第91話 真の女子会が始まるわけで ~しょの、に!~

 <8月24日・AM6:40>


 雨宮家の朝は早い。


 経営者たるもの朝の仕事が大切だという父、建造の教えに従い珠理亜は早く起きて、鏡台の前で長い髪を櫛でといている。

 部屋の扉がノックされ、返事を返すと、きな子が入ってくる。


「お嬢様、朝食の準備が出来きました」


「ええ、今いきますわ」


 身支度を整え、食堂に向かう途中、きな子は珠理亜を見るとその視線に気付いたのか、珠理亜も目を向け視線が交差する。


「どうしたのかしら、そんなに見て? 言いたいことがあればなんでも言って構わないですわ。わたくしに対して、きな子の発言に制限はかけていないですわよ」


 そう言われたきな子だが、それでもちょっと躊躇するように尋ねる。


「お嬢様、あれ以来虎雄様に会いに行ってませんが、よろしいのですか?」


「……わたくしの思いは伝えましたわ。そして答えを待つと言ったからには、じっと待ちますわ。結果を急いでも仕方ありませんわ」


 澄ました顔で廊下を歩く珠理亜に、きな子は言いにくそうに言葉を続ける。


「2日前になりますが、虎雄様と彩葉様が、『早朝イチャイチャ2人で歩みを合わせて未来へ向かってウォーキング』していると情報を得たのですが」


「なっ!?」


 目を丸くして驚く珠理亜は、きな子の肩を揺さぶる。


「どこ情報ですの? 誰が見たんです!」


「宮部さんが、早朝に旦那様を送る道すがら見たと、先程教えて頂きました」


 珠理亜によってガタガタ揺らされながらも、表情はそのままきな子は答える。


「宮部が? 何ですぐわたくしに……いえ、気を使って言えなかったのですわね」


 ぐぬぬと唸る珠理亜にきな子は声を掛ける。


「どうされます、お嬢様?」


「もちろん行きますわ!」


 きな子の問いに、当然と答える珠理亜。


「朝食を早めに済ませて行きますわよ。きな子、準備をお願いできるかしら?」


「はい、すぐに」


 颯爽と準備に取りかかるきな子と、如何なるときも朝食は抜かない珠理亜。



 <同日・AM7:00>


 俺はノートパソコンをパタンと畳むと時計に目をやる。綺麗に7時を差していて、秒針までジャストの瞬間だった。


「今日は良いことがある気がするでしゅ」


 俺がノートパソコンを打っている間、邪魔をしないように隣にいた夕華がいそいそと近づいてくる。


「こはりゅお姉ちゃんは、パソコンで何を打っているのですか? 差し支えなければ教えて欲しいです」


「ん? う~ん、なんと言いましゅか、大切なこと? でしゅかね。中身は教えれないでしゅけど……そうでしゅ夕華、わたちとひみちゅ秘密を共有しましぇんか?」


「秘密ですか?」


 しっかり、『ひみちゅ』を『秘密』に変換してくれる、優秀な妹に関心しながらUSBメモリを渡す。


「これは?」


「このノートパソコンはわたちの承認なしでは開かないでしゅ。でも、しょれがあれば、パシュパスワードを打ち込んで開くことができるでしゅ」


 不思議そうにUSBメモリを眺める夕華。


「パスワードは教えていただけないんでしょうか?」


「しょこは、ひみちゅでしゅ。でも大しぇつな鍵を夕華に預けるでしゅ。お願いできましゅか?」


「鍵、秘密……分かりました、大切に保管します」


 夕華は立ち上がると、自分のポシェットへ大事そうにUSBメモリを入れる。

 少し嬉しそうに微笑んでる表情に、嬉しくなった俺は夕華に声を掛ける。


「夕華、しょの鍵を守ってくれるお礼がしたいでしゅ。なにかないでしゅか? そうでしゅね、ほちいものとか?」


「欲しいものですか?」


 少し考えた夕華は、俺の頭を指差す。


「こはりゅお姉ちゃんのネコの髪留めと同じのが欲しいです」


 俺はいつも頭にご健在するネコの髪留めに触れる。


「これでしゅ? 500円くらいの、やしゅい安いやちゅでしゅよ。遠慮しなくていいでしゅ、もっと良いの買えるでしゅ」


 お金の使い道はあまりないのに、お小遣いはトラと同額、いやそれ以上もらう俺は小金持ちになっているのだ。


「いいえ、遠慮はしてません。私はそれが欲しいのです」


 いつになく食い下がってくる夕華。


「分かったでしゅ、今度一緒にファンチィーショップへ行くでしゅ」


「はいっ」


 凄く嬉しそうな表情を見せる夕華を見ていると、何でもしてあげたくなってしまう。

 お姉ちゃんに任せなさい! そう言いたくなる。



 <同日・AM7:05>


 彩葉は川沿いを歩きながら、自分を目の前をピョンピョンと跳ね小鳥に先導され歩く。もちろん本当に先導されているわけではない。

「鳥なのに、なぜ飛ばない!」そんな突っ込みをして欲しいのではなかろうか、そんなくだらないことを思いながら歩く彩葉の足取りは軽い。


 5分前迄一緒にいたトラとの会話を思い出す。といっても、主におばあちゃんが飼っている猫のドランカーの話。

 他愛のない会話の話を思い出しながら歩くと、土手の下にある公園でよく見る顔があった。


「ほんと何でもないですから。ちょと気になっただけなんだ!……です」


「ううん、絶対なにか隠してるよね。教えてくれるまで帰さない!」


 來実と楓凛の珍しい組み合わせに興味を持った、彩葉は気付かれないように2人に近づく。



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 次回


『真の女子会が始まるわけで ~しょの、しゃん!~』


 みんな朝早いな。そう思いながら書いています。

 朝のランニングの時間に合わせたらこんな時間設定になりました。夏のランニングならもっと早い方が良いのかもしれませんけど。

 女子会始めたいから、早くみんな集まらないかな? って私が一番思っています笑









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