第89話 親友は助言するわけで
地下街にある紅茶専門店に併設されたお店で、
そんな彼女の横にやって来た女性が話しかける。
「ほんと好きよね、それ」
「わっ! ごめん、遅れるって聞いたから先にお茶頼んじゃった。ひなみもいる?」
「ああ、うん。あんまりお茶って分かんないんだけど、何がおすすめ?」
ひなみは、楓凛の前にどかっと座ると、店員さんを呼んで楓凛に聞いたお茶を頼む。
蒸らしたり、その過程に関心しながらひなみは紅茶を口にして、一緒に頼んだスコーンを頬張る。
「ほうんでさぁ、もぐ、がりんわあ、どらうぉぐうんとどじたわけ?」
「ごめん、なに言ってるか分かんない」
ひなみは紅茶でスコーンを流し込むと、ポットから次の一杯をカップに注ぐ。
「いやさ、虎雄くんとこの間海に行って、どうなったかって私まだ聞いてないんだけど?」
「うぐっ、それって、ひなみに報告しなきゃいけないなの?」
「いやぁ、いけなくはないけど、私が興味あるからねえ」
躊躇する楓凛に、然も当たり前と答えるひなみは、2つ目のスコーンを頬張るとモグモグと口を動かしながら楓凛を見つめる。
「……」(モグモグ)
「……」
モグモグの音が2人の間を支配する。
「……告白した」
ボソッと答える楓凛。ひなみは紅茶に口をつけ、ソーサーにカップをトンっと置くと目を楓凛に向ける。無言だが目は「それで、それで?」と訴えかけている。
「返事はまだ……正直、無理かなと……いったところです、はい」
ひなみは3つ目のスコーンを口に頬張る。
「……」(モグモグ)
「……あの」
沈黙に耐えかねた楓凛が声を掛けると、首を傾げるひなみ。
「いや、なにかコメントないのかなあって」
2杯目の紅茶をゆっくりと飲むと、カップをソーサーへカチャリと置く。
「うーん、ないね」
「ひ、ひどい……」
項垂れる楓凛。
「恋愛絡みは専門外なわけでさ、将来的にアンドロイドも恋をするってなれば勉強しなきゃだけど。
まあ、恋愛なんてのが一番予想もつかない行動や事象を起こすから、面白いものではあるんだけど」
空のカップに3杯目を注ぐと少しだけ口をつける。
「へえ、後半ほど味が濃くなるわけだ。コーヒーとはまた違った嗜好が面白いもんだね」
ひなみは感心しながらカップの中身を見ると楓凛の頭を突っつく。
「楓凛は、虎雄くんのどこが好きなわけ?」
「な、なんで突然……どこが? ってほら、素直で優しいところとか、こう……私をちゃんと見てくれるっていうか、ね?」
しどろもどろながらも、答える楓凛。
「恋愛はよく分かんないでけどさ、今の虎雄くんって4人の子からアプローチされているわけでしょ。そんな漫画か、ライトノベルみたいな状況にいる彼が何を基準に選ぶと思う?」
楓凛は分からないという代わりに首を横に振る。
「普通に考えてさ、4人から選べて言われて明確な差なんてないと思うんだよね。そりゃあ性格や、外見の好みってのはあるかもしれないし。
お金や、家庭環境なんて要素も関係しないこともないけど、虎雄くんそこは気にしなさそうだものね。
じゃあさ、何が決め手になるかって言えば、どれだけ彼の気持ちに積極的にアピールして入れるかじゃない?
楓凛、待ってる余裕って意外とないかもよ。
後の2人は知らないけど、この間会った彩葉ちゃんは要注意だって感じたけどな。
出し抜けとは言わないけど、もう一押ししたらどうかな? ってのが私の意見」
「う、確かに……告白してやりきった感があった。後は結果待ちみたいな。うん、ありがとう」
「いえいえ、美味しい紅茶教えてもらったお礼ってことで」
ひなみは紅茶の入ったティーカップの飲み口を爪でコンコンっと叩いて、波紋を眺めるがすぐにスマホを取り出し、時間を確認すると立ち上がる。
「おっと、先生のとこ行く時間だ。悪いけど行くね」
「先生って、
「そそっ、ちょっとご教授願いたいことあってさ。お金置いとくね、アッサム美味しかった、じゃっ」
「あ、お金いいのにって、あぁ行っちゃうか」
バタバタと帰って行くひなみの背中を見送る楓凛。
「そういえば三ノ宮先生って、神経と電子回路のインターフェイスが専門じゃなかったっけ? 心理学と伝達の関係とか?」
昔から知識を得ることが好きな親友の、果てなき知識欲に感心しながら紅茶を飲む。
(アッサムはミルク入れた方が好みだけど、ストレートもなかなか良いかも)
いつもより濃い、アッサムの薫りの中、今後を考える楓凛。
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次回
『真の女子会が始まるわけで』
紅茶とかコーヒーにこだわってみたいなと、思いつつも規制品で満足しています。
コンビニのカップのコーヒーとか大好きですし。
心と時間にゆとりが出来たら、こだわってみたいなあと常々思う今日この頃です。
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