春夏秋冬―春―
柔らかな日差しのさす公園で、あなたは犬と戯れている。私は木陰に座り、本を片手にそれを眺めている。
「子宮がんです」
そう宣言されたとき、私はこの人と結婚したばかりだった。その先の医者の言葉は覚えていない。ただ理解できたのは、子供が産めなくなるということ。
「どうしたの?」
病院から帰って真っ暗な部屋でぼーっとしているとあなたが帰ってきて、部屋の明かりをつけながら言った。
「泣いてるの?」
あなたにそう言われて初めて、自分が涙を流していることに気付いた。
「犬を飼おう」
私が病院で言われたことを説明すると、あなたはそう言った。できるだけ大きい犬を飼って、二人で育てようと。
「僕は君のことが好きで結婚したんだ。そんなことで君を失いたくない」
そう言ったあなたの目は、まっすぐで淀みがなかった。私は、声をあげて泣いた。頭が痛くなるくらい、まるで子供みたいに。
子宮摘出の手術を受けた後、我が家に生まれて間もないゴールデンレトリバーがやってきた。名前はハル。あれからもう5年が経つ。
「疲れたー」
あなたはハルと一緒に私のところへ戻ってきて、どさっと腰を下ろした。まだ冷たい風が吹いているというのに半袖のシャツで、ハルと走り回ったから汗までかいている。ハルも興奮冷めやらぬ様子で、私と彼の間を行き来している。私がハルの首元を両手で撫でまわすと、おとなしく二人の間に座った。
「喉乾いた」
「私も」
「ハルも喉乾いたかな?」
「あれだけ走ったんだもん、喉乾いてるよね?」
ハルの顔を二人で覗き込む。ハルは舌を出してハァハァ言っている。
「帰ろうか」
「うん」
そう言って立ち上がり、私たちは家に向かって歩き出した。
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