第3話  トラ改造計画を立ち上げたわけで

  本日は日曜日なので明日は月曜日。当たり前だ。

 そして明日から学校へ行かないといけないわけだ。俺じゃないよ、トラがだよ。


 俺は朝から母さんの洋服選びに付き合わされ上から黒のTシャツ(袖にフリル付き)白地に黒のストライプ柄のガウチョパンツを着せられた後写真撮影会が行われる。


 その後は朝からドタバタとトラの着替えを手伝ったんだが、これがなかなか大変だった。服の着方が分からない16歳の男に服の着せ方が分からない幼女では大変な作業になるのは当然なわけだ。


 ようやく落ち着いた俺はトラを正座させると後ろに手を組み前をうろうろ行き来する。

 そして目をカッ! と開き指をビシッ! と差しトラを威圧する(のつもりだった。後からトラに聞くとプリティーでしたと言う答えが返ってきた)


「いいでしゅか? 今から説明することをよく聞くでしゅ」


 昨夜、少ないメモリーでフラフラと睡魔と戦いながら考えた今後の計画を発表する。


「ひとちゅ! この入れ替わりが起きた原因と解決方法を探すでしゅ。そのためにトリャ! 勉強して賢くなるでしゅ。そして解決策を見つけるのでしゅ」


「え~!? マスターが見付けてくれないんですか?」


 トラが心底びっくりしたような表情で聞いてくる。


「おりぇが出来ればやってるでしゅ。でもメモリーの制限と自分の体を改造できない制約でダメなのでしゅ。

 それにこの間のかみなりのしぇいなのかパソコンのデーターが飛んでいたのでしゅ。お陰で何にも分からないお手上げ状態なのでしゅよ。

 仕方ないでしゅがトリャに任せるしかないのでしゅ」


 俺の発言にオロオロしているトラの姿、ボディーチェンジ2日目だがやっぱり気持ち悪い。なんかクネクネ動くし、しゃべり方がなんか嫌だ。


「ふたちゅ!」


 俺の声で気を付けの姿勢をとるトラが俺を真剣な表情と潤んだ瞳でじーーと見てくる。この小春AIは素直で良い奴だが気が弱い気がする。まあ、そう育てたのは俺なのだがこのまま学校に行かせるわけにはいかない。

 そこで今1番大事な「その2」なわけだ。


「トリャ改造計画でしゅ!」


 右手の人差し指を天に差し宣言する。その神々しさ可愛さにトラが恐れおののく。


「まず喋り方を直すでしゅ。一人称はおりぇ。さあ言うでしゅ」


「お、おれ」


「なんか頼りないでしゅがまあいいでしゅ。次に喋り過ぎずなるべく一言で済ますのでしゅ」


 指を唇に当て首を傾げるトラを見て俺は怒る。


「そういう可愛い動きも禁止でしゅ! いいでしゅか受け答えは簡潔にするのでしゅ。

 例えば、トリャ、おりぇに質問してみるでしゅ」


「え! 質問!? えーとそうだ、好きな食べ物は何ですか?」


 突然話を振られたトラがあたふたしながらどうでもいい質問をしてくる。


カリェーカレー


 クールに目をつぶり答えてみせるが舌足らずな為、今一きまらない。

 片目を開けてそーとトラの様子を見ると全く理解してない顔をしている。俺は大きくため息をつく。


「もー分かってない顔をしてましゅね。つまりでしゅ。相手からの質問に対しなるべく一言で答えればいいでしゅ。返事なんかは『ああ』とか『分かった』とか言ってればボロは出にくいはずでしゅ」


「おーー!」


 手をポンっと叩いてトラが理解したのか明るい表情になる。

 ってか元々俺の体なのになんで可愛い表情するんだ? なんか目も大きくなってないか? 中身が違うとこうなるのか?


「そういうとこも直すでしゅ!」


「分かった」


「おっ! 今のはいいでしゅ。そんな感じでいくでしゅよ」


「本当に!? わーい、わーい♪」


 俺が誉めたとたんピョンピョン跳ね手を上げて喜び始めるトラ。止めて俺そんな喜び方しないから。自分が可愛く跳び跳ねる姿なんて見てらんない。


「トラーー、今ひまーー?」


 下から母さんが呼ぶ声がする。


「おおチャンシュチャンスでしゅ。習うより慣れろでしゅよ。さあ行くでしゅ」


 俺はトラの手を引っ張り下へと降りていく。


「トラ、悪いけどさ回鍋肉を作ろうと思ったらお肉とピーマン買い忘れちゃったから買ってきてくれる?」


 それは作る気ねえだろうって買い忘れのお使いをお願いされたトラの反応を俺は見守る。

 因みに今までの俺ならごねて文句タラタラ言ってお小遣いせびってた。

 16歳の男の子なんてこんなもんだろうよ?

 それに心春作るのにお金が必要だったからな。


 そして今トラの答えは……


「ああ、いいよ」


「もーーあんたは……? あれ? 良いの? お小遣いは?」


「いらない」


 予想外の反応に母さんの方が慌てている。エプロンのポケットには元俺の餌付け用小銭が入っているのが確認出来る。


「あれ? でも足だるーーいとか言わないの? いつもみたく見苦しく地面に転がってひっくり返った虫みたいにバタバタしたりしないの?」


 聞いてると段々惨めになってくるな。というか俺どんな風に思われてんだよ。人間のクズみたいじゃん。


「しない。これくらい出来る」


 そうカッコ良くいい放つトラに母さんは涙を目に浮かべながらトラの肩に手を置く。


「やっと、やっとまともになったのね。うん、頑張ってお肉とピーマン買ってきてね」


「ああ」


 買い物用の袋を渡されメモとお金を受けとると玄関に向かう。そんな背中を見ては母さんは泣いている。

 スゲー感動してるけど内容はただお肉とピーマンを買ってくるだけの初めてのお使いレベル。

 高校2年生が母親から頼まれて感動されるようなことではない。今まで俺が母さんからどんな感じで見られていたかって話だ。


 ん? 待てよあいつ外に出たこと無いだろう初めてのお使いどころか初めての外出だぞ!? テレビもビックリな企画だ!?

 カッコ良く出ようとしているが既に靴を履くのに手間取っているじゃないか。


「お母しゃん。こはりゅもお外出たい。おてちゅだい、したいでしゅ!」


「あらあら、心春ちゃんはお利口さんねえ。よーしお手々出して」


 手を出すと500円玉を握らされる。


「心春ちゃん何か買っておいで」


「あ、ありがとうでしゅ」


「そうだ靴は黒のリボンのついてるシューズ用意してるから履いてね」


 ニコニコ笑顔の母さんにお金を握らされ手を振って見送られる。


 なんだ女の子には激甘かよ。


 俺はトテトテと急いで走るとトラの元に近付き靴が履けず涙目のトラをそっと手伝う。

 自分も用意されていた黒のリボン付きのシューズを履いて玄関を出る。


 ……今俺さ自然に靴履いたけど母さんいつの間に用意してんだこれ?


 玄関を出たトラが太陽を直視して「目がー、目がー」とかもがいていたがすぐに復活すると辺りをキョロキョロと見渡し頬を赤く染め叫ぶ。


「お外最高です! ストリートビューでしか見たことなかった町並みが眼下に広がってるって感動です! ああこの塀見たことあります!」


 トラが走ってペタペタと近所の人の塀をさわりだす。


「確かこの塀の隙間からわんちゃんが顔を出すんですよ」


「こりゃあ! 人様のお家を覗いちゃいけないでしゅ!」


 初めての外に興奮するトラの手を引きお互い初めてのボディーでの初めての外出&お使いが頼りなく幕を開けるのであった。

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 むむっ、ようやくラブコメの匂いが……


 次回


『初めてのお使いに行くわけで』

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