愛を語れど
「私のこと好き?」
「好きだよ」
「本当に?」
「本当に」
無意味な会話。馬鹿みたい。胸の谷間を見せて近寄れば、たいていの男はなびく。私のことを抱きたいって思う。好きなんて言葉はあいさつみたいなもので、友達が髪を切った時に「かわいい」って言ったり、勧められた食べ物を食べた時に「おいしい」って言うのと変わらない。そこに意味なんてない。ただ言っておけば間違いのない言葉。
好きでもない男に抱かれて何が楽しいんだろう。気持ちいいなんて思ったこと一度もないのに。感じているふりをして私は何がしたいんだろう。それでもやめられない。ただ抱かれたいと思う。
安っぽいベッドの上でタバコをふかすのは男。それをかっこいいとでも思っているんだろうか。そう思っていても何も言わない。今日限りの関係だ。今さえ我慢すればいい。
「次、いつ会える?」
会うつもりなんてない。だけど、こう聞かれるとまんざらでもない。
「今は分からないけど、また時間できたら連絡するね」
「わかった」
男のほうだって本気で私に会いたいと思っているわけじゃない。そんなの知ってる。ただ簡単に抱ける女を手放したくないだけだろう。私はこいつの性欲処理に利用されるつもりはない。私が利用してるんだ。
利用?なにに?抱かれても快楽なんて感じないのに?私はなんのためにこんなことを繰り返してるの?
何度同じ問いを自分にしただろう。答えがいつも見つからない。
携帯電話が震える。メールを受信。画面を見る。薄暗い部屋の中で、私の顔がおばけみたいに浮いて見えるだろうか。
― 今日暇だからご飯でも食べに行かない? ―
私は即座に指を動かして返事をする。
― 行く。なんじ? ―
彼に抱かれたことは一度もない。それでいいんだ。彼は私の中で特別だから。
「私、用事できたから行くね」
私は急いで服を着る。慌てて引きとめようとする男にキスをする。
「また連絡するね」
そう言って私は部屋を出た。彼の元へ向かうために。
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