あなたに会うまで

 今日の天気、はれ。風は強い。だけどそれは追い風で、私の背中を押してくれる。いつもより少し大人ぶった服を着て、ピンクのチークを頬に乗せて、気取った声で「いってきます」と部屋に言い残して家を出た。

 いつもと同じ道を歩いているはずなのに、なぜだろう、いつもより景色が明るく見える。今の私に怖いものなんてないって、本気で思える。強い風がセットした髪を乱すけど、それすらも楽しく感じる。顔にかかる髪の毛を掃う仕草が大人っぽく見えるように意識しながら、ヒールの靴をコツコツと響かせる。

 ホームに滑り込んだ電車に乗り込む。平日日中の電車の中は人がまばらだ。私はドアのすぐ近くの吊革につかまる。プシューという音がしてドアが閉まる。私を彼の住む街に連れて行くためにゆっくりと走り出す。外の景色が動き出す。それをしばらく眺めてから、私は鞄から携帯電話を取り出した。待ち合わせの時間も場所も、何度も何度も確認した。だけどもう一度確認。東口の改札前に午後二時。

「楽しみにしてる」

昨日、彼から来た最後のメッセージ。私の指がそれにそっと触れる。素っ気ない言葉かもしれないけれど、私には温かく感じる。それだけで心が躍る。

今日という日が待ち遠しくて、だけど疲れている自分を見せたくなくて、一週間前から早寝早起き。そのおかげか今日の化粧のノリは最高だと思う。窓にうっすらと映る自分を見て思う。自意識過剰?ナルシスト?そんなことどうでもいい。今日の私は一番かわいい。

だって今日はあなたに会える日。ほら、もうすぐ目的の駅に到着。減速する電車。そして停止。目の前のドアが開く。私はまっすぐ歩きだす。あなたに向かって。

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