第33話 名前はドランカーなわけで
土曜日の朝、俺がリビングでくつろいでいると母さんがお茶を片手にやってくる。
「心春ちゃん今日は予定ないの?」
「はい、
「じゃあ、まったりしましょう」
母さんはお茶を飲みながら広告を眺める。俺はぼんやりテレビを見る。完全に休日の休みの体である。
そんな俺は部屋着を着ているのだが、もこもこのパーカーつきルームウェア(ピンク)にもこもこのスリッパ(ピンク)を履いている。頭にはもこもこのリボン(ピンク)ピンク&もこもこ尽くしである。
まさに完全休日仕様である。そしてネコさんも今日はお休みなのだ。それでも俺は可愛いわけである。
俺が椅子の上で足をパタパタしていると外の方でトラの声が聞こえてくる。
独り言? 誰かいるわけないしな。気になった俺がこっそり近付くとウッドデッキに出たトラが何かに話しかけている。
「こうですか? これは? うりゃうりゃ」
はて? こいつは何をやっているんだ?
俺はそーと近付き屈んだトラの背中からピョコンと顔を出す。
そこにはモフモフな物体が!?
猫? 白地に黒い斑の猫とトラがじゃれている。
「ネコでしゅか?」
「うん、前に留守番したときに出会ってそれからよく来るんです。大分仲良くなって今ではこうやって遊んでくれるんですよ」
トラが玩具の猫じゃらしを揺らすと猫がパンチを繰り出しじゃれる。物凄く懐いてるようだ。
「上手でしゅね、わたちはネコとか
俺が誉めると嬉しかったのかニコニコしながらトラがウッドデッキの上に置いてある収納ボックスを開ける。
「他にもこんなのがあるんですよ」
ウッドデッキの上に次々と猫の玩具が並べられていく。
「まてまて待つでしゅ! トリャ一体
「10個位ですかね?」
こいつ最近1人で楽しそうに買い物行くと思えばコレが目的だったのか。
全く勝手に猫と仲良くなっても多分母さんは飼ってくれないぞ。
それにこの猫、顔面を殴られ、口から出血したような変な模様。非常に残念な柄……あれ? どっかで見た気がするぞ。
俺はリビングに戻ると前に彩葉から渡されたチラシを物置棚から引っ張り出す。
『迷子猫探しています』
そんな見出しから始まるチラシには猫の写真が掲載されている。むむ、この残念な柄は間違いない!
俺はウッドデッキに戻ると写真とトラとじゃれる猫を見比べ最終確認を行う。
「間違いないでしゅ! この子は、いりょはの猫どりゃんかーでしゅ!」
「ドランカー? えー人違いですってこの子はマルですよ。ねーマル」
トラが笑いかけながら猫じゃらしを激しく振る。
こいつ勝手に名前付けやがって。俺はスマホを手にして彩葉に電話をかけるとすぐに繋がる。
〈やっほーこはりゅ! どうしたの?〉
明るい声が耳に響く。朝から元気な子である。
「えっとでしゅね。前にいりょはが言ってたネコ、どりゃんかーが
〈えーー!? 本当に!? どこ? どこ行けばいい?〉
電話越しでも彩葉がバタバタし始めたのが分かる。
「こはりゅの家にいましゅ。えーと家分かりましゅ?」
〈あー分かんない。近くに目印とかなんかない?〉
恐らく出かける準備をしているのだろう声が遠くなったり音量が安定しない。
「こはりゅが迎えに行くでしゅ。元町のコンビニ分かるでしゅ? あそこなら近いでしゅ」
〈あーそこなら分かるよ。そこに行けば良いんだね?〉
「はいでしゅ」
〈うん分かった! 直ぐ出るからどっちか先着いた方が連絡しよう〉
彩葉との電話を切ると目の前に母さんがニコニコして立っている。その手にはお洋服が……
おぅ聞いてたのね。そしてこの格好のままでは行かせてもらえないのですね。
…………お着替え中
はい、完成です。袖がふんわり膨らんだブラウス(ベージュ) ワイドシルエットのサスが付いたデニムパンツ(インディゴブルー) スリッポン(黒) 頭にはリブターバン(青)で頭上に大きなリボンを作る。 ココでネコさんがリブターバンの横からピンを差し込んで左側にやってくる。「せっかく休日だったのににゃー」とか聞こえてきそうだ。
えーえー改めて今日も可愛い俺ですよ。
母さんも行こうかって言われたけどたまには1人で出掛けたかったし断ると猫のドランカー(仮)はトラに任せて外へ出る。
出て直ぐに近所のおばちゃんに声をかけられる。
「あら? 心春ちゃんお出掛け? 気を付けてね」
「はい、ありがとうでしゅ」
家から出て歩みを進める度に声をかけられる。
「今日は1人かい?」
「暗くなるまでには帰っておいでよ」
「今日も可愛いわね。転ばないようにね」
これらに「でしゅ、でしゅ」と答えコンビニに向かうのだが、少し歩いただけでこれだ。最近近所の俺に対する認知度が上がってきている気がする。母さんの宣伝効果もあるのだろうがな。
虎雄のときも会ってるはずなのにこんな人たちが近くにいたことなんて気にもしなかった。心春になって視線は低くなったけど見えるものは広く増えた気がする。
なんか哲学ぽい!? 考える幼女ってなんか良いな。どうでもいいことを考えながらコンビニに向かう。
* * *
丁度コンビニの駐車場についたとき声が聞こえる。
「おーーい! こはりゅーー!」
走りながら手を振ってくる彩葉に軽く手を上げるとニッコニコで俺の前で膝に手をつきゼーゼーいいながら息を整え始める。
格好はニットのセーター(ブラウン) ワイドストレートのパンツ(黒) スニーカー(ブラウン) 注視するは髪を左サイドににまとめヘアピンでバッテン留めしているのだがその4本が(赤・青・緑・黄)と色が全部違うあたりに彩葉の拘りを感じる。ただ髪は全体的にピョンピョン跳ねているので急いで来たのが分かる。
手には紙袋を持っていてその袋をガサガサ音を立てながら腕を振って俺を急かしてくる。
「じゃあ、こはりゅん家行こう! ドランカーいるんでしょ?」
「たぶんそれっぽいネコがいるかもってことでしゅ。間違ってたら申し訳ないでしゅ」
「良いって良いって! 今までも目撃情報は空振りに終わったし。こはりゅの家に行けるってだけでも嬉しいからいいんだって」
「それなら良いでしゅけど。ネコはトリャが面倒見てるでしゅ」
「トラ……」
トラの名前を聞いてあからさまに嫌そうな顔になる彩葉。この子顔にすぐ出るな。俺らは歩きながら話を続ける。
「ネコはトリャに懐いてるんでしゅ」
「ふーん、まあいいけど。それよりこはりゅの家へ案内してよ」
トラのことなど心底どうでもいいって感じの態度をとる彩葉。あいつそんなに嫌われることしたかな? 興味本位で俺は聞いてしまう。
「
その質問にちょっとハッとした表情を見せ罰が悪そうに謝られる。
「ごめん、こはりゅにとってはマスターだもんね。私すぐ態度に出るから嫌な感じにさせちゃったよね」
「えっと大丈夫? でしゅよ。ただ気になっただけでしゅ」
大きく息を吐いて項垂れる彩葉。
「別に直接何かされたとかじゃなくて、ただ最近の学校の噂で金髪の人とお嬢様を
それをこはりゅに注意されて腹いせにこはりゅを危険な目に会わせたんじゃないかって」
なんですと!? トラの評判はそんなことになってるのか? でもクラスでは皆気さくに話しかけてくるけど……あ、まあ一部とはあまり関わらないけどそれって普通だし、トラの人となりはそれなりに見ているはずだからそんなことは言わないと信じたいところだが。
どちらかと言えばトラのことを知らない上級生や下級生からはそんな感じに見られているのかもしれない。面白半分ってのもあって噂なんて尾ひれがつくものだろうし。
普通に考えて來実と珠理亜がトラの周りをうろうろしているこの状況は目立つし浮いてると言えば浮いてるよな。
トラも悪いんだが俺の為にもフォローしておかないと。
「トリャはそんな事しましぇんよ。ちょっとなよなよしてましゅけど、良い
あえて言葉を繕わずシンプルに否定してみる。彩葉がそんな俺をジーと見つめる。
「こはりゅがそう言うならそうなのかもね。私は噂でしか知らないわけだし。ところでさー」
彩葉がニヤリと笑う。
「前も言ったけどこはりゅって性格悪いでしょ? それに本当は言葉遣いも悪い。これは間違ってないよねっ?」
「うぅ、しょ、しょんなことないもんでしゅ!」
「にゃふふふ、『ないもんでしゅ!』だってぇ。動揺してるぅ?」
口に手を当て「にゃふふふ」と不適な笑いをする彩葉に後退りする俺。
「さっき言った『やちゅ』って『奴』のことだよね。学校では『トリャ』か『おにいたん』て呼んでるのにねぇ。それにさ私知ってるけどたまーに『俺』って言わない? 実際は『おりぇ』だけどね」
うわわわわわ、聞かれてる!? この子ヤバい油断ならないぞ……ん? でもまてよ。
「み、認めるでしゅ。でしゅけどそんなに
「そんなの当たり前じゃん! 興味ないものなんて観察するわけ無いじゃん」
あ、この子が言うと納得……
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次回
『ドランカーはマルなわけで』
部屋用の服ってありますか? 私はあるんですが完全に気の抜ける服なんで一度着てしまうともう外には出られません。
でも着ると落ち着くんですよねぇ。
そんな服持ってるよ、いや家でもスーツ着てるなどの御意見、感想などありましたらお聞かせください。
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