し掛けてくるんだ。話しくらい聞いてやろう。本当にそう思うのもあるが、本心は早く終わらせたいという方が強い。
腕を組んで、片目でチラッと笠置を見ると、首を傾げ俺をジッと見つめている。
そしてポツリと一言。
「心春ちゃん……ツンデレ?」
「ちげーでしゅ! もうめんどくさいヤチュでしゅ! 早く家に行って話ちやがれでしゅ!」
「ふふっ……慌てないで。心春ちゃんの……せっかちさんなの」
「しぇっかちさんなんて、いうヤチュ初めて見たでしゅ! もう早く行くでしゅ」
これ以上笠置と会話してもイライラするだけな気がするので、靴を履くと爪先で地面をパタパタ叩いて「早く行こう」と促す。
そんな俺を見てクスクス笑いながら笠置はついてくる。
大方俺が乗り気になってるとか思っているのだろうが、口に出すとめんどくさいので黙って笠置の案内に従うことにする。
しばらく歩くと、普通の家に案内される。
ちょっと、とんでもないホラーハウス的なのを想像していたので、普通の外見に胸を撫で下ろす。
「お父さんもお母さんも……仕事でいないから安心なの……」
何に安心するんだ? 親がいた方が……安心……とも言えないか。
深く考えないようにして、2階に上がると笠置の部屋の前に案内される。
普通の扉には『りり』と可愛らしいネームプレートが掛かっている。
その様子に安心感を覚え、先に入った笠置に続く。
が……
「な、なんでしゅここは。地獄でしゅか……」
笠置の部屋の物は黒で統一されており、ちょっとホラーテイストなポスターや、バンドマンのポスターが貼ってある。
エレキギターやら、スピーカーなど音楽関係のものが目につく。
そしてそれらの隙間に銀のチェーンや、ドクロが掛けられたり、棚に並んで無駄に存在感をアピールしてくる。
LED内臓と思われるキャンドルが四隅に立ってぼんやりと部屋を照らし、蛍光塗料でも付いているのか、これまたぼんやり光る魔方陣らしきポスター。
俺は学習机だと思われる黒い布に覆われた物体に近付くと、上に置いてある手のひらサイズのドクロが積んでピラミッド状になっているオブジェを突っついてみる。
センサーでも付いているのか、目と口からぼんやり光を180度方向へ放ち始めるドクロたち。
「天辺のヤツを撫でると……光が強くなるの……」
笠置に言われてピラミッドの頂点のドクロの頭を撫でてみるとカッと目と口から出る光が強くなる。
「勉強するとき活躍……できる子たちなの」
「普通の電気スタンド使いやがれでしゅ!」
いつもの調子で思わず強めにツッコミを入れてしまい、ハッとし笠置を見ると両頬に指先を当てて小刻みに震えメガネの奥の目を丸くして俺を見ている。
ヤバい傷付けたか……
「心春ちゃん……優しい。私の目が悪くなるの……心配して……お母さんにもよく言われるの」
「あ~はいはい、もういいでしゅ。無駄にポジティブと言いましゅか。
しょれより、わたちに用事があるんでしゅよね。シャクっと終わりたいんで言ってくだしゃい」
俺に言われて笠置がいそいそと紙を持ってきて広げる。
そこにはこう書いてある。
『文化祭 バンド、お笑いライブ出場者募集!! ~君がこのライブの主役だ!!~』
その文字を指差して笠置は言う。
「心春ちゃん……一緒に……バンド……しよう……ぜなの」
俺は答える。
「マジで?」
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次回
『バンドメンバー募集中なわけで』
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