第83話 お祭りは始まっても楽しいわけで

 朝も早くから集まる、浴衣姿の3人。その3人がお祭りの準備を見ながら、わいわいと騒ぐ。


「あれって何かな?」


「あ~、クジ引き! クジ引きっ! あっ、あっちは金魚すくい? スーパーボール?」


「スーパーボールって、ぴょんぴょん跳ねるやつだよね」


「そっ、ぴょんぴょん跳ねるやつですよっ」


「あのー、おまちゅり前から、そんなはしゃいだら疲れましゅよー、って聞いてねえでしゅ」


 スーパーボールのようにぴょんぴょん跳ねてそうな2人を、少し遠目で見ながらため息をつく。

 こいつら、このペースで祭りまで持たないぞ、そう思いながらチラッと設営中の屋台を見る。


 ふむぅ、あれは射的か。絶対やろうっと。



 * * *



 さすがに設営を見るだけで時間が潰せるわけはなく、某ハンバーガーショップで、何ご飯か分からないポテトを並べ時間を潰す。


「この間作った玉子焼きですけど、どうでした?」


「う~ん、ちょっと甘かったかな……ごめんね、作ってもらっておいて」


「ううん、ちゃんと言ってくれた方が助かります。無駄に我慢するとか、耐えられないですしっ。お陰で味付けの好みも分かってきましたから」


 と2人が味付けについて話すのを、聞いている俺。アンドロイドなんで食べることも出来ず、暇をもて余している。


 一応俺も注文していて、幸せになれそうなセットが目の前にあるのだが、食べれないから2人が食べてくれている。


 暇なのでオマケに貰った、おままごとセットのコンロの上にフライパンを置いて遊んでいる。


 へぇー、フライパンを置くとLEDが赤く光るのか……センサーはなんだ? 重量ではなくて、光の遮蔽……おっ!? フライパンにある磁石で中の鉄が上がってスイッチが入るわけかぁ。

 はぁ~、ほー、なるほどな、センサーのコストを考えたらそうだよな。よく考えてるな。シンプルだからこそ完成された構造……美しいな。


「うぶっ!」


 隣に座っている彩葉からほっぺを突っつかれる。


「こはりゅ、真剣に遊んでるけど楽しい? 私も小さい頃そんなので遊んだなあ。

料理するんだーってねっ」


「あ、いや、これ違うでしゅ」


 俺が真剣にままごとをしていたと思ってるらしく、懐かしむように、うんうん頷いている。

 なんか言い訳するのもめんどくさいので、そのままにしておく。


「いりょはって、料理上手でしゅよね? 家でも作るんでしゅか?」


「ん、作るよ。だって私いつも1人だから」


 弁明するより話を逸らした方が早いと、何気なく聞いたんだが、予想と違う答えが返ってきて、どう反応していいか分からない俺は、言葉に詰まってしまう。


 そんな俺を気にもせず、彩葉は少しだけ間を置いて話し始める。


「うーん、丁度いい機会かな。私の家族について話をしよっか」


 あれ? なんか言いづらいことを聞いちゃったのかもしれない。動揺する俺に対し、彩葉はいつものトーンで話す。


「トラ先輩、自分のお母様の年齢は知ってますよね?」


「お母さんの? 43歳だけど」


「おっ! ちゃんと知ってますね。男の子って意外と知らなかったりするんで、感心、感心ですっ」


 突然始まる母さんの年齢の話に、疑問符を飛ばす俺とトラ。


「じゃあ、私のお母さんは今30歳です。そして私はトラ先輩の一つ下で15歳。ではでは、私はお母さんがいくつのときに、生んだ子でしょうか、はい先輩!」


「えっと15歳?」


「正解です、つまり今の私と同じ年齢のときに生んだ子です」


 元々大きな目の彩葉はその目を大きくし、トラを瞳に映す。それはトラの瞳に、自分がどう映るかを見るかのように。


「当時高校生だったお母さんは私を妊娠して、学校を退学してます。因みに父親は……なんちゃら、ひろつ? とか言う人らしいですけど、会ったことも見たこともありません。そもそも、認知してもらってませんし。


 そんなわけで、養育費はもらえず我が家は貧乏で、通信高校を卒業したとはいえ、安定した職につくのが厳しいお母さんは、パートを掛け持ちし、私は1人でいるわけです」


 なんて言葉を掛ければいいのか、言葉に詰まる俺より先に、彩葉本人が言葉を繋げる。


「ま、そういう家庭なんで、どうしても興味本意な感じで見られちゃうわけですよ。何年経っても言う人は言う。子供に罪はないって言うけど、そんな目で見てくる。


 まあ、頭にくるわけよっ……


 ……というわけで料理が上手くなったわけなのです」


 彩葉が隣にいる俺を抱き寄せる。


「でさっ、1人ってつまんないじゃん。心春みたいな妹欲しいなって。一目見たときこの子が欲しいって思ったもん! どう? 今からでもくるっ?」


 俺をぎゅうぎゅう抱き締めてくる、彩葉の顔はいつも通り。彩葉はその顔をポカンと見る俺の両頬を摘まんで、にしししっと笑う。

 その顔を見て、初めに口の中にあった言葉を飲み込んで、俺は彩葉の手を払う。


「痛いでしゅ! いりょは、みたいな乱暴なお姉しゃんはお断りでしゅ! こはりゅは、優ちいお姉しゃんを所望するでしゅ!」


「へぇ~、私の愛情が受けれないか。相変わらず生意気なヤツ。それでこそ鍛えがいがあるってもんよっ」


「何が鍛えがいでしゅか! 相変わらじゅ、強引なヤツでしゅ!」


 悪態を付き合う俺たちを未だ、ポカンとした顔で見るトラ。その半開きの口に俺はポテトを束にして突っ込む。


「むぐぅ!?」


じょち女子の戯れを半開きの口で見るなでしゅ! 変態でしゅか! 

 言葉が出ないなら出すなでしゅ! 見たまま、思ったままを口に出せば良いってもんじゃないでしゅからね」


 ポテトの束を吹き出さないよう必死に口を押さえるトラと、俺のやり取りを見て指差して笑う彩葉。


「相変わらず、兄妹逆転してるし。トラ先輩ってすごいんだか、すごくないんだか、わけ分かんないですよね。はい、水飲みます?」


 彩葉の差し出した水を、一気に流し込んで胸をドンドン叩くトラ。涙目のトラを見る彩葉の目はとても優しく、綺麗に潤んで見える。


「お、結構時間潰せた。さてさてぇ~、設営の進行具合を見て、どう回るか考えますかっ」


 いつもの表情に戻ると立ち上がる彩葉。


「また、回るんでしゅか? 好きでしゅね。始まるまでがおまちゅり、ってヤツでしゅか?

 本番までに楽ちみ、ちゅかれ疲れましゅよ。まー、いいでしゅけど」


 呆れながらいう俺に彩葉は満面の笑みを見せる。


「なに言ってんの、始まってからもお祭りじゃん! 始まったらもっと楽しいに決まってんじゃん! 甘いね、こはりゅしゃん!」



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 次回


『花火は綺麗なわけで』


 スーパーボールすくい。家に持って帰ってもなんの役にも立たないのに、沢山取ってやろう! そう意気込んでしまうのはお祭りを楽しんでいる証拠だと思います。今年はお祭り行きたい!

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