第47話 ビックリ箱がやって来るわけで
無事、遅刻を免れた俺たちは学校での生活を平穏に……まあ昼休みは相変わらず3人娘が来て賑やかなわけだけど。
「こはりゅ! 今朝のこと説明してほしいんだけど」
教室に来るなり彩葉が俺にそう言ってくる。今朝のこととは「俺が認めないとトラと付き合うことは許さない」そう発言したことであると思われる。
「そうだ! 心春それは私も聞きたい」
「ええわたくしも聞きたいですわ」
これに2人が追従してきて俺を囲み神妙な表情で回答を待っている。椅子に座っていた俺は立ち上がると腰に左手を当て右手で指差す。
「説明? 聞いての通りでしゅ。わたちの許可
俺の不敵な笑みに來実と珠理亜がたじろぎ半歩程後ろに下がる。だが彩葉は違う。
「こはりゅ……本性出したってことは猫を被るのは止めたってことなんだね。そこまで、そこまでして……」
歯痒そうにそう言う彩葉。
そしてクラスのみんなは驚いている。それはそうだろう。何故ならば今まで可愛い心春を演じていたからな。突然の小悪魔モードにビビっているはずだ。
そう俺は今朝決めたのだ! 中身が入れ替わったのは信じてもらえないからいいとして、可愛いを演じることを止めるのだ!
もうトラの可愛いサポーター心春ではなく、小さき悪女心春として自分に偽りなく生きていくのだ!
ふふふふ、クラスのみんなもドン引きだぜ……ぜ?
「か、可愛い! 無理して演じてる感じがたまらないわ!」
「うん、あれだよ。お兄ちゃん取られたくないから無理してるんだって」
「なんて、いじらしいの……」
と女性陣。
「はあはあ、小悪魔心春ちゃん、たた──」
「ぽか♪ って叩かれたい、叩たいてほし──」
こっちは聞こえてないことにしよう。
「って違うでしゅ! わたちはトリャに近寄る女を許さないって言ってるのでしゅ! ち、
両手を挙げて威嚇するが効果は全くないようだ。寧ろ「かわいい」なんて声が聞こえてくる。
「なんだ、心春。虎雄取られそうで焦ってるのか」
そんな俺の頭を笑いながらガシガシと撫でてくる來実に屈んで俺の目線に合わせる珠理亜の目にはうっすら涙……なんで?
「心春さん、虎雄さんのことばかりで心配でしたのですね。配慮が足りませんでしたわ。ごめんなさい」
「あ~だな、そこは珠理亜の意見に賛成する。心春も寂しいよな。悪かった」
珠理亜の言葉にハッとした表情になり申し訳なさそうにする來実。話がおかしな方向に向かい始め焦る俺を後ろから抱き締めるのは彩葉。
「ごめんねこはりゅ、最近トラ先輩ばかり相手してたから本性出してまでも気を引きたかったんだよね」
「ち、違うでしゅ! いりょは、なんかお前もおかしくなってきてるでしゅ。前のお前はそんなこと言わないでしゅよ!」
なんだ? トラが絡むと皆おかしくなるのか? そ、そうだトラは!
俺がトラを見ると安定のネコ顔だと!? そういやトラはいつもこんな顔してるけど何を考えてるんだ?
俺はトラをグーパンチでポン♪ ポン♪ と叩く。
「トリャ、お前今なにを考えているんでしゅ?」
「今です? えーとみんな楽しそうだなぁって。ボクも混ざりたいなって考えていましたけど」
ん? なんかコイツ喋り方おかしくないか? そんな俺の違和感を吹き飛ばす勢いで3人娘が俺に素早く歩み寄る。
「あれだ、虎雄も心春もお互い大事にしてるからな。どっちか一方を誘うのがおかしかったんだ」
「ですわね。たまには來実さんも良いこと言いますわ。これだけ信頼しあっている2人を引き離そうとする愚かな行為をわたくしたちはしていたのかもしれません」
「そうだよね。家族って言うんだからみんな一緒じゃなきゃいけなかったんだよねっ」
なんかおかしな解釈を始める3人娘。
「おい、なんか外に車が停まったぞ」
クラスの誰かの声で俺らも外を見る。あ、因みに來実が抱っこしてくれているので俺も窓から見ることが出来ているぞ。
黒塗りの高級車が3台、あれって確か……
「お父様ですわ。何をしにきたのでしょう?」
珠理亜の驚きの視線の先には珠理亜の父、建造さんが黒いスーツの男たちに先導され車から降りてくる。
そして続けて降りてくる恰幅のいい金髪のおじさん。
「ジャックだ! ジョン・オールコックだよ!」
と興奮して叫ぶクラスメイトの中町。こいつ商店街で捕まらなかったようで普通に学校に来ている。まあそんなことはどうでもいい。
それより建造さんとジャックがなんで学校に来ているんだ?
おっとジャックとは前に少しだけ説明したがアメリカの大企業『
アンドロイドから車までつくるとても大きな会社なのだがこんなところに来る理由が分からない。
頼みの珠理亜も驚いているのでなにも知らないのだろう。
校門付近では校長先生を初めとした先生が数人出てきてなにやら建造さんと話をしている。やがて建造さんとジャックと数人の黒いスーツの男たちが校長先生に先導され学校へと向かう。
彼らが校舎に入るより前に校内放送が流れる。
〈2年1組、梅咲虎雄さん心春さんを連れて至急校長室へ来てください。繰り返します2年──〉
突然の呼び出しに俺とトラは顔を見合わせる。
* * *
全く予想だにしない事態に内心ドキドキしながら廊下を歩く俺とトラ。3人娘もついてくると言い張るが女子会でもしてくれと言って断った。文句を言う3人をおいて2人で歩く。
「最近バタバタしてまちたからこうして2人で歩くのは久しぶりでしゅ」
「うん、そうだね」
「トリャお前の喋り方おかしくないでしゅか?」
俺の質問に少し黙るが意を決したように歩きながら俺を見る。その目は純粋でとても真っ直ぐだ。
「昨日も言ったけど、ボクはもう少し色んなことが見てみたいし経験してみたい。そのためにも少しだけ偽ることをやめようと思うんだ。まずは『俺』って感じではないかなって」
「だからその喋り方というわけでしゅか」
力強くトラが頷く。なにか言おうそう思ったけどなんと言って良いか考えがまとまる前に校長室に着いてしまう。
トラがノックをして入室を許可されると校長室のドアを開ける。色々考えることはあるけど今は目の前のことに頭を切り替え入室するのだった。
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次回
『トラは頼りになる?わけで』
学校の前に高級車が数台乗り付ける。ありそうでないこの状況。実際にあったら結構怖そうです。
御意見、感想などありましたらお聞かせください。
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