満月の夜に

 月が綺麗な夜。むせかえるような暑さの中、私は一人で公園のベンチに座っている。ただ座っているだけ。生ぬるい風が通り過ぎる。家に帰ればクーラーの効いた部屋が待っている。それなのにここを動けないでいるのは、きっと疲れたからだろう。

 私はいつも仮面をつけている。誰にも嫌われたくなくて、たくさんの人に好かれたくて、自分を知られたくなくて。いつからこの仮面をつけるようになったのか、考えても思い出せない。気付いたらそれはもうあった。周りの空気を読んで、その時々でその場に合った仮面を選んで、笑ったり泣いたり。自分の感情で動いているはずなのに、まるで誰かのもののように感じる。だけど、それが普通なんだと思っていた。

 上手くいっていると思っていた。学生の時からずっとそうして生きてきたから。これから先も上手くいくと思っていた。仕事をするようになってから、なにかに躓いたわけではない。周りからの評価は悪くないし、恋人もいる。

「幸せそうでいいなぁ」

飲み会で、同期の子にそう言われた時、言いようのない虚無感が私を襲った。

「仕事もできるし、素敵な彼氏もいるし、人生順調じゃん」

彼女に悪意があったわけではなかっただろう。だけど、その言葉は私のなにかを壊していくような、そんな気がした。私は具合が悪いからと言って、途中でその場を後にした。

 本当の私はどこにいるんだろう。ずっと仮面をつけているせいで分からない。自分でも分からないのだから、私以外の人が分かるはずもない。それなのに仮面の下にいる自分が叫ぶ。

「誰か本当の私に気付いて」

と。仮面をかぶって知られないようにしてきたのは自分なのに。

 頭上に浮かぶ月は満月で、それを見つめていたら涙がこぼれた。私は誰のために泣いているのだろう。涙を流したところでなにが変わるというのだろう。そう思うのに、涙は次から次へと流れてきて止まらなかった。

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