第32話 メールは暗号なわけで
今日は日曜日。俺は母さんと2人でお出かけ中である。
トラはお留守番。前回の様に女の子を家に入れて2人っきりになっては駄目だと釘を刺しておいた。
今日の目的は俺用のスマホを買いにきたのだ。いや俺が欲しいって言ったわけじゃないよ。母さんが連絡を取り合いたいって言うから来たわけだ。
家でも結構な時間話をしてるのに連絡を取り合いたいって何を話せばいいんだよ。
それに母さんはあまり電気機器に詳しくないのに自分も買い換えるって息巻いてる。
電気機器を見るのは好きだから良いんだけどな。ただ背が低くて見辛いのが難点だ。
俺はピョコピョコとジャンプしながら台にディスプレイされている機種を見ていく。
跳ねる度にスカートがふんわりと揺れる。実はこれが周囲を癒してるとは露知らずである。
そんな俺の格好はカットソーのワンピース(アイボリー)にレギンス(白)シューズ(薄いブラウン)のシンプルで可愛いコーデだ。髪は上に上げて頭上付近でお団子を作っている。ネコはお団子付近の左側に御健在だ。
そう今日も俺は可愛いわけである。
「心春ちゃんのはこっちから選んだ方がいいのかしらね」
母さんが見つめるのはキッズ携帯コーナー。
むむむ、あれって電話とメールしか出来ないやつだよな。
もう少し自由に使えるのが欲しいのだがな。ちょっとイヤイヤして普通の買ってもらうか?
母さんの顔を覗き込むと物凄く楽しそうに選んでいる。
うぅ、言いづらい……最近の母さん凄く明るい気がするんだよな。
俺(心春)が来たからではあるんだろうけど生き生きしてる感じだ。そんな姿に水を差すようで我が儘を言うのをためらってしまう。
冷静に昔を思い出せばここで駄々こねても良いことないし後味悪いんだよな。
「心春ちゃんは何か希望ある?」
「んーこはりゅはネットワークに
「心春ちゃん詳しいわねえ。お母さん疎くてね。店員さんに聞いてみよっか?」
母さんが店員さんを呼んで詳しく説明を聞く。正直俺もキッズ携帯に関しては詳しく知らないし説明を眠くならない範囲で真剣に聞く。
その真剣な瞳に店員さんが実は萌えていたことなど知るよしもないわけだ。
「お嬢さまは可愛いだけでなく、お利口さんなんですね」
「いえいえ、ありがとうございます。自慢の娘なんですけどね」
店員さんに誉められ母さんは凄く嬉しそうである。
「お名前は何ですか? 年はいくつ?」
「
年!? 何気に考えてなかったぞ。今更「アンドリョイドでしゅー」とか言いにくいな。
えーと確か小学低学年位だから6歳で入学だろ……
「な、
この瞬間、心春の年齢が決まったわけなのだが7歳で舌足らずってどうなんだろ? 新たな疑問が俺の中に沸いてくる。
「心春ちゃん、飴いるかな?」
「わーいありがとうでしゅ!」
店員さんが「まあ……」とうっとりして満面の笑みを見せ喜ぶ俺を見ている。
どうよ、この俺の世渡り術。完璧幼女であろう!
我ながら上手いものだ!
俺は店員さんにお礼を言ってポシェットに飴を入れる。
「後の楽しみにしましゅ」
「まあまあ、本当にお利口ですねえ」
店員さんも上機嫌、母さんも嬉しそうだ。
そんな和やかムードを作り出した後俺はスマホを手にすることが出来た。
なかなかスタイリッシュなキッズ携帯だ。見た目は申し分ない。下から伸びるピン意外はな。
引っ張るとアラームがなって自分の居場所を登録した連絡先と警察に自動で知らせてくれるらしい。
後は電話とメール、簡単なアプリしか使えない。もちろんネットの閲覧は出来ない、残念である。
まあそれでも自分専用ってのは悪くない。それに母さんも新しいスマホにご満悦だ。
「心春ちゃん。ちょっと本屋さんに寄って良い?」
母さんと本屋さんに寄ると母さんはスマホの使い方を立ち読みしてふんふん言いながら操作方法を見て良さげな本を探しているみたいだ。
俺はフラりと雑誌コーナーを歩くとバッタリと1人の女の子に出会う。
「あれ? こはりゅ。なにしてんの?」
彩葉の登場である。ん? 何気に私服は初めて見たな。
どれどれ、丈が膝上のワンピース(白)にデニムパンツ(紺)に薄手のジャケット(紺)を羽織、スニーカー(アイボリー)、頭には左耳の上に大きめのヘアピンが斜めに刺さっている。
なんか親近感を感じる。
「どうしたの? ジーと見て」
「可愛いお洋服だと思ったんでしゅ」
まあ嘘ではない。そんな俺の言葉にご満悦な彩葉がニッコニコで俺の服を見てくる。
「前々から思ってたけどこはりゅの服装って私好みだよね。趣味が似てるっていうか」
「お母しゃんが選んでくれてましゅ。あっちにいるでしゅよ」
「こはりゅのお母さん!? 会ってみたい!」
あれ? 普通知り合いのお母さんとかあんまり会いたくないものじゃないか? まあこの子変わってるから会いたいのかもしれないな。
「いいでしゅけど、今忙しそうでしゅからもうちょっと待って下しゃい」
「うんいいよー。で、こはりゅは今日は何しに来たの?」
「それはこれでしゅ!」
ポシェットから自慢気にスマホを取り出すと高く掲げる。
「お~!? スマホ買ってもらったんだ。へー中々カッコいいデザインだね!」
「でしゅよね!」
最近「可愛い」ばっかり聞いていた俺は彩葉の「カッコいい」にテンション上がる。
「じゃあ私と連絡先交換しようよ!」
「いいでしゅよ」
彩葉と連絡先を交換する。何気にこの子が母さんに続き2番目の登録になる。
「心春ちゃん帰ろうっか。なにか欲しいものあった?」
彩葉との交換が終わったのに合わせるかのように母さんが声を掛けてくる。
「あら? そちらの子は?」
「こんにちは! 私、茶畑彩葉といいます。虎雄先輩の後輩で、こはりゅちゃんの親友です! いつもお世話になっています」
なぬっ!? いつから彩葉と親友になった。
「あらあら、元気ね。私は梅咲 嘉香。心春ちゃんと虎雄の母です。よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
彩葉は母さんをちょっとだけ見つめるとにっこり微笑む。
「あの、今度お家に遊びに行ってもいいですか? 私、こはりゅちゃんと遊びたいです。それにお母様に洋服のコーデについて聞きたいです! こはりゅちゃんの服装可愛いって学校でも評判なんですよ!」
「あらあら本当に? 恥ずかしいわね。ええ良いわよ。彩葉ちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎!」
「はい! 楽しみにしています。あ、あとこれ私の家の猫を探しているんでもし見かけたら連絡してもらえると嬉しいです」
彩葉がビラらしきものを取りだし母さんに渡す。
「うん分かったわ。見つけたら連絡するわね。それじゃあ彩葉ちゃんいつでも遊びにおいでね」
「はい! それでは失礼します。こはりゅもまたねっ!」
彩葉は手をブンブン振って去っていく。
「元気で可愛い子ね。今度お招きしましょうね」
「そ、そうでしゅね」
彩葉に誉められ更に上機嫌になる母さん。茶畑彩葉の性格もあるんだろうがあの距離感の取り方は見事だ。
この母さんの懐に一瞬で入りやがった。出来る子だな……
俺は感心しながら母さんに手を引かれ家路につくのである。
* * *
後日……
授業が終わり俺はスマホの画面をチェックする。あ、これはサポーターであるアンドロイドに許された権利であって校則違反ではないぞ。
家族と連絡をとるのもサポーターの仕事だから問題ないのだ。
ん? メッセンジャーアプリに①とアイコンが表示されている。どうやらメッセージがあるようだ。
アイコンをタップして開く。
〈心春ちゃん元気ですか? 初メール! わーい(*´・ω・)〉
微妙に顔文字おかしくね? いや口のωとか可愛いけどさ。
☆ ☆ ☆
別の日……
〈公民館で占拠した後、敗者逝ってきまーす\(^-^)/〉
うっ……母さんが言うと本当に公民館くらい軽く占拠しそうだから困る。後半は何? 誰かにトドメさすのかな? 顔文字が恐怖を煽る。
☆ ☆ ☆
更に別の日……
〈トラに伝えて今日の晩御飯は死中だから帰り道に人人と牛乳狩ってきて!? 後で金あげるから。
心春ちゃん頑張ってますか? お家にいなくて寂しいです。帰ったらいっぱい遊んでやります( ・`д・´)〉
……人人? 後半の文、必要ないだろ。最後の一文は我が身の危険を感じるな。
俺はそっとスマホをポシェットに入れる。
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次回
『名前はドランカーなわけで』
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