夏の夕焼け

 僕は夏の夕焼けが好きだ。雲まで真っ赤に染める太陽。生ぬるい風。街灯に明かりがついて、だんだんと夜に近付いていく街。そんな中で僕は一人公園のジャングルジムのてっぺん。

「またそんなとこで何してるの?」

下から声がしたのでそちらを見ると、彼女がこちらを見上げている。

「夕日見てるの」

僕は彼女から視線をそらして再び夕焼け空に目を向ける。彼女がこちらに登ってくる。きっとそうするだろうと僕は思っていた。彼女ならここに登ってくるだろうと。

「高校生にもなって公園のジャングルジムなんて」

彼女はそう言って僕の隣に座る。

「お前も登ってきてんじゃん」

だんだんと太陽が沈んでいく。徐々に暗くなっていく周りの景色。

「そうだね」

彼女はそう言ってくすくすと笑った。何がおかしいのか分からなかったけれど、彼女の笑った顔が可愛かったから、僕も笑った。

 しばらく二人で黙って夕日を見ていた。彼女の肩が僕の肩に触れる。距離が近い。彼女が大きく深呼吸をする。

「夏の匂いって好きだな」

彼女が言った。僕も彼女を真似て大きく息を吸い込む。夏の匂い。彼女の言った匂いと僕が感じた匂いは同じだろうか。僕は静かに吸った息を吐き出した。

「夕焼けの匂いがする」

僕が言うと、彼女は僕の顔を見た。僕はあえて知らないふりをする。

「夕焼けの匂いか」

僕を見ていた視線が目の前の夕焼けに向かう。だんだんと地平線に沈む太陽を、二人でただただ見つめる。僕の頭の上あたりの空が紺色に染まっていく。夜が近づいてくる。

「帰らないの?」

夕日の赤が、空のほんの一部を染めるくらいになった時、彼女は言った。

「帰るの?」

僕が言うと、彼女は再びくすくすと笑った。

「一緒にいたいから帰らない」

僕の肩に彼女の頭が乗る。僕は大きく息を吸い込んだ。夏の匂いと、夕焼けの匂いと、彼女の匂いで、僕の鼻の中がいっぱいになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る