第50話 頑張れ心春ちゃんなわけで
俺はカオスな教室から逃げて母さんについて行く。流れ的に楓凛さんも一緒についてくる
ただ母さんと3人でそのまま更衣室へと連れていかれるわけなのだが……俺は立ち竦む。
いや分かってるんだ。そりゃあそうなんだけど抵抗あるっていうかなんというか、うん、女子更衣室だ。未知の世界を目の前にして少し躊躇してしまう俺。
「心春ちゃん緊張してきた?」
俺がテストを受けることに緊張していると思ったのか優しく声をかけてくれる楓凛さん。
「だ、大丈夫でしゅ」
「ホントに? 声うわずってるよ。嘉香さん私が心春ちゃんについていきます」
「そう? う~んたまには着替えた心春ちゃんを待つというのも良いわね」
笑顔の母さんがズイッと出す袋を楓凛さんが受け取る。
「これねぇ、体育祭とかで着れるかなあと思って作ったんだけどまさかこんなに早く御披露目出来るなんてうれしいわ」
あぁなんだか嫌な予感しかしない。不安な俺は手を引かれ未知の世界へ入る。
とまあ入ったわけなのだが別になんてことはない。普通に更衣室である。もっとこう華やかなイメージやいい匂いがするかと思ったけどそうでもない。
「心春ちゃん髪結ぼうっか」
楓凛さんが俺の髪をゴムで留めてまとめてくれる。そして袋から出すそれを見てくすくす笑う。
「嘉香さん気合い入ってるね。これ生地から作ったんだよ多分」
「そうなんでしゅ? 市販のものじゃないんでしゅか?」
俺は服を脱ぎながら尋ねると脱いだ服を楓凛さんが受け取りきれいに畳んでくれる。
「嘉香さんはね裁縫とかものすごーく苦手だったんだって。でもね子供が出来てから一生懸命覚えたって聞いたよ。子供の服作れるようになりたいって
初めて聞く話に驚く俺はもう一つの疑問を聞いてみる。もしかしたら楓凛さんは知っているかもって期待を込めて。
「お母しゃんはなんで女の子の服いっぱいもってるんでしゅ?」
「女の子の服? ん~」
流石に知らないか。何度か母さん本人に聞いたことがあるが心春ちゃんのためよってはぐらかされている。
「なんだったかなぁ~あーなんか言ってた気がする……」
本気で悩み始める楓凛さんは俺の着るべき服を持ったまま腕を組んで唸っている。
「楓凛しゃん、服着たいでしゅ」
「ああ!! ごめんごめん」
情けない格好の俺が懇願すると慌てて着せてくれる。まあ質問した俺が悪いんだけど。
「じゃあもう一つ聞くでしゅ。なんでトリャに近付く為にわたちに認めりゃれたいのでしゅか?」
「心春ちゃんに認められるって『虎雄様のハートを掴んで虜にしちゃおう。その前に小姑心春様のハートを鷲掴みっ♪』のこと?」
そんな長いタイトルよく覚えてますね。記憶力いいんですねと誉めたくなる。
感心している俺に対して楓凛さんはしゃがみ俺と目線を合わせるとちょっと恥ずかしそうな笑顔を見せる。
「虎雄くんの優しさ。本当にその人に向けた優しさ。それをね虎雄くんの性格から全部は無理だと思うけどちょっと多く私に向けて欲しいなぁって思っちゃたの」
そして頬を紅色に染めた笑顔で恥ずかしそうに言われる。
「よくばりかな? 私もちょっと驚いているんだけどね」
恋する女の子の顔をこんな間近で見る日が来ようとは夢にも思わなかった。楓凛さんの見せる表情に唾なんてないけど喉を鳴らして飲み込みたくなる衝動に駆られる。
まだ頬の赤い楓凛さんは立ち上がると俺に微笑む。
「私は参加する資格ありますか? 可愛い小姑さん」
ええもう参加とかじゃなくて合格ですと言いたくなるのを抑え必死に冷静を装う俺はこれまた必死に睨む。
「ほ、本気なのは伝わったでしゅ。い、いいでしゅよ」
楓凛さんは全然冷静に答えれていない俺の肩を優しくポンポンと叩く。
「テスト頑張れ心春ちゃん!」
「は、はいでしゅ」
初めて会ったときはのんびりした頼りない感じがしたけどとても優しいというか母性的というか。トラが少し心許しているのも納得出来る。だがこの人……
「楓凛しゃん、しょれ引き戸でしゅ。押ちても引いても開かないでしゅ」
「ああっ!?」
ドアノブを探しちょっと焦った感じでドアを押す楓凛さん。この人天然だ。ドジっ娘とでも言えばいいのか。
恥ずかしそうにドアを開ける楓凛さんの後について廊下に出る。
「心春ちゃん! うーんやっぱり可愛いわ! ちょっとこっち向いて写真撮るから」
母さんが俺を激写し始める。
俺の格好? 上から平仮名で『こはる』と書いてあるゼッケンつき体操服(白)下はハーフパンツの体操ズボン(紺色)靴下(白)そしてシューズ(白)はシューズ入れの袋に入っている。
赤白帽も手に持っているから安心してほしい。
母さんはこれを体育祭で着せるつもりだったんだ。母さんがデジカメで撮った画像を俺に見せてくる。うん可愛いな俺。
画像を見て興奮しながら楓凛さんに俺の可愛さを力説しているとジャックさんと健造さんがやって来る。
「おぉ! 気合い十分ですネ。じゃあ早速行きましョ」
「まずは筆記テストからやりたいから校長先生が用意してくれた教室へ行ってくれるかね」
体操服に着替えるの早かったんじゃないのかそんなことを思いながらも教室に向かうと健造さんが用意したと思われるテストプリントが配られる。
……やばい掛け算は2桁まで筆算でなんとか解けたけど割り算が苦手になっている。
国語はなんとか、漢字は書けたし文章も小学6年生くらいまではいけた。
おそらく中、高とある程度いけるのかもしれないが字が小さくなると途端に理解力が落ちる。この辺り心春を作る際に理解力を押さえた弊害だろうな……
見た目の幼さに反して一部だが小学6年くらいの能力は発揮出来るようである。中身の意思に反して思考がついてこない、つまりは数学で公式の分かる問題があって、これ知ってる! っていざ解こうとしたら喉元までは出ているのに出てこないモヤモヤした感じだ。お陰で暗記である程度点数が稼げる理科や社会もいまいち。
こんなテスト無駄だと思っていたけど第三者から能力を測られるというのは自分を知る上では役に立つものだ。やって良かったかもしれない。
「できたでしゅ」
俺の答案用紙を健造さんが受け取りジャックさんと話ながらその場で採点をする。
「ほう、心春ちゃんは英語もそこそこいけるんだね」
65点の答案用紙が返される。うむぅ中学1年程度でこの点数か……アンドロイド作るのに英語の知識は必須。結構自信あったのになぁ。
「心春ちゃん悔しいの?」
答案用紙を見つめる俺に心配そうに楓凛さんが話しかけてくれる。
「はい、悔しいでしゅ。でも頑張るでしゅ!」
悔しいけど満面の笑みで答える。強がりだけど。
「うぉぉー!! 心春ちゃーーん」
「僕らは応援しているよぉぉぉぉ!」
「好きだーーーーっ!!」
そんな笑みに廊下の一部のギャラリーが騒ぎだす。
「うるせぇでしゅ! 黙りやがれでしゅ!」
俺は素でキレる。
「心春ちゃんから黙りやがれでしゅいただきました!」
「ありがとうございます!!」
「叩いて下さい!」
……ダメだこいつら。本物の変態だ。
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次回
『準備運動は入念になわけで』
テストを始めて下さい。と言われみんなが一斉に答案に記入するときの鉛筆の音。
静かな空間に響くあの音。
そんな中で自分の音だけ違うくない? 上手く音出せてるかな? と考えていた私の成績は察して下さい。
御意見、感想など頂けると嬉しいです。
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