第88話 妹になるわけで
我が家のリビングに集まり4人で自己紹介をする。
「予定では約1ヶ月間、うちに滞在することになった夕華ちゃん。トラ、一応言っておくけど夕華ちゃんに変なことしたらダメよ」
優しく言ってはいるが、母さんの少し殺気のこもった注意に、激しく頷くトラ。すまない、昔の俺のせいで苦労かけるな……。
「夕華です。短い間ですが、よろしくお願いします。お母様、トリャさま」
夕華が母さんとトラに挨拶を終え、俺の方へ寄ってくると、手を組み祈りのポーズをとる。
この子、これ好きだな。
「こはりゅお姉ちゃん、よろしくお願いします」
「う、うん、よろちくでしゅ」
夕華が微笑む。
一般的なアンドロイドより表情を豊かにと、全身の運動機能より、表情筋と表現に力を入れたと説明を受けたが、微笑んでいる表情は、人と遜色ない。技術の進歩を感じてしまう。
なぜにお姉ちゃんと呼ばれているかというと、少し前に皆の呼び方を決めよう、そう話し合ったときに、俺たちを見てトラが何気なく言った「姉妹みたい」って言葉に、夕華が反応し「お姉ちゃん」と呼ばせたら嬉しそうに見えたので、
「こはりゅお姉ちゃん」
と呼ぶようになったわけである。
「おにいたん」と呼ばれる夢は潰えたが、ここにきてまさかの「お姉ちゃん」呼び!
なんか照れるけど、これはこれで良いかもしれないぞ! ちょっぴりテンション上がったっ!
「夕華、困ったことがあったら、お、お姉ちゃんに任せるでしゅ」
「はい」
何を任せてくれ、なのかは知らないが胸を張る俺に、素直な返事をしてくれる夕華。
むむむ、いいなやっぱり! 予想外の形で妹ができたぞ。
嬉しさが滲み出ているのか、笑みが溢れる俺の顔を見て、母さんが微笑んでいる。
そんな俺と母さんの顔を見比べ夕華は不思議そうに訪ねる。
「お母様とこはりゅお姉ちゃんは、なんで嬉しそうなのですか?」
「心春ちゃん、妹ができて嬉しそうだなって」
「妹ができたからでしゅ」
夕華の問いに2人で同時に答えると、それに驚いたのか少しだけ目を大きく開く夕華。表現的に少し分かりにくいのか?
「夕華が来てくれて嬉ちい! 家
「かじょく……(変換)……家族」
俺のその意図は伝わったのか、口角を上げ笑みを見せると頷く。しばらく向かい合って、微笑み合う俺と夕華。
「ところで夕華。さっき、わたちの言葉を変換ちたでしゅよね?」
「はい、こはりゅお姉ちゃんに対応する為、私には『舌足らずキャンセラー』が搭載されています」
「翻訳でなく、キャンセリャーって……」
俺の舌足らずを変換し会話をスムーズに行う為のもの、つまり俺専用の翻訳機を搭載しているということなのか? 健造さんの拘りを感じる。
「って、『こはりゅ』はなんでキャンシェルしないでしゅ?」
「こはりゅお姉ちゃんから、初めてもらった音だからです」
そう言って夕華は微笑む。
「初めてもらった音」その表現は夕華の性格をプログラムした人のによるもので、夕華の個性ではない。
って前の俺なら言っていたけど、制作者の手を離れた瞬間から、それはもう一つの人格であり、個性になるんじゃなかろうかと。今はそう思う。
「ありがとうでしゅ。夕華、改めてよろしくでしゅ」
「はい、よろしくお願いします。こはりゅお姉ちゃん」
そんな俺らを指を咥えてジーっと見るトラ。
「なんでしゅ? ジロジロ見て」
「心春は、お姉ちゃんとか呼ばれて、いいなあ~って」
本当に羨ましいって顔で俺を見る。隣にいる母さんの冷たい視線を気にせず俺を見詰める。
こいつは……
「トリャ、お前は何て呼ばれたいんでしゅか? 自分の考えは自分で言えでしゅ」
「えっ、えっとその……お兄ちゃんって」
恥ずかしそうに言うトラ。なんかその姿が気持ち悪いけど、その気持ちはよく分かる。
「夕華、トリャをお兄ちゃんと呼んでやってくれましぇんか?」
「はい、分かりました。では、トリャお兄ちゃんと呼ばせていただきます」
夕華のその言葉に頬赤らめ、嬉しそうに悶えるトラ。
うむぅ、元我が体ながら気持ち悪い。
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次回
『親友は助言するわけで』
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