第16話 お母様は興味津々なわけで

 珠理亜に家の一部を案内されるとラウンジで休憩を取る。家の中にいるのに休憩を取るって変な感覚だ。3人がけのソファーにトラと並んで座る。


 それにしてもこのソファーよく見ると細かな装飾が施されて、この素材はベルベットで朱色を基調とした落ち着いたデザイン。

 高そうなのに主張し過ぎない物を選んでいるあたり本物のお金持ちって感じがする。

 さっき珠理亜が話していたお父さんの話から無駄を嫌う人なのかもしれない。


 そんなことをぼんやり考える俺の横でトラがソファーの肌触りを楽しんでいるのかスリスリと手で擦っている。摩擦で火でもつきそうな勢いだ。


「トリャ、トリャ」


「はい、なんです?」


 俺は小声で隣に座るトラを突っつく。


「さっき珠理亜に言った言葉の意味を知りたいでしゅ」


「意味ですか? そのままですよ。アンドロイドのお医者さんって素敵なお話だと思いませんか?」


 うーむ素敵な話かと聞かれればそうなのだが本当に聞きたいのはそこではない。


「トリャ、さっきのシェリフセリフあれじゃあ珠理亜をしゅき好きだから応援しているみたいに聞こえましゅ」


「はい、私珠理亜さんのこと好きですよ。立派な夢持って素敵です。応援したくなりませんか?」


「しゅきってトリャの言うしゅきは──」


 俺がトラに文句を言おうしたときスーツにサングラスの男、宮部さんがやって来て俺達に会釈をすると珠理亜の前に立つ。


「珠理亜お嬢様、お食事の準備が整いました。食堂までお客様をご案内致します」


「ええ、お願いしますわ。心春さん、梅咲さん行きましょう」


 珠理亜が立ち上がり俺に手を差し伸べるので手をとって立ち上がる。

 ソファーとテーブルの間を歩くとき躓いてしまう俺をトラが支えてくれる。


「大丈夫?」


「大丈夫でしゅ、ありがとうでしゅ」


 そんな俺らを見て宮部さんがうんうん頷いている。


「お二人とも仲が良いのですのね。本当の兄妹みたいですわ」


 微笑む珠理亜にそんなことを言われてトラは照れている。

 誉められているのだから嬉しくないことはないが、どうせなら元の体で言われてかった。今のトラはなよなよし過ぎだから俺なら……


 ☆ ☆妄想中☆ ☆


(虎雄くん兄妹みたいだね)

(ええ俺心春を愛してますから!)


 ビシッとね……


 ……あれ? 元の俺が言うと犯罪係数の値が爆上がりするのは何故だ? 意味が分からんぞ。俺は考えるのをやめる。


 ☆ ☆妄想終了☆ ☆



「それでは参りましょう。御案内致します」


 宮部さんを先頭に食堂へと案内される。一般家庭だとリビングとかでご飯を食べるんだと思うけど専用の食堂がある家って凄いよな。

 しかも目の前の広がるのはテレビや映画でしか見たことのない白いテーブルクロスが掛かった長テーブルを縦に置いてある光景。本当にこんな家あるんだ、なんて感動しながら席へ案内される。


 宮部さんが引いてくれた椅子にはお子様用の嵩上げクッションが敷かれており俺は抱き抱えられ座らせてもらう。

 嵩上げクッションがあってもギリギリ手がテーブルの上に届くかどうかって位でテーブルの天板が目線のちょっと下に広がっている。

 こういうとき俺は心春になってちっちゃくなったんだって改めて実感し、ちょっぴり悲しくなるのだ。


「お母様、今日お仕事は大丈夫なのですか?」


 俺が黄昏ていると珠理亜が慌てて席を立ち食堂の入り口に向かって驚きの表情をするので俺とトラもその方へ視線を向ける。


 そこには色っぽさがありながらも落ち着いた雰囲気を出す女性が立っていた。珠理亜が大人になったらこんな感じかな?


「仕事? 後でやるから良いの。だって珠理亜がお友達を連れてきてそれが男の子だって言うから気になるじゃない。それにお母さんも珠理亜が絶賛する心春ちゃんにも会ってみたいもの」


 そう言いながら珠理亜のお母さんは俺らを見つけると小走りで近付いて挨拶をしてくれる。


「どうも初めまして珠理亜の母、雨宮あめみや 美鈴みれいと申します。よろしくお願いしますね」


 言い終えると同時にそのまま俺を抱き抱えギュッと抱き締められるとその豊満な胸に押し付けられる。

 これアンドロイドじゃなかったら窒息死してるからな! って位圧迫されている……


「あなたが心春ちゃんねー♪ ん~かわいいわ~。まーまーほっぺたプニプニねぇ」


「お母様、心春さんが苦しんでますわ!」


 美鈴さんの胸で溺れる俺を珠理亜が救いだしてくれる。


「あらあらごめんなさいね。かわいいからついつい」


「い、いえ大丈夫でしゅ……」


 珠理亜に支えられて目を回す俺は再び美鈴さんに肩をガッシリ掴まれる。


「心春ちゃん。今なんて?」


「え? えっと大丈夫でしゅ?」


「まーー!? なんなのその、あざといくらいかわいい喋り方! お名前、お名前は?」


「こ、こはりゅ──おぶっ!?」


 名乗っている途中での美鈴さんのベアハッグによって空気が漏れる。息してないけど。


「う~んかわいー! 珠理亜も小さい頃こんなだったわー」


「や、止めて下さいお母様」


 恥ずかしがる珠理亜を横目に美鈴さんはトラの元へ俺を抱き締めたまま近寄る。


「で、君が虎雄くんね。よろしくねぇ」


「はい、梅咲虎雄です。よろしくお願いします」


 トラが丁寧なお辞儀をする。その様子を頬に手を当てうんうんと頷いてる美鈴さんが珠理亜に視線を移すとちょっと意地悪に微笑む。


「素直でいい子ねぇ。珠理亜にはもったいないわねぇ」


「な、なにを言ってるのです!!」


「んん? 珠理亜的には満更でもない感じかしらね」


 少し頬を赤く染め照れている珠理亜だが実の母親から茶化されたら照れているだけだとろう……と今は思っておく。

 さっきのトラのセリフは関係ないはずだ。だって家に来たときはトラは俺のついでについて来たぐらいの扱いだったんだから。


 クラスメイトから夢が素敵だとか言われたから意識しているだけだろ多分……恋愛シミュレーションでも女の子落とすにはもうちょっと苦労するぞ経験上。


「それじゃあ虎雄くんはどう? うちの珠理亜どう思う?」


 ちょっぴり意地悪な表情を再び浮かべトラを見る美鈴さん。対してトラはいつもと変わらない表情。


 あ、嫌な予感がする。こいつのこの顔「え? 何聞いてるんですか? そんな当たり前のこと」って感じだ。絶対余計なことを言うはずだ! 日に何度もやらせるか!


 俺は美鈴さんにハグされた体をネジってトラを止めようとするが……


「ト、トリャ! あぶっわっ!」


 トラがキリッとした表情をしたことで美鈴さんが俺のハグの力を強め、きつく締め付けられた俺の言葉は続かない……


「とても素敵な方だと思います。夢もしっかり持ってますし応援しています。俺はそんな珠理亜さんが好きです」


 俺の静止が間に合わずこいつ言いやがった! 思ったことをそのまま話してしまう変にアンドロイドっぽいところ。

 心に言葉を秘める事が出来ないよく言えば素直、悪く言えばバカ正直。もう少し注意すべきだった。


 そんなトラの宣言に珠理亜の顔は赤く染まるし、きな子さんはいつもより目を大きく見開いて驚いてる。


「そっか、そっか。その言い方だと虎雄くん的には人として珠理亜を尊敬し好きだってことね?」


 美鈴さんの問いに頷くトラ。

 ナイスだ! 美鈴さん。これで変な誤解は生まれない……ってあれ?


「私が聞きたいのはね。珠理亜を1人の女性として好きなのか? 恋愛対象かどうかってこと」


 何聞いてんだこの人は!? 


 実の母親の前で例え本当に好きでもそんな恥ずかしいこと言わせるか普通?

 ってかなんか珠理亜ときな子さん前のめりになって興味津々じゃん。


「恋愛対象?」


 トラがそう呟くと部屋にいる皆の視線が集まる。

 ちょうどその時、食堂のドアが開き周りにいた宮部さんを初めとした人達が一斉にドアから入ってきた人物にお辞儀をして揃った声で挨拶をする。


「お帰りなさいませ、旦那さま!」


 旦那さま? って珠理亜のお父さん?


 ────────────────────────────────────────

 次回

『トラは宣言するわけで』


 珠理亜は「~ですわ」って口調なのにお母様は違う。昔は同じ口調だったのか?

 どこかで「~ですわ」口調を止める日がくるのかもしれません。

 大人になるってこういうことなんですね、切ないです。などの御意見、感想などありましたらお聞かせください。

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