私
柊木 渚
私
「なんでそんなところに居るの?」
隣で少女は寄り添うようにして座ってきた。
こちらを物珍しそうな目で見た後にそう語りかけてきた少女に対して、体育座りで蹲っていた私は答えに詰まって、当たり障りの無い言葉を返した。
「別になにも・・・ただそうした方が良いと思っただけ」
「どうしてそうした方がいいの?」
分からなかった。ただ、こうしていれば何かが救ってくれる気がしていただけだった。
「分からない」
私の答えに相づちも何も返さずに少女は唐突に、ただ一言だけ、私の心に杭をさしてどこかへ行ってしまった。
「自分らしくいたいなら、手放しちゃだめじゃん」
目の前に横たわる死体はどこまでも冷たく、心が掠れていた。
私の死体だ。
夢を捨てた私の死体だ。
「どうすればよかったのよ」
親から弾き飛ばされる現実という名の麻縄。
先生という、他人から翳される安定という名の自身の喪失を促す包丁。
そんな人たちに逆らえもせずに俯きながら明日を無自覚に歩む私。
一歩ずつ、一歩ずつ。着実に私は死んでいった。
最終決定権は私にあると言いながら全てを否定し、自身の行動を肯定する化け物の養分として使い古されてしまった私は、死体になっていた。
「ねえ、教えてよ。どうしたらいいの・・・」
子供のように答えを強請る私を前に、答える者は誰も居なかった。
目の前で横たわる死体は微かに、だが明確に陰を薄めていく。
存在が消えていく、私が消えていく。
「何でですか?どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんですか?」
乱れた吐息と供にこちらに力強く言葉を吐き出す少年。
「分からないの、なんでこんな顔をしているのか、どうしてこんな所に居るのか・・・」
到頭、私の死体は塵と化して目の前から消えていってしまった。
私が消えた。
「なら、一緒に行きませんか?」
蹲る私の前に差し出されたその手はとても綺麗で、とても温かい手だった。
「どこに?」
私を失った私に、どこへ行けというのだろうか。
「それはですね!」
膝を囲うように組んでいた腕を解き、私の手を引き上げた少年は、どこか楽しげだった。
「これから考えましょうよ」
彼の手で引き上げられた私は、自分の足でその場に立っていた。
「楽しんで、後悔して、そしてまた楽しんで、そんな日々を送りましょう。ね?」
責任なんて負わない、行き当たりばったりのそんな理想な言葉を摘んで、少年は私に渡してきた。
「でも・・・私は・・・もう」
私は死んでしまった。
もうそんな事は叶わないんだ。
「大丈夫ですよ。貴方は貴方です。誰でも無い、誰とも換えられない、素敵な貴方です。ですから大丈夫ですよ」
頬に寄り添うように置かれた少年の手はどこまでも温かくて、どこまでも夢みたいに心地のいいモノだった。
その手に私は縋りたかった。
「さあ、行きましょう」
再度握られた私の手にはもう、迷いは無かった。
今度こそ、自分らしくあるんだ。
踏み出す足は私のモノで、踏み出す意思も私のモノだ。
ただ一つ、切っ掛けを生み出してくれたのは少年だった。
歩き出す都度に感情が昂ぶり出す。
もう誰も、私を殺させない。
私よ、私らしくあれ。
私 柊木 渚 @mamiyaeiji
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