幸せの灯

 この世に男と女はごまんといるのに、どうして私はあなたのことを好きになってしまったんだろう。

 観覧車の中、一人で夜景を見る。こんな時間に女が一人で観覧車に乗るだなんて、周りから変な目で見られているのは分かっている。だけど、そうせずにはいられなかった。

 私を抱く時のあなたはとても優しくて、私はあなたに何度もしがみついた。離れたくなくて。ずっと一緒にいたくて。なんて子供じみてるんだろう。あなたが私を愛してくれる日が来るわけないのに。そんなことは分かっているのに。

「そろそろ帰らないと」

ワイシャツに袖を通しながら、あなたは言った。私は何も言えずに、黙ってその姿を見ていた。

「服、着ないの?」

ベッドの上でじっと丸まっている私にあなたは言う。私はまだあなたの余韻を感じていたいのに。ズボンを履いてネクタイを締めるあなたは、良い夫であり、良い父親に見える。実際、そうであることは知っている。

「ちょっと疲れちゃったから、先に行って」

私は起き上がりもせずに言った。

「分かった」

あなたのその言葉に、ためらいは微塵も含まれていなかった。私に近寄り、頬に唇を触れてから部屋を出ていく。閉まる扉を、私がどんな気持ちで眺めているのかなんて、あなたは考えもしないんだろう。

 観覧車がてっぺんまでくると、風でゴンドラが少し揺れた。外を見ると、夜景であたり一面が埋め尽くされている。ここから、あなたの住む街が見える。この灯りの中の一つに、あなたとその家族の住む家がある。

「今日、私の誕生日だったんだよ」

私はあなたの住む街に向かって、そっとつぶやいた。

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