第63話  本当の気持ちなわけで

 リビングの食卓に向かい合いに座るトラと父さん。母さんは一旦台所に行ってお茶を入れてくると2人の前に置き俺をだっこして近くのソファーに座りトラと父さんの真横にくる。

 俺は母さんの膝の上に座っている。居心地悪いが母さんにぎゅっと抱き締められていて身動きがとれない。仕方ないのでそのまま2人の会話を見守ることにする。


 父さんはお茶に口をつけるとコップを置き両ひじをテーブルにつけ手を組んで前のめりになる。対するトラは姿勢正しく膝の上に両手を置いて面接でもしているような感じだ。


「さっきの俺が家族に興味無さそうって言ったな」


 トラがゴクリと唾を飲み込むのが少し離れてても分かる。


「まあその通りだ。だがなこれは母さんとちゃんと話し合った結果であってな、そんなに文句を言われることではないつもりなんだがな」


「話し合った……」


「はあ、あんま息子にする話しでもない気もするがな」


 少し恥ずかしそうにそしてめんどくさそうにボリボリ頭を掻く父さんがため息をつくと話を続ける。


「母さんとは恋愛の末結婚した。当初は愛もあったさ。だがそのうち夫婦の喧嘩が絶えなくなった。その環境を改善する為にも俺は提案したんだ。

 離婚なんて選択は簡単だ。夫婦という形だけ保ったままお互いの生活を行う。

 俺は仕事をして家にお金を入れる。お前が大学へ行くというなら親としての責任は果たす。

 母さんはお前を育てるし家を守るし、家計のやりくりも任せてる。保険や税金、近所の付き合いなんかも全てやってもらってる。

 お互いがそれぞれのやるべきことを分担し納得した上で今の生活を続けている」


 父さんの話にトラはぎゅっと手で自分のズボンを握って話を聞いている。


 俺は母さんに抱かれたまま思い出す。


 小学2年くらいまで父さんはいたと思う。小さい頃の記憶って曖昧なわけだが小学1年のときには父さんも母さんもよく喧嘩していたのは、なんとなく覚えている。

 あぁ、また喧嘩かって思いながら自分の部屋で漫画読むかゲームしてた。


 そんなある日父さんが遠くで働くから家には帰ってこないって言われ出ていった。


 そこから母さんと2人での生活。

 7歳の時に父さんが出て行って今が17歳の年だから10年間父さんがいない生活を続けている。つまりいない年数の方がいた年数を上回っている。


「お父さんは寂しいとか、その、家族に会いたいとか思わないんですか?」


 その声で我に帰った俺の瞳は父さんに対し必死な顔で訴えているトラを映す。


「気にならないか? と聞かれれば気にはなる」


「じゃあ」


 父さんが大きくため息をつく。


「さっきも言ったが父さんと母さんが話し合った結果だ。これでうまくいってるんだからそれでよくないか? 虎雄、お前はどうしたいんだ?」


「ボクは家族って温かくて幸せな感じだと思うんです。お互いが支えあってみんなが楽しく笑って、困難があれば協力しあう家族でありたい。だからみんな一緒に!」


 バンッ!


 テーブルを父さんが叩く。気を落ち着かせているのであろう間が空き父さんはゆっくり口を開く。


「虎雄、お前なにがあった? なんで今になってそんなことを言い出す」


「家族とは温かいもの! そう言ったんです」


 答えになっていないようなことを言い出すトラ。


「現状も悪くない、でもどこかに穴が空いた感じがするって」


 涙目になるトラが訴える言葉に父さんは黙って聞いている。母さんはじっと2人の様子を見ているが俺を抱き締める力が少し強くなっているのが分かる。


「生まれたときに、家族になりたいって!」


 コイツ何を言ってんだ? 父さんもトラのセリフに少し困惑しているようだ。

 ただ涙目で必死に涙を溢すまいとするトラを見て何を言って良いのか分からないといった感じだ。


「ボクは家族ってどんなものか知りたかった!」



 ──家族ってどんなものですか?


 頭にフラッシュバックする言葉。


 ──生まれたら家族になれるんでしょうか?


 一つ思い出したら数珠繋ぎに思い出されていく光景。


 忘れていた。


 何気ない会話だったから。でも真剣に答えた。だってあいつも本気だって感じたから。それに本当に家族になれるって思ったのも本当だ。そこによこしまな気持ちもあったけどずっと一緒にいられる存在に憧れていたのも本音だ。


 俺は忘れていたのにコイツは覚えていたんだ。


 俺は母さんの腕をそっと握ると振り返って母さんを見て目が合うとお互い見つめ合う。

 母さんが俺を抱えて下ろしてくれたのでトラの元へ向かう。


 俺が来たことで父さんは驚いた表情を見せる。トラも驚くが父さんに向かってまだなにか言おうとするので座っているトラの袖に手を伸ばしグイッと引っ張る。


「トリャ、もういいでしゅ。その言葉はわたちの言葉なんでしゅ。トリャに言わせてしまってごめんなさいでしゅ」


 一瞬トラは言葉を言いかけるが俺の顔を見てハッとした表情で目の涙を溢し始める。


「トリャが泣いてどうするでしゅ」


 そう言う俺の頬を優しく拭うトラ。


「心春の方が泣いてる……」


 トラに言われて初めて自分が泣いていることに気が付く。


 ────────────────────────────────────────


 次回


『小さくても大きいものはあるわけで』


 家族のあり方は色々あるわけで何が正解とかはないのですけどね。色々考えながら執筆。

 これラブコメじゃないじゃん。最近そんな気もしますが愛とコメディー要素はあるというわけで。


 御意見、感想などありましたらお聞かせください。











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