第49話  心春は小姑なわけで

 放課後になるちょっと前に校門に軽自動車が停まる。なんだか今日はよく車が停まるなぁ、なんて思って來実に抱っこされた俺は窓の外を見る。……なんか俺、普通にだっこされ過ぎじゃないか。


「あれ、心春の母さんじゃないか?」


 來実がそう言ったので再び校門を見ると確かに母さんが出てくる。それと……


「げっ、あの人っていつも虎雄と走ってる人じゃねえか」


「ですわ! なんであの女性と虎雄さんのお母様が一緒に来ますの?」


 いつの間にいたんだってくらいの速さで窓から覗く珠理亜。


「あー楓凛とかいう女の人だ! ぐぬぬぬっトラ先輩を誘惑しにこんなところまでぇ」


「誘惑だと!?」

「誘惑ですって!?」


 なんで学年の違うお前がここにいるんだって突っ込みたい彩葉の言葉に2人が激しく反応する。なんで彩葉が楓凛さんを知っているのだという疑問を考える暇もなくトラが窓から手を振って叫ぶ。


「楓凛さーーん」


 校庭の楓凛さん物凄く恥ずかしそうに小さく手を振る。なんだ可愛いなとか思う隙も与えてくれない3人娘に俺は囲まれる。


「おい、これはどういうことだ?」

「な、なんですのあの嬉しそうな虎雄さんは!」

「ちょっとこはりゅ、説明してよ」


 な、なんで俺が責められているのだ。文句を言うのならトラだろ! 俺も知らねえよ。だがこのピンチを乗り越える為には練習していたアレをやるしかない。


「こはりゅ分かんないでしゅ」


 足を内股にして両頬に人差し指を立て舌を出してウインクする。テヘペロってね。

 恥ずかしいがこの窮地を乗り越えるために練習してきたこのあざといポーズでどうだ!


「あ、なんかそれはムカつく」

「逆にあざといですわね」

「ごまかす気、満々じゃん」


 あれぇ~? 全く効果がない。このポーズのまま固まる俺の元に白うさぎのアンドロイド、うっさ~♪ が優雅にやって来てソッと耳打ちする。


「心春さま。舞夏様から伝言です。そのポーズは女の子に向かって使うのは効果が薄い。寧ろ逆効果になることが多いとのことです」


 俺はゆっくり首を動かし舞夏の方をみると笑顔で手を振ってくれる。俺はちょっぴり涙目だけど笑顔で頷く。


「御武運を」


 それだけ言ってうっさ~♪ がサッと去っていく。くそーなんてジェントルマンな振る舞いをするウサギだ。カッコいいなおいっ!


 心で叫び現実の方へ振り返る。

 うん、やっぱり3人娘が俺を睨んでいる……

 ど、どうする俺、なんでもいいこの窮地を乗り切る答えを!!


「ふ、ふふふふ」


「ど、どうした心春」

「え、なんか様子がおかしいですわ……」

「この不穏な空気、本性を出す気だねっ」


 俺の不敵な笑い声に3人娘が恐れおののく。だが安心して欲しいただのハッタリだ。まだ何も思い付いていない。


「ふっふっふっふ」


 時間を稼ぐ、もうこれで乗り切る。そう思ったとき教室の扉が開く。おそらく母さんだ! 助かった!

 地獄に垂らされた蜘蛛の糸を見る様な目で開く扉を見ると


「えっとぉ、心春ちゃん?」


 楓凛さんだけが入ってくるわけで


「な、なんで楓凛しゃん? お、お母しゃんは?」


 ちょっと恥ずかしそうに入ってくる楓凛さんに教室がざわつく。父、母でなくお姉さんが入ってくるこの状況に男子の何人かがときめいている。


「先生と下で話してるから心春ちゃん呼んできてって言われてね」


 と言いながらはにかむ楓凛さんに数人の男子が胸を押さえ萌えている。

 この数人の男子、井関いせき新堂しんどう水戸みと南出みなみでの4人はまともだ。

 だがやぶを初めとする男には効果が無さそうだ。つまりこいつらは……


「わーい! こはりゅ楓凛しゃん来てくれて嬉しいでしゅ」


 と楓凛さんの元へ駆け寄る(3人娘から逃げ走る)俺に胸を押さえ悶える藪たち残りの男子。つまりこいつらはロリコンだ。

 最低だな。なんて思いながら楓凛の元に軽やかに走る俺の逃走劇は両肩そして頭が掴まれ一瞬で終わる。


「どこへ行く」

「話の続き聞きたいですわ」

「逃げるわけ?」


 息ピッタリに俺を掴む3人娘に「仲がいいでしゅね」なんて声をかけるわけにもいかず汗の代わりに涙が出てくる。


「つ、遂にこのときが来たのでしゅ!」


 俺の宣言に3人娘の拘束が緩む。直ぐに逃げ楓凛さんと3人娘を正面にしてビシッと指を指す。


「そうでしゅ、この4人が揃う日を待っていたのでしゅ。いいでしゅか! わたち、こはりゅは今日までただ『でしゅ』『でしゅ』言ってきてたわけではないのでしゅ!」


 なに言ってんだ俺はと思いながらも続ける。


「お、お前たち4人の中で誰がトリャに相応しいかこはりゅが決めてやるのでしゅ! わたちが認めない女は近寄らせないでしゅ!!」


 4人が黙る。こ、これで「なに言ってんだ心春~」「嫉妬して可愛い」とかで曖昧な感じで終わるはず。もしくは「そんなバカらしいぜ」みたいに冷めて終わる可能性もある。どれでもいい、ここから逃げれるなら。


「はい!」


 と沈黙を破り手を挙げるのは……楓凛さん!? 一番関係ないと思ってたのになんで? ドキドキしながら挙手する楓凛さんを指名する。


「はい、楓凛しゃん」


「心春ちゃんに質問。心春ちゃんに認められるって具体的にどうするの?」


 なんとも冷静に質問される。


「審査内容を言ってしまっては不公平になりましゅ。そもそもこの時期を選んだのもなちゅやすみ夏休みが近いでしゅから楓凛しゃんにも公平にという配慮なんでしゅから」


 腕を組み俺を見る4人に負けじと見返す。まあ、今言ったこと全部嘘なんだけど。そもそも審査ってなんだよ。

 自問自答をしながらも4人の気迫に押されないように頑張る。


 そんな俺の横にスッと立つのはきな子さん。相変わらずお綺麗でその優雅な佇まい安心感を覚えるぜ。俺を守るように手を出し後ろに下がって下さいと背中が語っている。


「皆様、つまりは『虎雄様のハートを掴んで虜にしちゃおう。その前に小姑心春様のハートを鷲掴みっ♪』の開催が今宣言されたということです」


 なんじゃそれーー!? なんか色々と酷くね? 


「うーん、じゃあ私参加します」


 と一番に手を挙げるのは又もや楓凛さん! なんだ、何があった? この間の水族館行ってトラもおかしいぞ。


 この挙手に教室がどよめく。


「はいはーい! わたしも参加するっ!」


 元気よく手を挙げる彩葉。そもそもお前の意図は未だに掴めん。なんでトラに言い寄る。俺を手に入れる為……いや、まだ何かありそうだ。

 彩葉の参加に「おー」っと歓声が上がる。


「わ、わわ、わたくしも参加しますわ」


 顔真っ赤だけど必死に宣言するは珠理亜。よっぽど恥ずかしいのだろう宣言した後おろおろしている。

 珠理亜は……うむ、ある意味恋人を通り越して結婚まで約束を仄めかした相手なわけだ。本気度は高いしこちら側の責任も重い……よな。

 この学級委員長の必死な発言と日頃のギャップが男女問わずキュンとさせたみたいでみんな温かい目で見ている。


「わ、私は……」


 歯切れの悪い態度を見せる來実。斜め下を見ながら唇を噛み手を振るわせているがやがてキッと俺を睨見つける。


「やる。やるよ。私も参加する」


 それだけ言うと顔を背けるが頬は赤い。なぜ俺が睨まれなきゃいけないのかは置いといて來実の参加で4人が揃ったわけだ……って違う!! 違うよこれ。どどど、どうしよう。


「ト、トリャ! い、今こしょこの話の輪に入るときでしゅ!」


 こうなったら一か八かトラを巻き込む。俺に呼ばれネコ顔から普通の顔に戻ると少し困った顔で考えて


「みんな頑張って。応援してる」


「あぁまあ、まあな。うん、参加するからには頑張る」

「は、はい! わたくし頑張ります!」

「まっかせて!」

「うん頑張るね」


 あーー分かってた、分かってたけどトラ投入失敗! ってかあなたたちはそんな扱いで良いわけ? 俺に認められることで納得するわけ?


 トラの応援にやる気を出す4人に対して焦る俺。そんな俺にとって救世主にしか見えない母さんがナイスなタイミングで教室に入ってくる。


「楓凛ちゃん、心春ちゃんは? なんか準備出来たからテストやろうって言ってるわよ」


「こ、こはりゅてしゅとテスト頑張る! 4人とも詳細はまた今度でしゅ」


 そう言って俺はこのチャンスを逃すまいと逃げるように教室を出ていくのである。



 ────────────────────────────────────────


 次回


『頑張れ心春ちゃんなわけで』


 この話を投稿したのは1月。なのに話の中では今から夏休み。季節感全くないですが気持ちは夏でお願いします。季節のイベントに沿った感じで出すとイメージしやすいんでしょうけど私にはそんな器用なことは出来ません(笑)

 このままいくとバレンタインデーにはこっちは夏真っ盛りです。


 流行にいつも置いていかれる私ですが御意見、感想などありましたらお聞かせ頂けると嬉しいです。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る