第30話 後輩は心春が好きなわけで
「今日も本を借りるのでしゅか?」
「うん、この間借りたのはもう全部読んだから」
俺たちは学校の廊下を歩き図書室へ向かう。本日はトップスはだぼっとしたのVネックのニット(緩いベージュ)。ミドル丈のワイドパンツ(グレー)。足はレースアップブーツ(黒)だが今は校舎内にいるからスリッパだけど。
髪はハーフアップであるが前回の様にお団子は作らず長い髪だけを集めて結びラフな感じにしている。
毎度母さんの熱意には圧倒される。何が彼女を突き動かすのか知りたいもんだ。
「心春、着いたよ」
トラがドアを開け俺を先に入れてくれる。こういう気遣いがこいつがモテる理由なのかもしれん……
俺はちょっと項垂れる。というのも最近トラの周囲の評価は高くなってきているのを感じるからである。
元々周囲の人と打ち解けてなかった俺は友達がいなかったが、ここ最近は男女問わずあちらから話しかけてきてトラと仲良く話す姿をよく見るのだ。
む~なんだか嫉妬してしまうなあ。でも久野だけはなんか冷たい感じがする。明るい性格なはずだがトラのことはあんまり好きじゃない感じかな。話すけどトゲがある感じだ、俺には優しいけどな。
そんな態度に対しトラは苦手意識を持ってしまったのか久野の視線に敏感である。敵意ある目に対して怖いって感じだろうか。
トラは自分の興味のある本を探している。なんか凄く楽しそうである。前もちょっと言ったがこの御時世に紙の媒体を好き好んで読むのは一部の人間である。
図書室だって興味ある本のデータを自分の端末に移すだけで良いのだがトラは持って帰って紙で読みたいらしい。俺からしたら変態である。そんなことを考えながら歩いていると一人の少女が手を伸ばし上にある本を取ろうとしていた。
背が低くて届かないのだろう爪先立ちしている足がプルプルしている。
ここで俺が颯爽とその本を取ってあげればカッコいいのかもしれないがこの体では無理である、トラでも呼んでくるか。
「あれ? こはりゅじゃない?」
「ほえ?」
突然名前を呼ばれ変な返事をしてしまう。
「ぷー「ほえ?」だって! なにその可愛いへんじー、にゃはははは」
「むきぃーー! 突然なんでしゅかって……確か前に本屋しゃんで会った人。
お腹を押さえ俺を笑うその少女は自信満々に名乗る。
「覚えてくれてた? わたしは
ニッコニコの彩葉が名乗ってくるなり無茶振りをしてくる。
「取れるわけないでしゅ。
「まあまあ、そこをなんとかやってみてよ。もしかしたら取れるかもしれないじゃん。奇跡的にねっ」
どんな奇跡だよって思いながら取り敢えず背伸びして手を伸ばしてみる。当たり前だが届かない。
「やっぱ無理かー。でも可愛いこはりゅが見れたから良いや。う~ん、う~ん言いながら必死で手を伸ばす姿は可愛いっ! ほらこれ」
彩葉がスマホの画面を見せてくる。そこには必死に手を伸ばす俺が写っていた
「いつの間に……」
「へへん、待ち受けにしよっかな」
「や、やめるでしゅ!」
スマホを見て嬉しそうな彩葉を止めようと手を伸ばす。それをさせまいと手を上げ阻止する彩葉と俺がわちゃわちゃと揉み合う。周囲から見ればちっこい2人が遊んでいる様にしか見えないだろうけど。
「貴方たち、静かにしなさい!」
「ごめんなさい」
「すいませんでしゅ」
図書室を管理する先生がやって来て怒られた俺たちは頭を下げて謝る。
「ふふ、いいねなんかこういうの」
「な、なにがでしゅ」
「んー? 悪いことして一緒に怒られるってのがいいなあってこと」
なに言ってんだこいつ。理解できない俺は首を傾げる。
「う~ん、さっきの先生に本取ってもらえば良かったねぇ。さてどうしたものか……おっ! そうだ、こはりゅ肩車しよう! 2人で力を合わせればやれるよ。こはりゅが下で私が上ね!」
「なに言ってるでしゅか! こはりゅが下っておかしいでしゅ!」
「にゃはははは、怒ってる。かわいいっ!」
怒る俺を見て指差して笑う彩葉にイラッとする俺。そもそもこいつは会って2回目でなんでこんなにフレンドリーなんだ?
頬を膨らませる俺を彩葉が突っつく。流石に頭にきたぞ! 攻撃力ゼロの体だが全力で攻撃してやる!
「やっぱりこはりゅってすぐ怒るんだねっ。みんな可愛い可愛いって言ってるけど本当の性格まで知らないじゃない?」
「な、なんでしゅか
彩葉の言葉に驚き、怒りを忘れてしまう。
「こはりゅと誰だっけ? マスターの人。あの人のことよく怒ってるでしょ。前に何回か見たことあるんだ。なんかマスターとアンドロイドの立場が反対って感じで面白いなーって思ってたんだよね」
みんなの前、特に学校では気を付けていたつもりだったが見られていたとは……いや頻繁に怒ってるから見られたことはあるが「仲の良い兄妹みたいだね」って感じで片付けられていた。
こいつ意外に鋭いのかも。思考する俺に彩葉が追撃してくる。
「何て言えば良いかな。こはりゅって意外に性格悪いでしょ」
「むうぅ」
ぐうの音も出ないとはこのことか。何も言い返せないぞ。
「見た目ものすごーく可愛いのにそのアンドロイドにあるまじき性格……」
「ぬぬぬぅ」
「私はねっ、そんなこはりゅのことが気に入ったんだ! ううん、好きだなっ! なんて言うか親近感を感じるんだっ! どう? 私の家に来ない?」
「はえ?」
彩葉の突然の申し出に俺は固まる。この体になって約1ヶ月。可愛いーと言われ続けたが自分のことを好きだと言われたのは初めてな気がする。
しかも内面込みで。
「え、えっと」
戸惑う俺をニコニコしながら頷き答えを待つ彩葉。いや答えなんて持ち合わせてないんだが。
「心春、本借りるけど心春のはある?」
いいタイミングでトラが登場する。その登場に彩葉はさっきまでのニコニコ顔から一変しトラを睨む。
「え……」
その敵意ある目に怯えるトラは後退る。
「先輩、あなたの噂は聞いています。こはりゅが危ない目にあったってのも知ってます。女の子と仲良くするのは勝手ですけどこはりゅに迷惑をかけるあなたに一緒にいる資格はないと思います!」
彩葉のハキハキとした宣言にトラは何も言い返せず黙ってしまう。
「こはりゅ、返事はいつでも良いからねっ。急かしたりはしないし、もっと私のこと知りたいならいつでも会うよ。じゃあまたねっ」
彩葉が手を振って図書室を出ていく。取り残された唖然とする俺と涙目のトラ。
なんだかよく分からんが今1つだけ言えるのは本は取らなくて良かったのか彩葉? そんな疑問を持つ俺の横で項垂れるトラ。
────────────────────────────────────────
次回
『傷心のトラを励ますわけで』
個人的に紙の本が好きなのでアンドロイドと共存する世界であっても紙の媒体を消したくないなぁってことで本屋さんや図書館の描写があったりします。
電子書籍も便利で利用するんですけどね。
お、今回は真面目だなんて御意見、感想ありましたらお聞かせください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます