心の秋
人を好きだと思う気持ちはどこからやってくるのだろう。
「それでね、その友達がね、今度一緒に行こうって誘ってくれたんだ」
人がまばらな喫茶店。彼女は目の前で楽しそうにおしゃべりをしている。人懐っこい笑顔。胸まで伸びた髪を左耳の下あたりで束ねている。束ねられた髪は、ゆらゆらと曲線を描いていて、こげ茶色をしている。そんなに派手な化粧をしているわけではないように見えるけれど、おそらくとても時間をかけていると思う。服装もネイルもおとなしいように見えるけど、どれもファッション雑誌に載っているような流行のもの。彼女の話に耳を傾けながら、僕は「つまらないな」と思う。
彼女との出会いはサークルの飲み会で、第一印象は「ひかえめな子だな」だった。自分から積極的に話すわけではなく、かといって盛り上がっている輪の中に入れないわけでもない。会話の中心にいる人物の隣で楽しそうに振る舞う彼女から、僕は目が離せなかった。
「連絡先交換しようよ」
彼女がトイレで席を立った時、僕は追いかけてそう声をかけた。
「いいよ」
彼女は戸惑いも見せずにそう言った。
それからしばらく連絡を取り合うようになり、1ヵ月もしないうちに付き合うことになった。彼女は僕と二人きりだと、良く喋る子だった。たわいもない日常の出来事を僕に事細かに話す。最初のうちはそれも新鮮だったけれど、何度もデートを重ねるうちに「つまらない」という感情が僕の中で大きく膨らんでいった。
「そろそろ行こうか」
彼女の話が途切れたのを見計らって僕は言った。
「そうだね」
彼女は携帯で時間を確認しながら言い、立ちあがる。
あの飲み会の日、彼女に芽生えた感情が「好き」という気持ちだったのか、今では疑問でしかない。しかし、隣で歩く彼女に目をやると、やはり可愛いと思う。白くて細い小さい手を、少し力を入れて握りしめる。彼女はこちらに顔を向けて「なに?」とでも言いたげに首をかしげる。僕は黙って首を横に振った。
いつまでこの関係が続くかは分からないけれど、それでもいいか、と思う。近いか遠いかは分からないけれど、終わりの時がくるまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます