07.「勇者序列第一位――『大英雄』カタリナ・ノーウェン登場!! ですわっ!」


  ◇



 ――そして、一方その頃。

 馬車の中でトーヤ達が楽しげに『とらんぷ』に興じる、その外では……。



 ――パカラッ、パカラッ、パカラッ……。


 『一頭の馬』が馬車を追いかけるかのように疾走していたのだった。

 その馬上にあって、必死に馬を急かしていたのは――『一人の顔色の悪い男』。


 ……その男の名前は『ギルザ』。不幸にも率いていた一味を"魔人ユリティア"に壊滅させられ、配下の『屍者』として蘇らされた、"元"野心家の暗殺者である。


 ……そう、『剣聖暗殺』という案件を受けてしまったばっかりに――魔王軍四天王ユリティアと鉢合わせ、彼の野心を粉々にされてしまったばかりか――『生ける屍リビングデッド』にされてしまった、ギルザである……。

 

 彼はまた不幸にも、暴君であるユリティアの命を受け、王都へと向かっていた――否、


 しかし流石のギルザとはいえ、徒歩かちで馬車に追いつけるわけがない。

 だから道中で勝手に馬を拝借。その馬に乗って追いかけていたわけだが……。



「いや、トバしすぎだろ、オイ……!」


 前方を猛スピードで猛進する馬車を眺めながら、ギルザはヤケクソ気味に呟く。


 凡馬も使い様とは言うが、流石にこりゃムリだろ……。

 恐らく相当な名馬を揃えてやがんな。良血統ってヤツだ。


 ――あのスィーファとかいう女、相当馬に金を掛けてやがんな……!


 一方で、俺が騎乗している馬はと言えば……。


 ――ハッハッハッ……。


 ……間の抜けた、馬の鼻息が聞こえてくる。

 

 …………。


 ……なんつー間抜け面してやがんだ。

 盗んだ馬だからあんまし悪くは言えねーんだが……コイツ、本当に馬なのか?

 顔だけ見たら、マジでロバかラクダにしか見えねーんだが……。


 そうこうしているうちに、馬車との距離がドンドン離れていく。


 早すぎる。ムリだ。ショートカットするしかない。

 目的地は王都だと分かっている。

 馬車で通れなくとも、馬一頭なら通れる道もある。


「って、そんな無茶誰がやるかよ。……っ! 身体が勝手に……!」


 そしてギルザの意思とは無関係に、馬の手綱を握る腕が引き寄せられる。


 ――結局こうなるのかよっ!

 そしてギルザは駄馬と共に、ガタガタの道へ。おいおい、ケツが痛えっての!

 


「畜生、あのメイドめ……! 次会ったらタダじゃおかねェからな……!」


 そう呟く間も、木の枝がギルザの顔をパチパチと打つ。痛え……!

 『ゾンビ』になっちまったっていうのに、微妙に痛覚が残っていやがる。

 これだから嫌なんだ。雑木林の中を馬で走るのはよ……!


 そして、降りかかる災難に事あるごとに泣き言を漏らしながらも――ギルザは馬を駆り、薄暗い森の中を一人駆けるのだった……。



 * * * * * *


 

「もしかして、あの馬車かしら? ……違った、もっとゴツい感じだわ。はぁ……馬車が、多すぎるのよ……。これじゃあ『剣聖』がどの馬車に乗ってるか分からないわ」


 ――王都を取り囲む城壁の上で、少女が望遠鏡を片手にボソリと呟く。


 ビュウビュウと、突風が吹き荒れる城壁砦の最上部。

 そこでは『』が腰に手を当てて地上を見下ろしていた。


 ――腰まで伸びた金髪。未だ幼さを残す顔立ち。

 綺麗にくびれたその腰には、まるで深い暗褐色の剣を一振り下げている。


 彼女の名前は――『カタリナ・ノーウェン』。

 又の名を――『序列の書ナンバー・スクロール』の"最初の一枚ページワン"。


「――キュルルルルゥッ!」


 そしてそんな彼女の隣では、が『お座り』をしながら空にいななく。


 それは知る人ぞ知る、彼女の英雄譚。

 齢十歳にして、当時の最難関ダンジョンの深層に単身で到達――

 絶滅したはずの幻想種、【翼竜ドラゴン】の卵を持ち帰ったのである。


 ……さて、そんな『大英雄』カタリナ・ノーウェンだが。

 彼女が探しているもの――それは、剣聖リゼが乗る一台の馬車だった。


「――見つけたっ、見つけたわっ!」

「……キュルルルルゥッ、ポフゥ?」


 カタリナは身を乗り出すように前のめりになると、グリグリと望遠鏡を覗く。

 その視線の先には、一台の馬車があった。


 ――あのも、嘘を吐いていたわけじゃなかったみたいね。


「……何だか後ろに馬に乗ったボロボロの男がいるわね。剣聖の関係者かしら。どうでもいいけど。……さてと」


 隣の翼竜が翼を羽ばたかせると、周囲に風が吹き荒れる。

 そしてカタリナは、石造りの足元をブーツで踏みしめて言うのだった。



「ついに来たわね……! この『大英雄』サマによる――"ニセモノ討伐"の時が!」

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