第90話 真の女子会が始まるわけで

 <8月24日・AM6:00>


 楓凛は日課である早朝のランニングを終え、クールダウンする為に軽く公園内を歩く。

 何となく気になって、右を何度も見てしまう。


 少し前まで右隣にいた虎雄。出会ったのは6月中旬。

 道場にやって来て、弟弟子ができたーって喜んで、一緒にトレーニングなんかして過ごして、話していくうちに何となく引かれていって告白までした。


 恋愛とかあまり興味ないって思っていたけど、実はこんなにも自分は惚れやすかったのだろうかと驚くばかりである。

 告白してから一緒に走るのは止めた。答えも聞いていないのに一緒に過ごす、それは出来なかったから。


 でも、ひなみの話を聞いた後では、多少厚かましいくらいでないといけないのかもしれない。答えは必ず出すと言ったトラの言葉に安心していたが、今の自分の置かれている状況を考えれば失敗かもしれない。


 相変わらず考えの纏まらない自分の頭を恨めしく思いながら、公園の外にある自動販売機に向かう。


 そこで足を止める。


 自動販売機に寄りかかる金髪の少女は、楓凛を鋭い眼光で睨む。

 ギャルの見た目と、少し怒ったように見える表情に楓凛は身構える。以前学校に行ったとき、何度か見たことあるが、直に話すのは初めて。


 警戒する楓凛と、初対面の人に話すのが苦手で緊張している金髪少女の來実との間に緊張感が走る。


 張り詰めた空気の中、來実は手に持っていたスポーツドリンクを投げる。それを受け止める楓凛。


「ちょっといいか? あっいや聞きたいことがあるんですけど、えっと時間よろしいです?」


 來実の不馴れな敬語が楓凛の逆に警戒心を煽ってくる。


「なんでしょう……」


(たしかこの子も虎雄くんのことを好き。ならあれだ! ライバルを消すやつだ! 闇討ちだっけ? やらねばやられる! いけるか! いけるか楓凛!!)


 楓凛が戦う覚悟を決めようとしているなどと、知るよしもない來実はポリポリと頬を掻いて口をモゴモゴしている。

 

 このとき來実は


(やべえな、どうしていいか分かんなくて、思わずジュース投げちゃったけど、印象最悪だよな。どうしよう、お姉さんなんか警戒してるし、あ~、後先考えずに動いてしまう私のバカヤロウだ!)


 などと考えていた。


「と、虎雄くんのことかな?」


 探るように楓凛が尋ねる。


(もし飛び掛かって来たら、避けて逃げる! 打撃は後々問題になるからやらない……右? 左? 意外と上かも! 落ち着け、落ち着け楓凛)


「虎雄は……関係ない訳じゃないけど、今日は心春のことで、あっ……ですけど」


「心春ちゃん?」


 楓凛の想像していた答えと違ったので、少し気が緩んで落ち着きを取り戻す。


「えっと、お姉さんの友だちって、舞夏のお姉さんであってますよね?」


「舞夏ちゃん? ってことはひなみのことかな?」


「あ、名前は知らないけど、たぶんあってると思います。それで心春のこと、何か聞いてないかなって」


「ひなみから?」


 ひなみの心春に関する発言を思い出す。



「心春ちゃん可愛い!」「幼女萌えっ!!」「たまらんわー、あの姿と性格、たまんないわーっ!!」「萌えっ! 萌えっ!」



 楓凛は、ひなみの顔を掻き消すように首を激しく振る。


「……ごめん、特になにも聞いていないかな……」


「そ、そうですか」


「何かあったの?」


 至極当然な質問、予想された質問の答えを用意していた來実はスムーズに答える。


「いえ、最近心春、元気ないからちょっと気になって。何もないならいいんです。時間とらしてすいません」


 そう言って背を向け帰ろうとする來実の肩を、楓凛が掴む。


「それなら、ひなみは関係ないよね? 何でひなみの名前が出てくるの? あなたの知ってること聞かせてもらえるかな?」


 ちょっと目の座った楓凛に自分の行動の浅はかさを後悔する來実。


 * * *


 <同日・AM6:20>


 彩葉は台所でお弁当を作りながら、寝ている母親を起こして、寝ぼけている母親に朝食を出す。


 お弁当を作る彩葉に、寝ぼけ眼の母 、虹花ななかは声を掛ける。


「今日も行くの?」


「あ、うん、まあねっ」


 茹でたブロッコリーを詰める彩葉は、背中を向けたまま答える。


「ふ~ん、ねえ今度その彼氏を連れて来てよ。お母さんも会ってみたいなっ」


「ん? 彼氏じゃないよ。付き合ってないし」


「うおっ、我が娘ながらドライだ! でもさ、こう思いの丈は伝えたわけだし、もう8割方彼氏と言ってもいいんじゃない?」


 ご飯を冷ます為に、弁当箱を保冷剤の上に置くと、急須から湯呑みにお茶を注ぎテーブルに座る。


「8割ってそれ彼氏じゃないじゃん。10割で初めて彼氏になるんじゃないの?

 それに思いの丈って、他に3人いるわけで、みんな言ってたら意味ないじゃんっ」


 ぐだぁ~とテーブルに伏せる彩葉は、数日前のことを思い出す。



 ──祭りの後、自分の思いを伝えてからなんとなく会いにいくことを躊躇してしまい、4日たった。


 その日はおばあちゃんのお店に早朝から、業者の人が来てお茶の葉がまとまって入荷するから、手伝いに行く途中だった。


 いつもの道を歩いていたとき、向かいから走って来たトラ先輩とばったり出会う。

 驚きつつも話を聞くと、最近走るコースを変えたと言った。


 おばあちゃんの家の手伝いに行くんだと話したら、トラは手伝うと言って、一緒に歩く道すがら他愛のない話をして手伝いが終わったら、帰っていった。


 それだけ、でもなんとなく次の日も同じ道に行ってしまう。約束しているわけではないので、なんとなく。

 出会えたらラッキーだ、とか思っていたら出会ってしまう。


「今日もおばあちゃんのお手伝い?」


 そう聞かれ


「散歩です。最近運動不足ですから」


 と素っ気なく返したその日から約10分程度一緒に歩いている。昨日は雨だったから散歩は中止。

 1日ぶりの散歩に向かうため食器を急いで片付けると、お母さんと一緒にアパートを出る──


 少し足早にアパートの階段を降りる娘を見て母親は呟く。


「がんばれっ」



 ────────────────────────────────────────


 次回


『真の女子会が始まるわけで ~しょの、に!』


 全然文字数が収まりません。はい、なので、~しょのなにまでいくかは未知数です笑

 いつ女子会始まるんでしょうか……6、7人分の心境書いてたら精神崩壊しそう笑

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