赤い糸

ジュン

第1話

彼女は、おとなの女性でありながら、無邪気な口調でいった。

「わたしたち、出会って3年が経つわ。つきあって2年、愛し合って1年が経つわ」

僕はいった。

「ああ。はやいものだね」

彼女は、アイスティーのグラスに口をつけて、ひとくち飲むと、無垢な笑みを浮かべてきいた。

「わたしたち、赤い糸で結ばれてると思わない?」

僕はいった。

「思わない」

彼女は、きいた。

「えっ。なんで……」

「僕たちは、偶然出会ったんだ。赤い糸で結ばれてはいない」

「なんでそんなこというの……」

「君が尊いからだよ」

「…………」

「赤い糸で結ばれてたなら、運命的だ。だけれど運命なんてものは他力本願の愛だろう。どっちにしろ出会うことになってた、なんて貴重なものとは言えないと思う。僕は運命論は嫌いだ。君を愛する主体として、偶然出会ったことの尊さを、君と分かち合いたいと思ってる」

彼女は、はにかんで喜んだ。ほどなく大粒の涙が流れた。僕は、彼女を喜びの涙で濡らしても悲しみの涙では濡らさない。そう決心した。彼女は涙をぬぐう代わりに、少し照れたような表情でアイスティーの残りを一気に飲んだ。グラスに残された氷が二人を祝福するように、キラキラ輝いている。


終わり

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赤い糸 ジュン @mizukubo

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