第92話 真の女子会が始まるわけで ~しょの、しゃん!~
<8月24日・AM7:05>
來実の袖を楓凛が掴んで離さない。
「そもそも、なんで私とひなみが知り合いだって知ってるの?」
「あ、いえ、一緒にいるの、その見かけたことがあるし、あるんです。本当にそれだけですって」
知っていることを吐けと言い寄る楓凛は、たじたじの來実に疑いの目を向ける。
「本当に? なんか怪しいなぁ。それにさ、普通、心春ちゃんのことが気になるなら、本人や虎雄くんに聞くよね。なんで私に聞くの? それって聞きづらいからだよね?」
「うぐぅっ」
來実は楓凛に何となく聞いて、知ってれば聞けばいいし、知らなければそれだけと思っていたが、世の中そんなに単純じゃないと、改めて自分の行動の浅はかさを痛感してしまう。
短い沈黙が続く。
「來実さん……と確か以前学校でお見かけした方ですわよね?」
沈黙を破った主である珠理亜に、2人は注目する。後ろにはきな子が立っており、丁寧にお辞儀をされるので、つられて來実と楓凛もお辞儀をしてしまう。
「お取り込み中申し訳ありませんが、彩葉さんを見かけませんでしたか?」
「彩葉?」
「彩葉ちゃん?」
2人が知らないと首を横に振ると、珠理亜は少しだけ不服そうな表情を見せる。
「彩葉がどうかしたのか?」
「いえ、彩葉さんが、虎雄さんと早朝から、2人で未来に向かってウォーキングしていると情報を得ましたの」
そう答える珠理亜に楓凛は、興味を引かれる。
(あれ? この子、もしかして不思議ちゃんなのかな? 未来に向かってウォーキングって変わった表現をする子だなぁ。
そういえば前に隣のメイドさんが『虎雄様のハートを掴んで虜にしちゃおう。その前に小姑心春様のハートを鷲掴みっ♪』とか言ってたけど、あれはこの子のセンスなわけかぁ)
楓凛の視線に気が付いた珠理亜は、その好奇心に満ちた目にちょっと引いてしまう。
(え、なんですのこの方。なんでこんなにわたくしを見つめて……たしかこの方、一番最初に、心春さんのハートを掴もうの会に参戦してきましたわ。
その積極的態度、それを考慮すれば、この視線はわたくしへの威嚇なのかもしれませんわ!
優しそうな方のように見えて、油断なりませんわ!)
キッと強めに視線を返す珠理亜に、視線があったことで微笑み返す楓凛。2人の間に微妙な空気が流れる。
來実はこの思わぬ珠理亜の出現を好機と、少しずつ後退って、撤退を開始する。
「來実様、どちらへ?」
こっそり帰ろうとする來実だが、きな子によって阻まれ、それは叶わぬ夢となる。
「いや、ちょっとな。あ、彩葉探してんだろ? その辺にいるかも知れないし、探そうかなぁってな。
案外近くにいるかもって……」
公園内の歩道に沿って植えてある垣根を適当に探す振りをする來実は、小さな体を丸めそーっと逃げる彩葉を発見する。
「お前、なにやってんだ?」
「ああぁ~、見付かっちゃったかぁ」
3人の視線を集めて、彩葉は罰が悪そうに笑う。そんな彩葉をビシッと指差し珠理亜は問いただす。
「彩葉さん、虎雄さんと毎朝一緒にウォーキングをしていると聞きましたわ! あなたと虎雄さんの関係はどうなってますのかしら?」
「ウォーキング? あぁ、未来に向かってなんちゃらって言ってたヤツですか? たまたま朝一緒になったから、歩いていただけですけど」
少しきつめな視線を送る珠理亜に対し、笑っているけど目は笑っていない彩葉の視線が、ぶつかる。
「虎雄さんと付き合っているならそうだと、公言してくれなければ、答えを待つわたくしが滑稽ではないですか!」
「トラ先輩とは付き合ってないですけど。それより答えを待つって、雨宮先輩告白したんですか?」
人は恥ずかしいとき、一瞬で真っ赤になれるのか? その疑問に対し、身を持って答えを示してくれた珠理亜は、真っ赤な顔で頭に湯気を上らせる。
「ははぁ~ん、告白したんですね。今はその答え待ちというわけですか」
「え、ええ、しましたわ、しましたとも! い、彩葉さんはど、どうなんですの?」
「わ、私!? 告白なのかなあれは……今の気持ちを伝えたというか、なんというか……じゃあじゃあ、楓凛さんはどうです?」
「えっ!? わた、私も? えっとまあ」
顔を真っ赤にして、問い詰める珠理亜に、頬を朱に染め頬をトントンと指で叩く彩葉は、楓凛に話を振る。
振られた楓凛も驚きながらも、恥ずかしそうにこくこくと頷く。
そのまま自然に3人の視線は來実に向く。
「わ、わわわ、私はし、してないぞ! 何もしてない」
疑いの目を向ける3人に対し、本当に告白していないのに、否定すればするほど疑われる來実。
「こんなところで、騒いでたら迷惑だろ? もう帰ろう、な?」
「それもそうですわね。全員が集まったことですし、場所を移して女子会を行うことを提案しますわ」
「あ、良いですね。近況報告を兼ねてやりましょう。芦刈先輩の言う、こはりゅの話も気になりますしっ」
「そうだねぇ、私も色々聞きたいことあるし。女子会賛成!」
來実は帰ろうと言ったつもりだが、逆に逃げられなくなってしまう。
そんな悩める來実を余所に、会場決めが行われ、早朝ということもあり、ファミレスに決まる。
「や、やっぱり私も行かなければダメか……な?」
歯切れの悪い來実の腕を、珠理亜が引っ張るが、來実の足は重い。
「女子会やるなら、進行役が必要じゃないですか? 私らの進行役と言えば、こはりゅしかいないと思うんですけど呼びませんか?」
彩葉の発言に更に足取りの重くなる來実。そんな來実を見て、彩葉はため息をつく。
「芦刈先輩に何があったのかは知りませんけど、こはりゅに直接聞いて、本人が言いたくないって言ったら、それ以上は追求しない。それでどうです?」
「それなら……」
來実はチラッと楓凛を見ると、楓凛も頷いて答える。
「私もそれならいいけど」
「わたくしも問題ありませんわ。流石に今から心春さんに連絡するのは、早すぎますので、11時に集合しようと思うのですが、いかがかでしょうか?」
珠理亜の提案に皆が頷く。
こうして心春の知らぬところで女子会の開催が決定し、等の本人は呼び出しがかかるとは、全く思っていないわけである。
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次回
『真の女子会開催なわけで』
ようやく始まる女子会です。最近のんびり更新ですが、お付き合いいただければ幸いです。
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