第29話 幼馴染みとお嬢様は走るわけで

 楓凛さんが俺たちに放った原付アタックを避けその姿を見送った後に俺はトラに文句を言うわけである。


「トリャ! なにちれっとしれっと楓凛しゃんに会って楽ちくやってるでしゅか!」


「ご、ごめんなさい。ちゃんと真面目に修行してるって伝えた方が良かったですよね」


しょうそう言うことではないでしゅ」


 俺が嫉妬心をぶつけようとしたときである。珠理亜お嬢様がランニングウエアー姿で爽やかに現れる。

 いかにもさっきまで走ってましたよ、みたいに額の汗をタオルで拭っているが怪しさ満天だ。


「あら? 虎雄さんこんなところで会うなんて偶然ですわね。これは……うんめ……運命で……」



 なんか最後の方「運命で結ばれているのかもしれませんわね」とかゴニョゴニョと言ってた気がするがトラには聞こえてないし俺は聞こえないふりをしておく。

 そもそもこんな珠理亜の家や学校、俺の家からも離れたこの公園にお前が来る意味が俺には分からん。


「珠理亜さんも走るんだ。途中まで一緒に走る?」


「え!? ええ! はい是非!!」


 無自覚トラが珠理亜をランニングに誘うと珠理亜は顔を赤らめながら手をバタバタさせ喜びを爆発させているようだ。

 こうしてこいつを見るとなかなか可愛いものだな。

 俺が繁々と見ているとその視線に気付いた珠理亜が嬉しそうな表情のまま微笑んでくる。


「心春さんは可愛い自転車に乗っていますのね。ジャージ姿も可愛いですわ」


 トラに誘われたのが嬉しかったのか学校で見せることないような笑顔の珠理亜にちょっとドキッとしてしまう。


「珠理亜も可愛いでしゅよ」


「俺も可愛いと思う」


 実際に珠理亜を可愛いと思ってたのもあるが可愛いと誉められたからには誉め返そうとして言った言葉にトラが乗ってきやがった。

 そのトラの言葉に顔を真っ赤にして両頬を押さえながら体全身を左右に大きく振って恥ずかしがっている。

 なんだかさっきから行動が可愛いな。


「学校間に合わないといけないし早く帰ろう」


 俺たちにトラが公園の時計を見ながら伝えてくる。


「そんな時間でしゅか、はやく帰るでしゅ」


 俺の声で2人が走ろうとしたときである。


「よ、よう! 朝からランニングか? 私はコンビニの帰りなんだけど奇遇だな」


 ここで不器用ギャルの登場である。なんで俺の家の隣に住んでいる住人が1キロ圏内にコンビニでがあるのにわざわざ3キロ以上離れたコンビニに行くんだよって話しだ。仮に行くにしても登校前には行かないだろうよ。


「そのさ、たまたまなんだけどさ、スポーツドリンクがあるんだけど飲むか?」


 と恥ずかしそうに視線を反らしながら袋から取り出したスポーツドリンクをトラに差し出す來実。

 むむ、なんかこいつも可愛いく感じるぞ。


 そのスポーツドリンクをバシッと無表情な珠理亜が奪い取るとゴクゴク一気に飲み干す。


「ありがとうございますわ。喉が乾いてましたの」


「あーー!! お前の為に買ったわけじゃねえよ!」


「そうですわ、虎雄さん喉が乾いているのならわたくしのドリンクがありありますの」


 腰のドリンクフォルダーからドリンクボトルを抜くとトラに差し出す。

 そのドリンクボトルをガシッと來実が奪うとゴクゴク飲み干す。


「ちょーど喉乾いてたんだよな。悪いな珠理亜」


「あーー! あなたの為に持ってきた訳ではないのですわ!」


 2人とも何気にネタバラシをしているがそんなことは気付かないトラは争い始める2人をオロオロしながら見守る。

 さっきまで俺が可愛いなんて思ってた2人の面影はなく言い争いを始め、いがみ合っている。


「來実さん前から言おうと思ってましたがあなた少しガサツですわよ! 普通人のドリンクボトルを飲む人なんていないですわ」


「あ? 人が買ってきたもの飲む奴に言われたくないね! てかドリンクボトルってお前の飲みかけか?」


「の、飲みかけ!? 新品ですわよ。飲みかけってそんなことしたら間接キっ……そんなこと思い付くって來実さん変態ですわ!」


「へ、変態だと!? わ、私は変態じゃない!」


 あ、これ終わらないやつだ。結構早い段階でそう悟った俺はのんびり思考で考えたことを行動に移す。


「みなしゃん、遅刻するでしゅよ。さあ、トリャ走るでしゅ!」


「え、ええ? 2人はいいんですか?」


「いいから走るでしゅ! そしたらかいけちゅ解決するでしゅ」


 微妙に言葉遣いが戻るトラにイラッとしながら俺は強引にトラを走らせる。 


「くりゅみ、珠理亜。わたちたち私達しゃきに帰りましゅよ!」 


 自転車を漕ぎながら2人に呼び掛ける。


「あぁ待て! 私も行く!」

「わ、わたくしも!」


 2人が慌てて走ってついてくる。俺の目論み通りである。

 ちょろいな。ニヤリと笑う俺は勢いよくペダルを漕ぐ。


「ほりゃトリャ! 急ぐでしゅよ!」


「えーと、置いていっていいんです?」


「置いていくんじゃないでしゅ。導くんでしゅよ」


「おぉ! マスターカッコいい!」


「言葉じゅかい戻ってましゅ! いいから走るでしゅ」


 俺が手を振り上げ怒るとスピードをあげトラと走って家に向かっていく。



 * * *



 トラたちを追いかける2人はその背中を見つめながら走る。


「おい、なんでお前虎雄に言い寄ってるんだ」


「それはこっちの台詞ですわ。あなたこそなぜ急に虎雄さんに近づいていますの」


 走りながら睨み合う2人の間に火花が散る。


「まあ理由なんてどうでもいい。お前には負ける気はないからな」


「ええ、わたくしもあなたに負ける気はありませんわ」


 言い合いながらスピードをあげてトラを追いかける來実と珠理亜はこのときまだ知らないライバルが増えることを……


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 次回


『後輩は心春が好きなわけで』


 何気に喋りながら走るって大変だと思います。

 それなのに水分補給(おそらく500ml)一気にして、言い合いして、走りながら喋る……來実と珠理亜のポテンシャルは結構高いのだろうと推測されます。


 自分は走りながらこんなこと出来ますよなどの自慢、御意見、感想などありましたらお聞かせください。

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