第18話 将来の話をするわけで
テーブルの下で椅子に上ろうとピョンピョン跳ぶ俺を宮部さんが救いだし座らせてくれる。ほんとこの人イケメンだな。
ようやく椅子に座りテーブルに手をかけると、さっきまで珠理亜と建造さんが言い合いをしていたときとは打って変わって和やかな空気が漂っている。
「虎雄くん先程の発言感動しましたわ」
美鈴さんがトラを見て微笑むと次に珠理亜を見る。
「それで珠理亜はどうなのかしら?」
「わ、わたくし!? ど、どうってな、なんでしょう?」
シドロモドロになる珠理亜。
なんでだろ、いつもは女子の動きなんて気にしてないし細かい仕草とか気にもならないのに今は手に取るように分かるぞ。
いくら今の珠理亜が分かりやすい状態とはいえこの下を向いて視線を微妙に合わせないくせに、トラが見てないときにチラッと見て頬に熱が入る感じ。
学校で見る感じと違ってほわほわした乙女な雰囲気を醸し出してやがる。そしてトラとたまたま目が合ってトラが微笑んだら顔が真っ赤にして下を向く。こいつこんな可愛い表情するのかってくらいトラを意識しているのが伝わってくる。
そんな珠理亜を見て美玲さんは笑みを浮かべ頷くと今度は建造さんを見る。
「あなた、虎雄くんをどう思いますか? 私は先程の発言といい、心春さんを作った実績を加味しても文句なしだと思いますわ。そしてなにより本人同士が良いといってるのですから跡継ぎとしてこれ程相応しい人はいないと思いますわ」
「う~む……」
なんだ!? 跡継ぎって不味い……非常に不味い。どうするなにか手だては……あっ、ねむ、おぉヤバイ容量超えそうだった。
ふらつく頭で建造さんを見ると腕を組み悩む建造さん。
そりゃあ悩むよな娘が友達つれてくるって気にして来てみれば娘と喧嘩してそのまま、なんか縁談みたいな話に発展してるし。
今のトラが珠理亜と付き合いゆくゆくは……みたいなことにはしたくない。そんなことしたら俺が戻ったとき色々弊害が起きる。
よく悩んで反対するのだ建造さん! もうあなたに頼るしかない。ふらつき始める意識の中俺は祈る。
「旦那様、宜しいでしょうか」
きな子さんが静かに立ち上がる。予想だにしない人物の発言に皆の視線がきな子さんに集まる。建造さんが頷き、美玲さんがジェスチャーで発言を促す。
「虎雄様は心春様を作られただけでなく、私の右足の不調も見抜かれました。アンドロイド製造において人体工学の知識は必要不可欠ですが、私の不調を見抜かれたのはそれだけではないと思われます」
きな子さんが饒舌に喋る姿、初めて見た。心なしか表情がいつもの無表情な感じじゃなく熱が入ったような熱さを感じる。
必死……なのか?
その姿に俺だけじゃなく、珠理亜、美玲さん、そして建造さんが1番驚いている。
「虎雄様に優しさがあったからこそ私の不調に気付いたのだと思います。虎雄様はお嬢様に相応しい方だと私は思います。
旦那様、どうか前向きに考えていただけないでしょうか」
きな子さんは涙は出ない、出ないけど泣きそうなぐらい必死な顔で建造さんに頭を下げる。
そんなきな子さんを見てかなり驚いた表情を見せた建造さんだが1度トラを見て納得したような顔をする。その表情はなにかを決意した顔である。
そして俺の顔は渋い。
「分かった。虎雄くんを私は認めよう。ただ、珠理亜お前だけ胸の内を伝えていない。
昔から極度の恥ずかしがり屋なのは仕方ないが気持ちはしっかり伝えなさい。それが出来たとき完全に認めよう」
その後「娘が告白するのは複雑ではあるがな……」と呟くのが俺の耳には聞こえた。
珠理亜は真っ赤な顔で「はい」と消えるような小さな声で返事して頷く。
美玲さんがパン! っと手を叩く。
「さあ今日はいい日になりましたわね。せっかくの昼食会です、もう一度仕切り直しましょう」
その一言で場の雰囲気がぱあーっと明るくなりメイドさん達も忙しそうに動き始める。
皆が明るい。
浮き足立ってると言えばいいのか。この若い2人を祝福でもしてるようだ。
俺? オロオロしてるよ。
1人だけこの場に相応しくない感じでオロオロしてる。ど、どうしよう……珠理亜が嫌だとかじゃなくて元の体に戻ったとき収拾効かないぞ。
どうする、いっそ「じちゅは、こはりゅがトリャなのでちたー!」とか宣言しちゃうか?
……だれも信じないだろうな。
「虎雄さん、珠理亜をよろしくお願いしますわね」
「はい」
焦る俺のことなど構わず美玲さんのお願い宣言にトラが軽く返事しやがる。俺が慌てて立ち上がろうすると宮部さんがそっと肩を押さえ再び落ちるのを防いでくれる。ほんとこの人イケメンだな。なんかキュンってしちゃうぞ。
いやそれよりトラだ。俺は宮部さんにお礼を言うとトラに鋭い(つもり)の眼光を飛ばし注意する。
「こりゃ! トリャ大事な話に軽々しく返事してはダメでしゅよ!」
トラはハッとした顔で口を手で押さえると立ち上がって建造さんと美玲さんにお辞儀をする。
「お父さん、お母さん。珠理亜さんは大切にしますので任せて下さい」
「まあまあ」
美玲さんが嬉しそうに笑い、建造さんもちょっと複雑な顔をしながらも腕を組みながら頭を下げるトラを見て頷く。
珠理亜は鼻血を出して椅子ごと倒れるのをきな子さんに支えられている。こいつこんな奴だったっけ?
「ってちがーーーーうっ!?」
俺は勢いよく立ち上がろうとして宮部さんの手が間に合わずズレ落ちていく。だが下に落ちテーブルにぶつかりそうになるのをトラが支えてくれ事なきを得る。
「大丈夫?」
「ありがとうでしゅ」
トラに抱っこされ椅子に座らせてもらう。ここで周囲の視線に気付き見渡すと皆がほっこりして俺らを見ている。
「虎雄さんと心春さんは本当の兄妹みたいですわね」
美玲さんの問いにトラは笑顔で答える。
「はい、家族ですから」
も、もうダメだ何をやっても裏目に出る。もうなにもしない! これに限る。
じっとする俺を建造さんが見つめるとトラに質問する。
「心春くんは本当に不思議な感じがする。まるで人のような予想の付かない動きをするというか。どんなプログラムを組んでいるのだね?」
トラが首を捻る。そりゃあ分かんないだろ。まあ、今の俺も分からないんだし。
「あなた。今は食事を楽しみましょう。それに予想が付かないと言えばきな子、あなたも珍しく自ら喋りましたね。どのような心境の変化かしら?」
「虎雄様と心春様を見ていたら、お嬢様の為に私の想いを伝えないといけないと必死になってしまいました。出過ぎた真似を申し訳ありません」
きな子さんが頭を下げるのを美玲さんが止めさせると建造さんを見るその目はほんわかした雰囲気ではなく鋭く仕事モードといったところだろうか。
「あなた、この相手と想い想われる関係というのが大切なポイントじゃないかしら? 今まで人間とアンドロイドの愛情はどうしても一方的になりがちでした。それは人に愛されるアンドロイドを目指してましたから。
ですが虎雄くんと心春ちゃん、そして珠理亜ときな子、この双方を想い愛する気持ちが大事だと思いませんか?」
「確かに、今後のアンドロイドの未来が見えた気がするぞ。ふむ愛し愛されるアンドロイドか……」
建造さんを初め皆が俺に熱い視線を送る。その視線の痛いこと。
だってこの心春ボディーは俺の欲望と願望から生み出されたものなわけだ。100%以上歪んだ愛で作られたものに作った犯罪者スレスレと言われる本人が中にいる状態。
そんな俺をまるで希望の光のように見ないで! 熱い視線を送らないで!
愛とか希望は確かに詰まってるけど、どす黒い何かだから!
「よし、私も0からアンドロイドの在り方を考え直してみよう。今日は私にとってもいい日になった。ありがとう虎雄くん、心春くん」
建造さんが俺とトラに本当にいい笑顔で握手をしてくる。
もうどうでもいいやーって力なく建造さんの力強い握手にブンブン振られる俺。
そしてこのまま和やかに食事会は終わり俺らは帰るため車に向かう。
* * *
「もう少しゆっくりして頂きたかったのですが食事会が長くなり食べてすぐにお帰り頂くようになって申し訳ありませんわ」
珠理亜が俺とトラに頭を下げる。トラが変なこと言う前に俺が先に喋る。
「いえ、かまいましぇん。たのちい時間がしゅごしぇまちた。トリャもこはりゅも満足でしゅ」
俺がお辞儀をすると慌ててトラもそれに続く。
「それで、あの……虎雄さん。わたくしの気持ちなのですがもう少し待って頂けないでしょうか。その、今日は色々ありすぎて気持ちを整理する時間を頂けませんか?」
珠理亜がもじもじしながら熱を帯びた熱い眼差しをトラに送りもうそれ気持ち大体決まってんじゃねえのって感じの台詞を伝えるとトラは頷く。
「はい、お待たせしますが必ずお伝え致しますわ」
「うん、待ってる」
頬を赤く染め、見たことない笑顔をみせる珠理亜。可愛いけど俺はそれどころではない。俺はトラのズボンを引っ張ると……
「トリャァ……」
うん? なんか眠く……なって……き
トラのズボンを掴んで頭をカクカクさせ半目の俺をトラがそっと抱き抱えると俺は眠気に勝てずゆっくりと瞼を閉じ眠りへと落ちていく。
「心春、疲れたみたい」
「夜でなくても疲れたら眠るのですね。本当に子供みたいですわね」
そう言って珠理亜がトラが抱いている心春をソッと撫でる。
すやすやと眠る心春を見てトラと珠理亜は優しく微笑む。
そんな2人の姿を見て建造さんや美玲さんを初めお屋敷の皆様方は雨宮家の未来の姿を見るのであった。
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次回
『幼馴染みとお嬢様は張り合うわけで』
思った以上にお嬢様の話が長くなってしまいました。
因みに心春がスースーいっているのは雰囲気です。実際には息をしていないのでスースーいってません。
ずっと息をしない、それってどんな気分なんでしょうね? 知ってるよ……いやそんな人いたら怖いんでやっぱりいいです。
普通に御意見、感想などをお聞かせ下さい。
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