第42話 水族館は遠いわけで

 俺はリビングを行き来しながら考える。完全にノーマークだった。まさか楓凛さんとトラが2人きりで出掛けることになるとは想像もしていなかった。

 それって普通にデートってやつじゃんか。


(くそー恋愛マスターの俺も選択肢の無い恋愛は上手くいかないもんだな。何回かトラと一緒に楓凛さんの修行を見たが全くそんな素振りは感じなかったぞ)


「さーてと心春ちゃん今日のお洋服はねー」


「ひぃぃぃ!?」


 考える俺の背後から全く気配を感じさせずに近づいてきた母さんにつかまれるとそのまま引きずられていく。


 そうそう、もうひとつ俺を悩ませてくれたのが母さんと楓凛さんが知り合いだったってこと。よくよく考えればじいちゃん繋がりで可能性はあったんだがな……


 手際よく服を着せられた俺の格好はカンカン帽(黒リボン)サイドに白のスカラップレースがあしらわれたチュニック(アイボリー)ティアードプリーツスカート(黒)サンダル(ブラウン)

 髪型はカンカン帽があるのでくるりんぱ1回のハーフアップをゴム(黒)で留めており左にネコさんを滞在させている。


 今日の俺も可愛いのだが眉間にシワが寄っていて渋い顔である。


 そうこうしているうちに上から降りてくるトラの格好。


 青のボーダーの入ったTシャツ(白)の上にサマーカーディガン(ネイビー)スキニーパンツ(黒)にスニーカー(白)


 あれ? 俺ってあんな服持ってたっけ? 何気に時計とかしてるし、なによりあいつ最近鍛えているからか筋肉質になって体が絞まった気がする。


「あんたもまともな格好すればそれなりじゃない? 今日は楓凛ちゃんが誘ってくれたんだから恥ずかしくないようにね」


「うん」


 嬉しそうに答えるトラの表情は明るい。めちゃくちゃ楽しそうだな。


「で心春ちゃんはひなみちゃんとデートっだけ?」


「え、ええまあ、そうなんでしゅかね……」


 対する俺は激渋だ。苦虫を10匹は噛み潰したような顔をしているはずだ。

 なんで俺があのセクハラ女子とデートせにゃならんのだ。


 セクハラに怯える俺にとって死神のノックに等しいチャイムの音が響く。

 それに母さんが対応してウキウキのトラとイヤイヤな俺は玄関に向かう。


「やっほー心春ちゃん! 浮かない顔してるねっ! おぉ! 分かったぞ、楽しみで寝れなかったんでしょ! お姉さんうれしいなぁ」


 玄関を開けるなりひなみさんが飛び込んで来て俺を抱き締め拘束する。


「おばさん、心春ちゃんお預かりしますね」


「うんお願い。たまにはトラ以外の人と遊んでストレス発散させなきゃね。最近心春ちゃん眉間にシワ寄せてばかりで心配してたの。ひなみちゃんなら安心ね」


「任せてくださいよ! 帰ったらシワ1つない心春ちゃんになってますよ」


 人をシワだらけの洗濯物みたいな言い方をしやがって。ってあれ?


「お母しゃん、ひなみしゃんと知り合いなんでしゅ?」


「そうよ。ひなみちゃんのおじいちゃんは心春ちゃんのおじいちゃんと同級生。それにトラのクラスにいる舞夏ちゃんのお姉さんなのよ」


 にゃ、にゃんですとーー!?


 舞夏ってうっさー♪ を連れている久野だよな。そのお姉さんがひなみさん?

 恐る恐る見る俺にピースで答えてくれるひなみさん。


「舞夏から心春ちゃんのことも虎雄くんのことも聞いてるからねぇ。狙ってたんだよー心春ちゃんのこと」


 俺がひなみさんの獲物を見る様な目に怯えていると玄関の外に車が止まる。青い軽自動車だ。


 その軽自動車から降りてきた楓凛さん。


 その格好はUネックのトップス(白)だが肩から肘にかけレース素材でシースルーになっている。

 その上からジャンパースカート(サーモンピンク)後ろがバックレースアップになっており結んだ紐が可愛い。

 足元はストラップデザインのサンダルにペディキュア(ピンク)だ。


 ってなんか気合い入ってない?


「こんにちは、嘉香さん。ご無沙汰してます」


「久しぶりね楓凛ちゃん。トラを誘ってくれてありがとうね」


「いえ、そんな。無理に誘ったんじゃないかって」


 そう言いながら楓凛さんがトラを不安そうに見るが当のご本人はニコニコ笑顔なわけだ。


「楓凛さんに誘ってもらって嬉しいです。水族館楽しみです」


 間違いなく本心だ。本当に水族館楽しみなんだろう。ただこの場合の部分がどう影響するかだ。

 

 楓凛さんを見るとちょっと嬉しはずかしって感じで照れてる。なんで都合よく解釈されるかなぁ。俺はそんなことなかったんだがなあ。多分元の俺が言ったら逆にドン引きされてる気がする。

 嫉妬オーラを出す俺をひなみさんがひょいっと抱えると抱っこされる。


「さーて早くいこうよ楓凛。私と心春ちゃんは早く出発したいんだから。心春ちゃん待てないって」


「こはりゅは何も言ってましぇん」


「恥ずかしがってぇ~」


「おぶうぅ~やめりゅでしゅぅ~」


 抱っこされたまま俺の頬にひなみさんが頬擦りしてくる。ひなみさんは性格に難ありだが美人である。そんな人から唇触れそうなぐらいの距離で頬擦りされてるのに嬉しくない。


 トキメけないのはこの人だからか?


「じゃあおばさん。私たちは行きますね! 楓凛も頑張って!」


 俺はひなみさんに抱っこされたまま連れていかれる。


「じゃあ私たちも行こうか」


「はい!」


 残った楓凛さんとトラがそう言って出て行くのを俺は抱っこされひなみさんの肩越しに見送ることになるのだ。



 * * *



 トラが助手席に座るとシーベルトを締めると物珍しそうにキョロキョロする。


「俺、助手席に座るの初めてなんです」


「え? そうなの? 梅咲家ってそんな仕来りがあるの?」


「えっとまあ」


「へ~その家のマイルールってやつなんだね。面白いねそういうの」


 微妙に話が噛み合う2人の乗る車が出発して僅か10秒。


「あれ? 楓凛さんってメガネかけるんですか?」


「あ、うん。運転するときだけね」


「メガネかけても楓凛さん可愛いですね」


 車はブレーキをかけ止まる。


「あ、あの虎雄くん? そういうのビックリするからやめてね」


「そういうの?」


「あ、えーとね。可愛いとか誰にでも簡単に言っちゃダメだよ」


「はい、誰にでもは言いません。楓凛さんには言って良いんですよね?」


 楓凛ハンドルに伏せる。


(あぁ~なんだろこの子。もうなんかダメだぁ私。ひなみごめん出発すら出来ないかも)


 ハンドルに伏せ悶える楓凛。梅咲家を出発して100メートル付近での出来事である。



 ────────────────────────────────────────


 次回


『水族館に涙が落ちるわけで』


 時速30kmで開始10秒で会話して急ブレーキ……12秒として約100m。計算あってますかね(笑)

 それにしても今回は3人分コーディネートしたんでちょっと辛かったです。今後はなるべく心春だけでいこう、そう誓いました。


 色に幅が持たせられないのは自分の好みだけでいくからでしょうね。美的センスが欲しい! いやもう持っている! などの御意見、感想などありましたらお聞かせください。




明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致しますm(_ _)m


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