第4話 初めてのお使いに行くわけで

 相変わらず外をキョロキョロするトラを引っ張りながら近所のスーパーへたどり着く。


「おおーーこれがスーパーですね。お野菜、お魚、お肉がいっぱいです!」


 喋り方は可愛らしいがこれ高校2年の男が話してると思うと気持ち悪い。伝わるかな?


「トリャ、喋り方は簡潔にでしゅ」


「あ、ああ」


 落ち着きを取り戻したトラがピーマンを真剣に見ている。


「これ」


 トラが手に取ったピーマンを覗き込むがよく分からない。


「何が違うでしゅ?」


「ヘタがみずみずしい」


 トラが見せてくれるピーマンのヘタの部分。他の袋に入っているやつに比べて確かに色が緑色でみずみずしさを感じる。


「よく知ってるでしゅね?」


「ネットで見たことがある」


 素っ気なく答えるトラ。こいつ何だかんだいって演技上手いな。これなら明日からの学校行けるかもしれない。後は計画「そのしゃん」を実行するだけだ。

 お肉は豚バラをチョイス。


「心春、お金どうする?」


 お金を払い終え袋にお肉とピーマンを詰めたトラが俺に話しかけてくる。


「お金?」


「母さんに貰ってた」


「ああ、お小遣いでしゅか。好きなもの買うように言われたのでしゅが何を買えば良いのでしゅかね」


 俺は本気で悩む。心春ボディーはアンドロイドであり食事の必要はない。よってお菓子を買う選択肢はない。

 別に無理してお金を使う必要なんてないんだろうけど、母さんの顔を思い出すと何か買って俺が喜んでみせた方がいい気がしたので商店街に向かう事にする。

 トラにも地理を覚えてもらえるし無駄にはならないだろう。



 * * *



『散財商店街』なんとも嫌な名前の商店街に到着する。

 適当にフラフラ歩きながら500円で買えそうな物を探していく。もっともトラは目に映るものが全て新鮮なようで目をキラキラさせキョロキョロしている。

 必死に冷静であろうと努めているから大目に見ておこう。


「心春、あれは?」


 トラに呼び止められて指を差されたお店を見る。ロッジ風な外見にピンクの扉その横には大きなぬいぐるみが椅子に座って通行人に可愛さを振り撒いている。

 キャラや文具雑貨を扱ういわゆるファンシーショップだ。

 凄く入りたそうなトラもいるし、何かあるかもしれないからとピンクの扉を開け店内へ入る。


「うわああ~」


 中身は乙女なトラが目に沢山の星を輝かせ感激の声を上げる。


「トリャ、喋り方! 他の人が見てるでしゅ」


 そりゃあ女子率99.9%の場所に不純物100%の男が入れば只でさえ目立つのに、くねくねしながら感激の声をあげてれば尚更目立つわけでしばし注目を集めてしまう。


 俺に怒られた後、冷静を装うトラは今ポプリコーナーに釘付けだ。何でもAI時代では感じれなかった匂いに感動しているらしい。


 そんなトラを置いて1人店内を歩く俺だが背の低さ故に上の方まで見れず少々欲求不満気味だ。

 トラに抱っこしてもらうべきなのかと考えているとアクセサリーコーナーにたどり着く。

 色々な種類のアクセサリーが並んでいるが比較的低いコーナーには幼児向けのアクセサリーが並んでいる様にみえる。


「むーお店の戦略を感じましゅね。ファンチィーに見えて金儲けの臭いがしましゅ」


 幼児らしからぬ発言をしながら物色していると大量のヘアークリップがカゴに入れられているのを見つける。

 色んな人が物色してかき混ぜられているのだろう様々なキャラが埋もれている。その中で白い尖った三角が目につく。

 興味本意で摘まんで引きずり出すと大きな顔だけの白ネコが姿を表す。

 つぶらな瞳に口は「ω」な何のキャラでもないネコだ。値段も税込400円と予算内である。

 しげしげと見つめていると急に声をかけられる。


「可愛いの持ってるな。気になるならそこの姿見で合わせてみりゃいい」


 どこかで聞いたことある女の人の声に振り向くと金髪のギャルがそこにはいて日焼けした顔に白い歯を見せ笑っている。

 俺を押して姿見に前に連れていくとヘアークリップをつける様に促してくる。


「えっと、ちゅけ方……」


「ああ、分かんないのか。どれ貸してみな」


 日焼けした腕を伸ばし俺の手からネコのヘアークリップを取ると頭に着けてくれる。


「似合うじゃねえか」


「あ、ありがとうでしゅ」


 頭をポンポンと優しく叩いてくれる。そのギャルの名前は芦刈あしかり 來実くるみ。なんで知ってるかというとお隣さんだから。ついでに幼馴染みである。


 幼馴染み……甘美な響きに感じる人もいるかもしれない。だが現実はそう甘くはない。

 來実とは幼稚園からずっと一緒だ。だが遊んだ事なんてほとんどないし、中・高校とほとんど話したこともない。

 高校生になってギャルデビューするし、もはや住む世界が違うといった感じである。

 そんなんだから毎朝起こしに来てくれたり、家と家の間を窓で行き来するなんてしたことない。そんなことをしたら普通に通報されると自信もって言える。


 てかこいつこんな感じの奴だったっけ? 学校ではギャル仲間とつるんで馬鹿騒ぎして近寄りがたいイメージだったけど。しかもこんなファンシーな店にくるんだ。


「ネコ好きなのか?」


 嫌いではないので取り敢えず頷くと気をよくしたのか嬉しそうに笑いながらしゃがみ込むと頭を撫でてくれる。


「お姉ちゃんもネコ好きでな。今日もネコのぬいぐるみ探しにきたんだ。ほらこれとか可愛くねえか?」


 來実が胴の長いネコのぬいぐるみを手に取ると俺の目の前にズイッと出す。


「ボク、ニャンコ。あなたのお名前はなんにゃ?」


 突然裏声で來実からネコ語で話しかけられる。幼馴染みの突然の行動に戸惑いながらも答える。


「こはりゅ」


「こはりゅ? こはる? 舌足らずな喋り方が可愛いね。わたしは來実だよ、よろしく──あっ!?」


 突然気まずい顔をした來実の視線の先にいるのはトラ。俺を探しに来たんだろう。

 來実が震えてトラを睨んでいる。


「お前がなんでここにいる!」


「あぁ、心春を探して……」


 トラが俺を指差す。


 來実が俺とトラを何度も見比べトラを再び睨む。


「ちっ、馬鹿にした目で見やがって。どうせわたしがこんなとこいて笑ってんだろ!」


「馬鹿にしてない。可愛いよ」


「ぬわっ!?」


 來実が顔を赤くして引いている。しばらくネコのぬいぐるみの背中に隠れ震えてぬいぐるみを棚に戻すとムスッとしてもう1度トラを睨んで店を出ていく。


「今の人は?」


「お隣さんのクリュミでしゅ。詳しくは帰りながら説明するでしゅ」


 説明を後に回してネコのヘアークリップをレジに持って行く。気に入ったわけではないがなんとなく鏡で見た感じ心春に似合ってたからそんな理由での購入だ。


 レジの店員さんに笑顔で渡され早速つけてみる。


「お~可愛いです。マスター似合ってます」


 感情が高ぶったのか素の喋り方に戻るトラを横に連れて歩く俺が睨むとトラが口を押さえハッとした表情になる。


「ときにトリャ、さっきクリュミに可愛いとか言ってたけどあれはなんでしゅ?」


「えっと、くるみ? さんがマスターにネコを使って話してたのが可愛いなあって意味です」


 そういう意味なら問題ないけど、確かにあの來実が小さい子にあんな感じで接するのは以外だったし、あの感じは可愛いと言えば可愛いかな。見た目と日頃のギャップ所謂ギャップ萌えってやつだ。


「まあいいでしゅ。それにしてもトリャあの喋り方はバッチリでしゅよ」


「本当ですか?」


 喜ぶトラを連れて家に着くと母さんは俺の買ったネコのヘアークリップを着けている姿を見て感激し、写真を何枚も撮られるはめになる。


 そして回鍋肉はとても美味しかったらしくトラは感動しておかわりをしていた。


 この長い1日を終え明日の学校に望むことになる。まさか学校へ行くのにこんなに緊張する日がくるとは考えもしなかった。



────────────────────────────────────────


次回


「トラが初登校するわけで」


ネットで見てたとはいえピーマンの実物を初めて見るのトラが何で見分けれるんでしょうか? 等の御意見、感想があれば是非お聞かせ下さい。

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