人の僕と妖の君

美奈月 紫乃

第1話

これは人と妖、2人の…いえ、1人と1匹の物語。

「はぁ、俺も今日から3年かー。進路…ね

ぇ?」

彼は相田幸光あいだゆきみつ。高校3年生になったばかりの男の子。彼の手に握られているのは進路希望調査の紙。しかし彼には両親がおらず一人暮らし。誰に相談するか悩んでいた。

「…。あいつにでも相談してみるか。」

そう言って幸光は家の近くにある森へ向かっていく。あいつとは、彼が5歳のころに出会った妖・良夜りょうやである。彼女と出会ってから今まで、幸光は時には母、時には姉のような存在だと思っており、よく彼女の森に遊びに行っていた。森の奥深く、そこに彼女の住む家があった。


「良夜〜?いないか?」

ポンッ

「これはこれは、幸光殿ではありません

か。良夜様なら奥のお部屋にいらっしゃい

ますよ。」

「如月か。ありがとな。」

「いえいえ!これが私の仕事ですから!」

出てきたのは如月きさらぎという小狐。

昔、妖に襲われていたところを良夜に助けてもらってからずっと良夜の世話係のようなものをしている。

コンコン

「良夜?幸光だ、入るぞ。」

「おや幸光。久方ぶりだな。」

「あぁ。今日は相談したいことがあって。大

丈夫か?」

そういって良夜の机の上に大量にある書類の束を見る。それに気付いた良夜は笑いながら

「あぁ、かまわんよ。それで相談とは?」

「実はな…」

幸光は将来何をしたいか決まっておらず、どうすればいいか助言をもらいに来たことを伝えた。話を聞いたあと少し考えた良夜は微笑んで言った。

「そうか…。お主の両親が亡くなってからもうそんなに経つのか。人の成長とは早いものだなぁ。うん。我はなお主がしたいことをすればいいと思うぞ。お主はまだ若い。たくさんのことに興味を持ち、挑戦すればいい。失敗しても構わぬ。やり直せばいい。この老いぼれと違って、それが出来るのだから。」

「うん…。そう、だな。そうするよ、ありがとうな!」

「うむ。年寄りの知恵が役に立てばいいがな。はっはっはっ。」

良夜はそういって笑っていた。だが、そこで幸光はふと疑問に思ったことがあった。

「そういえば良夜。」

「なんだ?」

「さっきから老いぼれやら年寄りやら言っているが、お前何歳なんだ?」

そう、良夜の外見は20代でも通用するほど若い。大抵妖怪が見た目と年齢がつり合わないのは知っているが、いくらなんでも年寄りという年ではないはずだ。そう思う幸光に対し、良夜はキョトンとした表情だったが、すぐにニヤリと笑い、

「ふっ。幸光。お前、女性に年齢を聞くなどでりかしー?というものがないぞ?」

「なっ!それは…ってなんでそんな言葉知ってんだよ!使い方もじみに合ってるし!」

「如月情報だよ。」

そうやってからかっていた。ひとしきりからかい終わったのか、まぁ、と

「これでも、千年は生きておるがのぅ。ほらな?ばあさんであろう?」

「 ばあさん通り越して年齢詐欺のくそばば「なにか、言ったかえ?ニッコリ」イエ、ナンデモゴザイマセン。」

思ったことが口に出ていたのか、良夜に黒い笑を頂いた幸光であった。この後も色々話していた2人だが、如月が来て、

「お話中失礼致します。お二方、そろそろお時間にごさいます。」

と伝える。

「ありがとう如月。じゃあな、良夜。やりたい事が見つかったら、また報告に来るわ。」

「あいわかった。その時を楽しみにしておこう。如月、頼んだぞ。」

「承知致しました。」

そうして、如月と幸光は良夜の部屋を後にし、幸光は帰っていった。幸光が帰るのを気配で感じた良夜は今までとは一転した険しい表情で、

「如月。」

「ここに。」

「最近、ごく稀に空気が揺れる。嫌な予感がするのだ。森の警戒を怠るな。」

「お任せ下さい。私の部下も使いましょう。必ずや。」

如月が去ったあと、良夜はこの予感が当たってくれるなよと思いつつ就寝した。


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人の僕と妖の君 美奈月 紫乃 @shino-1120

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