第8話 なんか幼馴染みがデレをみせ始めたわけで

 アンドロイドは休眠中に自分の体内をスキャンし自動診断を行うので睡眠が必要となる。

 その睡眠は変態対策(トラ対策)と称して母さんと一緒に寝ることになっているので俺は隣で眠る母さんを起こさないようにそーとベットから抜け出す。

 なんで高校生にもなって母親と一緒の布団で寝ないといけないんだ。


 そんな怒りを昇る階段にぶつけようと強く踏み締めるがトコトコと可愛い音しかしない。

 なんなのこの可愛い体は。

 2階に上がった俺は扉のない部屋に入り寝ているトラを起こす。


「ん~あと1分だけ寝させてくださいよ~」


 ベタベタな返しをしてくるトラ。1分って寝る方が難しいだろ。俺はトラを揺さぶるとトラが手を伸ばし俺を抱き締めてくる。


「ぬへへへ、ぷにぷに~」


「ぬわーーやめるでしゅ! 寝ぼけてやがるでしゅね!」


 俺は元の俺がニヤニヤしながら頬を擦り寄せてくることに恐怖し涙を流しながら手足をバタバタする。

 なんで俺は元の俺の顔をアップで見て頬を擦られにゃいけんのだ。こんな仕打ち受けたの世界で俺が初めてじゃないだろうか?


 刹那だった、母さんがトラのボディーに正拳突きを入れると緩んだ手から俺を救い抱き寄せ、足を垂直に上げると踵をトラに落とす。流れるような見事な動き


「うぎゃあああ!?」


「この変態が! 心春ちゃんになにしてんのよ! 早く起きてご飯食べて学校行きなさい」


 トラがお腹を押さえて転がるのを横目に母さんは冷たく言い放つがすぐに俺を抱き締め頭を優しく撫でてくる。


「怖かったわねえ。心春ちゃんなにもされない? もうトラを起こしに行かなくても良いのよ」


「こはりゅ頑張るでしゅ。おにいたんが心配でしゅから」


「もーーーー心春ちゃん可愛すぎぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 母さんが俺に頬をする寄せてくる。トラからやられても気持ち悪いが、母さんからやられても気持ち悪い。

 バタバタした朝が終わり玄関へと向かう俺とトラ。


「トリャ、頬の調子はどうでしゅ? 痛みましゅか?」


「大分よくなりました。この薬凄いですね」


 トラが少し腫れた頬を擦りながら笑顔を見せる。なんで中身が違うだけでこんな爽やかな笑顔になるんだ? 自分でも言うのもなんだがもっとこう気持ち悪い笑いかたしてたと思うんだが。

 因みにトラのいう薬とは自然治癒力を高める軟膏で一家に一個必ず常備してある優れものだ。


 おっと忘れるとこだった今日の装いは上からクリーム色で長めのニットセーターに黒のレギンス(足首に外スリット入り)とクリーム色のスリッポンだ。

 忘れてもいいんだけど何となく紹介しておこう。

 そういや、なんか学校に行かない週末はスカートを解禁しようかと母さんがニマニマしていたのを思いだし背筋が寒くなる。


 トラが開けた玄関をくぐって外に出ると……


「よ、よう」


 なぜか目の前に幼馴染みの來実さんが立っていて挨拶してくるではありませんか。16年間ずーーとお隣さんだったけどこんなこと1度もなかったけど。


「あのさ、その……怪我大丈夫か?」


 なんでこいつ恥ずかしそうにモジモジしてんだよ。助けただけで、そんな簡単に攻略出来る幼馴染みだったのか?

 そんなことを思っている俺を余所にトラは頬押さえて爽やかな笑顔を見せる。


「大丈夫。心春に薬塗ってもらったから」


 その言葉に來実が俺を見ると近付いて来て頭を撫でてくる。


「心春にも助けられたな。その……ありがとよ」


 照れ臭そうにお礼を述べる來実を見て俺は理解した。こいつはお礼を言うのが恥ずかしいだけでトラに対して恋心を持って恥ずかしがってたわけではないのだ。こういうことに慣れていないだけか。

 納得した俺が頷いているとトラが申し訳なさそうに頭を下げる。


「來実さんこの間はごめん。強くなって守れるようになるから」

【翻訳】

『來実さんこの間はごめんね。私弱いからちょっと鍛えてみようとか思ってるんですよ。自分の身ぐらいは守れるようにならなきゃいけないですよね』


 あっ……來実からボンってなんか音がして煙が上がっている気がする。なんか顔真っ赤だし。


「來実さん今から学校? 一緒に行く?」


 トラお前、なに気軽に女子を朝の登校に誘ってやがる。


「い、いや。大丈夫。わたしは1人で行けるから」


 よろけながら後退る來実が逃げるように去っていく。そんな様子を不思議そうに見つめるトラ。


「おいトリャ! 何を口説いてやがるのでしゅか」


「口説く? 私は学校に行くなら一緒に行こうかと思ったんですけど。道は一緒ですよね?」


 無自覚だと!? 変に邪念がないだけ相手の心に響くとか?……いやそれより來実がチョロイんだ。日頃から喧嘩っぱやくて近寄りがたい奴がちょっと助けて誉めただけであんなになりやがって。


 と嫉妬も混ざった気持ちを抱きモンモンとして教室までたどり着く。

 もちろんトラのために小休憩を挟みながらな。



 * * *



 教室のドアを開けると教室が少しざわついているのを感じる。そのざわめきの中心に机に伏せて寝ている來実の姿があった。


「ねえ、梅咲くん芦刈さん何かあったの? ほら朝から登校してるし」


 右田さんが近付いてきてトラに小さな声で訪ねてくる。それに対しトラが首を傾げるが思い付いたように口を開く。


「昨日俺が弱くて來実さんを助けれなかった。だから強くなって守れるようと今朝宣言したんだ。そして一緒に登校しようと誘ったら、先に行かれた」


「え?」


 右田さんの目がかなり輝いているのは気のせいか? そういえばこの人、噂話とか大好きじゃなかったっけ。


「ねえねえ、守れなかったって何? 朝は虎雄くんが誘ったってこと?」


「ああ……朝、玄関開けたら來実さんがいた。守れなかったというのは──」


 右田さんが口を両手で押さえキラキラした目でトラの話を聞いている。そして來実は伏せたままだが、耳がこっちを向いているのを感じる。まずいこの流れ止めねば! 

 このままだと來実と浮いた噂がたってしまう。俺が本体でこの流れならある意味ラッキーだが残念なことに今の俺は心春だ。元に戻ったときに人間関係まで調整するのは勘弁だし來実にも悪い。


「トリャは説明が下手でしゅ! くりゅみは昨日の珠理亜との喧嘩をやりしゅぎだったと悔いていたのでしゅ。

 その喧嘩を止めれなかったことをトリャも悔いて今度から俺が勇気を持ってとめりゅって誓ったのでしゅ。

 そしてけしゃ今朝は珠理亜に謝ることを躊躇ちゅうちょした來実に一緒に謝りに行こうかと言ったのでしゅ」 


 俺は右田さんとトラの間に割り込み適当な説明をしてまだ納得していない右田さんを置いて俺は來実の元に走り寄り耳元で囁く。


「くりゅみ、うしょついてごめんなしゃい。でもこの話を終わらせるには、くりゅみに謝ってもらうしかないでしゅ」


「な、なんでわたしが……うっ」


 伏せたまま顔を俺に向け話す來実に俺は精一杯目に涙を溜めてうるうると上目使いで訴える。これはいける! 來実は怯んでいるぞ、もう一押しだ。


「こはりゅ、またくりゅみとねこさんで遊びたいでしゅ。くりゅみのねこさん上手だったでしゅから……」


 俺が言い終わる前に來実がサッと立ち上がりヅカヅカと珠理亜が座る机まで行くと頭の後ろを掻きながら珠理亜と目を合わせないまま照れたように謝る。


「あぁなんだ。昨日はやり過ぎた。悪かった」


 それだけ言ってすぐに自分の席に戻ろうとするその背中に向かって珠理亜が声をかける。


「わたくしも言い過ぎましたわ。ごめんなさい」


 一瞬だけ歩みを止める來実だが無言で席に戻りドカッと椅子に座る。


「これでいいだろ。お前にも助けられたし借りは返したからな」


「はい、ありがとうでしゅ」


 來実が俺の頭をポンポンと優しく叩く。


「ねこさんはまた今度な」


 そう小さな声で言うと机に伏せてしまう。ん? こいつ実は凄い良い奴なんじゃなかろうかそんなことを思いながら席に戻る途中、右田さんに抱き上げられる。


「この話は心春ちゃんが天使で全てを解決したってことだよね!!」


 何言ってんだこの人? 俺は首を傾げるとなんかその行動が可愛かったのか目を輝かせた右田さんが俺をギュッと抱き締める。右田さんの胸の感触を感じるが悲しいことに今の俺はそういった感情に乏しい。


「私全部分かったよ! 昨日の喧嘩を仲裁しただけじゃなくて芦刈さんと雨宮さんを仲直りさせる為に裏で暗躍し、自分は表に立たずマスターである梅咲くんをたてた! そうこれがこの騒動の真実なんですよ!! 私の推理に間違いはない!」


 右田さんが天に指をビッシッと差す。右田さんよ、お前のような探偵がいたら事件は全て迷宮入りだよとか思っているけど、クラスの皆はなんか「おー」とか関心した声出してるし大丈夫かこのクラス。


「つまり心春ちゃんはやっぱ天使ってことだね!!」


 もう推理でもなんでもないじゃん。そう思いながらも俺は授業が始まるまで皆にもみくちゃにされる。


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 次回


『お嬢様のお家にお招きされるわけで』


 迷探偵右田さんの誕生! 彼女の今後の活躍は……結構ありそう。

 もっと迷宮入りさせる自信あります。等の御意見、感想あれば送ってください。





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