五月雨

 外は雨が降り続いている。時計の針が真上を指しているというのに、外は薄暗い。僕は目的もなくただベッドに横になり、天井を見つめている。電気を付けていないから、部屋の中は外よりも暗い。

「いつか雨はやむんだよ」

僕の口から出た言葉は、天井と僕との間に漂った。ぼぅっと光る言霊。まるで提灯の明かりのように柔らかい。けれどなんだか冷たさも感じる。僕はその言霊を捕まえたくて、体を起こした。だけど、無駄だった。さっきまで光って見えた言霊は、僕が体を起こした瞬間、ふっと消えた。

「バイト行かなきゃ」

ぼさぼさの髪をかきむしりながら、僕はまたつぶやいた。だけど今度は、言霊は見えなかった。

「いつか雨はやむんだよ」

そう言ったのは彼女だ。

「だからそんな顔しないで」

そう続いた。

 あの言葉が彼女の優しさだったのは知っている。僕を励まそうとして言ってくれた言葉なのだと。けれど僕にはそれが受け入れられなかった。雨が降り続いている中、いつかその雨がやむと言われても受け入れることなんてできなかった。いや、今でも受け入れきれていない。

「そんなの知ってるよ!」

「お前に何がわかるんだよ!」

肩に置かれた彼女の手を振り払って、僕は怒鳴った。自分でも驚くくらいの大声で。

「ごめん」

彼女は泣きそうな顔で言った。とても近くにいるのに、聞き取れないくらい小さな声で。

 玄関のドアを開けると、雨は小ぶりになっていた。僕は傘をさしてから一歩を踏み出す。道路にできた水たまり。そこにわざと足を踏み入れる。靴の中に水が入ってきて、じんわりと冷たさを感じる。

「いつか雨はやむんだよ」

もう一度、彼女の言った言葉を口にする。きっと彼女にはもう会わない。けれど、この言葉は僕の中に一生残るのだろう。

 ふと空を見上げると、遠くの空に光がさしているのが見えた。僕は傘を閉じて歩き出した。しとしとと降り続く雨に濡れながら。

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