第12話 お留守番はホラーなわけで
トラは玄関で心春ことマスターと母の嘉香を見送った後、鍵をかけると足早にリビングへと向かう。
「フフフ」
不敵な笑いを漏らすと軽く走りソファーにダイブする。
「思った通りの跳ね具合です。お母さんがいるときはこんなこと出来ませんからね。さてと……」
トラはソファーに寝転がったままテレビをつけるとローカルな旅番組が映し出される。
「ふわあ郷土料理かあ。へー高山ラーメン……鶏ちゃんってなんか可愛い響きです。
あ~お腹すいてきました」
台所に行き棚を漁ると煎餅を発見したのでお茶と一緒にリビングへ向かい再びテレビを眺める。チャンネルを変えワイドショーを見ると芸能ニュースが流れる。
「はあ、不倫ですかあ。度しがたいですね。ふーん、へー、ん? 最新映画情報? あ~映画館行ってみたいです。今度マスターにお願いしちゃいましょう」
トラが煎餅を咥えたままテレビに見入ると最新映画の予告が始まる。
『今度の奴らは半端ない!! 腐っていても走る! 走る! 走るううぅぅ!?』
『く、来るなーー!! うわあぁぁぁぁ』
『8月10日、日本先行上映……全力疾走ゾンビ ~君の口からは死臭がする~ 君はこの恐怖から逃げ切れるか……』
トラが咥えていたいた煎餅を落としその弾みで煎餅が割れてしまう。
「あわわわ、なんですかなんなんです……ゾンビって。なんで人間食べるんです?」
トラはAI時代にある程度のネットサーフィンは許可され閲覧していたが年齢制限がかかっているものと恋愛関係に関してはアクセス出来ないようになっていた為にアダルト系やホラー系には縁がなかった。
因みに恋愛関係に関しては妹は
それに加えそもそも興味があったのが外に出たい事から景色やマップと可愛い系か綺麗な植物や可愛い動物ばかり閲覧していたので今のトラの知識は大分偏りがある。
トラはテレビをそっと消すと2階の部屋に戻りパソコンを開く。
「と、とにかく今はマスターと私の体を戻す方法を見つけないといけませんからゾンビとかに気を取られている場合じゃないんです」
『入れ替わり 戻る方法』
右手と左手の人差し指でキーボードの上を迷子になりながら打ち込んだ文字で検索エンジンを使って検索をかける。
「へえ~結構入れ替わってる人いるもんですね。日常茶飯事的なことなんでしょうか?
はぁ階段を抱き合って転がると入れ替わると……ひぃー痛そうですね」
確実に無駄な時間を過ごすトラ。
「おっと、少し運動しないといけません」
トラは動画サイトを開き自分のマイリストから動画をクリックする。
『はい、ウォーキングチャンネルです。今日も楽しく歩いて健康になりましょう! はいそれでは元気よくせーの』
『おー!』
「おー!」
気合いを入れ動画を見ながら片足でバランスを取るトラ。
「おぉ大分もつようになってきましたよ。っとと、人間は骨格とバランスを取るのに姿勢が崩れたら骨が歪みま、す、から、ねっと」
自分の体のバランスを鏡で見ながら一通り汗をかいたトラがタオルで汗を拭いながらパソコンの前に座り入れ替わりの戻り方を再び検索する。
当たり前だが何も進展がなくトラは両手の人差し指を立てるとキーボードを打ち始める。
『ゾンビ』
「うひゃああぁぁ!? なんで腐ってるんです? うええ気持ち悪い……!?」
ゾンビの説明を読んでいたトラはパソコンの前で悶える。
「なんですと!? ゾンビに噛まれたらその人もゾンビになるんですか……マジですか!?」
マウスでサイトをスクロールすると下に動物ゾンビ特集の文字が目に入る。
「……わんちゃんもゾンビになるんですか。素早いから気を付けろと……家の窓ガラスを破って入ってくるんですかっ!? え~と落ち着いてハンドガンで飛びかかる瞬間を狙え、ショットガンなら1発で吹き飛ばせるぞっと」
「お母さんにハンドガン買って家に置いておくようにお願いしておきましょう」
そんなことを呟きながら一階に戻るとリビングの大きな窓からコツコツ音がする。
そーと近付き耳をすませる。
コツコツ! カリッ …………バンッ! バンッ! コツッ ………… バンッ!
「も~なんなんですかぁ」
半泣きのトラがカーテンを掴むと意を決死って開く……とそこにはウッドデッキに猫が1匹いた。
トラと目が合った猫は突然のトラ出現で窓越しに身構える。
トラと猫の視線がしばらく合っていたが、時々猫が視線を外し窓の方をチラチラ見始める。
猫の視線を追うとトラ側の窓に小さな蛾が張り付いていた。時々パタパタと飛んでポジションを変えると猫はウズウズした様子を見せるがトラも気になるのかチラチラ見て様子を伺う。
「猫ですか……猫はゾンビになった事例は無さそうですから安心です。それにしても……」
白地に黒の斑模様、顔は基本的に白なのだが右目を囲う黒いブチと口の左端から血でも垂れたかのような細長いブチ模様の特徴的な柄をしている。
「ふふふ、なんか殴られたみたいな柄をしてますね。愛嬌のある顔です。ん? 首輪をしてるってことは飼い猫なんですかね」
トラの声が聞こえ機嫌を損なったのかは分からないが猫は急にプイッと向きを変えると何処かへ去っていく。
「あーあ、いちゃった。同じ猫科の名前を持つものとしてはお友だちになりたかったですね」
ピンポーーン!
「ふにゃ!?」
玄関のチャイムに心底驚くトラが恐る恐るインターフォンを覗くと画面にはスーツ姿の知らない男の人が立っていた。
トラは息を潜める作戦にうって出る。つまりは居留守である。
ソファーの背もたれに隠れインターフォンの画面に注視する。画面の男は何度かインターフォンを鳴らすと今度はノックをしてくる。
「いませんかー? もしもーし」
(しつこいです。誰もいないから出てこないんですよ)
やがて男は諦めたのか画面から消えてしまう。こそこそと屈んだままでソファーの中心に移動するトラはモニターが消えるのを待って立ち上がる。
「はあ~疲れました。喉が乾きましたよ」
トラが冷蔵庫をあさり麦茶を飲んでいるときあることを思いだしシンクの下にある扉を開き包丁を取り出す。
「おー、刃物です。確かこれがあればゾンビに対抗出来るってサイトに載ってました。上手な人ならこれだけで洋館や町から脱出可能だそうですし。確かこうもって……」
包丁を逆手に持ったトラがシュシュと言いながら包丁を振り回す。
「いける! いける気がしますこれなら窓ガラスを破ってくるわんちゃんも倒せそうです。ちょっと練習してみましょう」
トラはリビングに出ると窓ガラスの近くで包丁を振り回す。
「あっ!?」
「えっ?」
窓ガラス越しに目と目が合う先程のスーツ姿の男とトラ。男は窓が開いていないか確認していたのか縁を両手で持って引っ張ろうとしているようだった。
「!?○△✕ーー!! ◎うぅ✕よーー!??」
パニックのトラが謎の言語を発し包丁を振り回す。
留守かと思った家で突然、若い男が出てきて意味不明な言葉を発し包丁を振り回し始める。どう考えてもヤバイ奴、そう思ったスーツ姿の男の行動は早かった。
「なんだコイツ!? ヤベーやつかよ」
男は一言発し身の危険を感じ立ち去っていく。
はあ、はあ肩で息をするトラがペタンと座り込むと額の汗を拭う。
「な、なんだったんですかね。あの人」
ピンポーーン!
「うひゃああ」
再びなるチャイムに怯えるトラがインターフォンの画面を見る。
「あれ? 何しに来たんでしょう?」
トラは包丁を急いで台所に置くとインターフォンに出るのだった。
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次回
『地獄の中にも幼馴染みはいるわけで』
因みに私はナイフ1本でクリアー出来ません。日本でゾンビが発生した場合対抗するのが難しそうです。
私はすぐにゾンビ側に回りそうです(笑)
いや、自分は生き残れる! などの御意見、感想などありましたらお聞かせ下さい。
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