第34話 ドランカーはマルなわけで
彩葉と話ながら我が家へ着き玄関を開ける。
「あらいらっしゃい彩葉ちゃん。さ、上がって。猫はトラと遊んでるから」
「こんにちは、お母様。ではお邪魔します。そうだこれ家のお店のなんですけど、どーぞ」
「あらあら? 高級そうなお茶。茶畑ってあのお茶屋さんの?」
「はい! お茶屋さんはおばあちゃんのお店です」
母さんが玄関まで迎えにやってきてお茶を受け取り彩葉を家に上げる。なんだろこの2人相性が良いのか会って2回目なのに楽しそうに話ながらリビングへと向かう。
「トラ、彩葉ちゃんが来たから猫を見せてあげて」
母さんに言われたトラが猫を抱き、恐る恐る振り返る。彩葉を見る目が怯えているのがよく分かる。
彩葉のこと苦手なんだな……
「あ~! ドランカー! 間違いないです! あ~本当に良かったぁ~」
ちょっと涙ぐむ彩葉。本当に心配してたんだなぁ。そしてこの子はこんな表情も見せるんだとちょっと驚いた。
色んな表情があって当たり前なんだけ笑うか怒るかしか見ていなかったからだからだろうか?
喜ぶ彩葉にそっとトラがドランカーを渡すと彩葉が深くお辞儀をする。
「先輩ありがとうございました。ドランカーが懐くって珍しいんですよ。気に入られましたね」
「う、うん」
笑顔で接する彩葉が前に会ったときの敵意剥き出しな感じでは無いことに少し安心したのかトラの表情が和らぐ。
「彩葉ちゃん、ゆっくりしていける?」
「あーごめんなさい。ゆっくりしたいんですけどドランカーをおばあちゃんのところへ連れて行ってあげたいんで今日は遠慮させてもらっていいですか?」
「そーよね。早くネコちゃん連れて帰らないといけないものね。彩葉ちゃんとはゆっくりお話したいからまた来てね。トラ彩葉ちゃんを送ってあげなさい」
母さんに言われ短く返事をしたトラが玄関に向かうと彩葉と母さんもそれに続き玄関で見送りが始まる。
「お母様今日はごめんなさい。また今度来ます」
「えーえー、いつでもいらっしゃい」
玄関先で見送る母さんに丁寧にお辞儀をした彩葉と共に3人で外に出る。
彩葉は母さんにかなり気に入られてる感じがする。こういう性格の子が好きなのか?
気になった俺は隣を歩く彩葉をチラッと見上げる。
ドランカーを抱きしめてご満悦そうだ。大人しそうな猫だけどなんで逃げたんだろう?
いやそれよりドランカーって名前なんだ? 普通に受け入れてたけどおかしいだろ。
「いりょは、どりゃんかーってどういう意味でしゅ?」
「んー? 意味? えぇとねおばあちゃんが付けたんだけど。ほらっ、目を殴られて口から血を出してるみたいじゃない? だからパンチドランカーからドランカーだって聞いたよ」
「な、なんでしゅか、そりぇ」
「おばあちゃんさーボクシングとかプロレスとか好きなんだぁ。それで付けたんじゃない?」
おぉぅ……彩葉のおばあちゃんってどんな人なんだ。激しく会いたくないぞ。ん? トラがトボトボとついてきてなんかボソボソ言ってるな。
「どうしたでしゅかトリャ?」
「うーマルはドランカー……実はマルはドランカーなのです、ふふふ──」
ああ、こいつドランカーと会えなくなるのが寂しくて現実逃避始めたな。ぶつぶつとマルとドランカーを交互に呟いてやがる。
仕方ないので ポカッ♪ と足の辺りを叩く。
「このネコはどりゃんかーなのでしゅ! 彩葉のおばあちゃんの家に帰りゅのが
「むーーーーーー!!」
トラが頬を膨らませ俺を睨む。が、怖いっていうより可愛らしい怒りかただ。男だけどな。
そして何気にこいつが俺に反抗するの初めてじゃないか? なんか腹立つぞ!! 俺はビシッと指差しトラを負けじと睨む。
「トリャ! わがまま言うなでしゅ!」
「だ、だって! マルはわたっ俺の友達なんです!」
「お前は友達になったら家に帰ちてあげないのでしゅか!」
「うぅーー!! でも、もう会えないとか寂しいじゃないですか!」
「わがまま言いやがって生意気でしゅ!」
「もーー! なんで分かってくれないんです!」
「にゃはははははははっ!」
俺とトラの言い合いを彩葉の笑い声が遮る。
見れば彩葉はお腹を抱えてドランカーごと震えて笑っている。ドランカーは揺さぶられ凄く迷惑そうな顔をしている。
「いや~おかしいっ! にゃふふふっ」
笑って涙目の彩葉が涙を拭いながら俺らを見ると再びブッと吹き出す。
「先輩ってこはりゅにいつもそうやって怒られてるんですか? どう考えても今のこはりゅの感じ、マスターとサポーター逆じゃないですかってお腹痛い、ふふふふふふぁっ」
うん、実はこれで合ってるんですけどね。とは言えず笑う彩葉を2人で見ていると落ち着きを取り戻したのかフーフーいいながら肩で息をする。
「なんでこはりゅが説教して先輩が我が儘言ってるってふふっ しかも先輩の怒りかたっ! ふふふふふ」
よほどツボに入ったのか話し始めるがすぐに堪えきれないのか笑が止まらなくなる彩葉を俺とトラは見守る。
「ふふ、ごめんなさい。だって面白かったんですよ。先輩、私のおばあちゃんにドランカーに会わせて欲しいお願いしてみればどうです? お店の裏がおばあちゃん家だから私もお願いしてあげますよっ」
「う、うん。お願いします」
楽しそうな彩葉を先頭にドランカーを連れておばあちゃんのいるお茶屋にたどり着く。
お茶の匂いが香る中、彩葉が大きな声で叫ぶ。
「おばあちゃーん! お母さんから聞いてる? ドランカー連れて帰ったよ~」
奥でゴソゴソ音がして人の気配が近づいてくるとすぐに着物に
「大きな声出さんでも聞こえとるからの。そがな耳遠いくないわ」
「えー都合悪いとき聞こえないのぅってすぐ言うじゃん! まあいいからほらっドランカーっ!」
彩葉に抱き抱えられてうにょーんと伸びるドランカーを受け取ると嬉しそうによしよしと抱っこする。
「でね、おばあちゃんこっちの人がドランカーを見つけてくれた虎雄先輩とこはりゅ」
「お~そうかい、そうかい。すまんねえ、ありがとの~。ちょっと待ちんさい」
おばあちゃんが深々とお辞儀をしながらお礼をいうと直ぐに奥へ戻り封筒を持って現れる。
「これ、少なくてすまんけど」
差し出される封筒には恐らくお金が入っているのだろう。そういえばチラシにお礼しますって書いてあったような……。
「あの、その……遊びに来たらダメですか? ドランカーに会いに」
お金を受け取ろうともせずに発するトラの突然の言葉におばあちゃんと彩葉が目を丸くしてトラを見る。高校生と言えどもそこは手順ってものがあってだな、
「いえいえ、お礼なんてぇ」チラッ
「僕そんなつもりじゃないんですー」チラッチラッ
「うーんそこまで言うなら、すいませんねえ」ニヤリ
みたいな手順を踏むのが常識だ。「せめてお金は結構ですぅー」チラリン と断ってから自分の言いたい話を進めるんだ。妙に子供っぽいというか自分の言いたいことを優先したがる。。
「名前はなんと言ったかの?」
「梅咲虎雄です」
名乗ったトラをジーと見るとおばあちゃんはフッと笑う。
「ドランカーを何て呼んどった?」
「え? あ、はい、マルです」
「そうかい、じゃあ好きなときに来んさい。して好きに呼ぶといい。ネコなんぞ場所場所で呼び名が違うもんじゃからのぅ。虎雄からはマルと呼ばれた方がいいじゃろ」
その言葉を聞いたトラがパアッと明るい顔になると俺の元に駆け寄る。
「き、聞きました? あうぅ、聞いた? 来て良いって! マルと遊んで良いって! お、オモチャ持ってきましょう! いや新しく買おう!」
「あぁはい、はい。良かった、良かったでしゅねぇ~」
興奮して鼻息荒く俺の手を取りブンブン振るトラを適当にあしらう。そんな俺らを面白そうに見ていたおばあちゃんが今度は俺に近づいてくると瞳を覗かれる。
「ふーん、妹の方は……なかなかいい性格してそうじゃのぅ」
老人とは思えない鋭い眼光に睨まれ固まる俺を置いて、おばあちゃんは彩葉と俺を見比べる。
「彩葉とこの子は似とうの。気が合いそうじゃ」
「あ、分かる? こはりゅは私と友だち、ううん姉妹になれると思うんだっ」
「そうじゃろうの、してこの虎雄と彩葉は相性良さそうじゃのぅ」
「はっ?」
「はっ?」
気の合う俺と彩葉の台詞がシンクロする。
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次回
『トラは後輩を誘うわけで』
なぜドランカーが逃げ出したのか? それはテレビで格闘の中継を見るおばあちゃんの膝の上に寝てたドランカーでしたが、興奮したおばあちゃんが右のフックを放ちテレビをひっくり返し驚いて外に飛び出てしまったからです。という裏話。
そんな会話を差し込もうと思ったけど出来なかった! 話の流れのどのタイミングで入れるか見失ってしまった! 大縄跳びでも入るタイミング見失いがちです。
分かる! いや簡単だろ! そんな御意見、感想などありましたらお聞かせください。
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