44.「『歓迎会』を終えて。皇女エレオノーラは……」

  ◇



 ……不意に一陣の風が、開け放たれた窓の隙間から吹き込む。


 透き通るような白布のカーテンが、ゆらゆらと揺らめいた。

 それはキラキラとした朝日が差し込む、平穏な朝の一コマだった。




 ――そして、そんな小綺麗な宿の一室の、白いベッドの上では。

 打ち解けた様子で話し込む、『四人の少年少女』の姿があった。


 ――トーヤ、リゼ、エレナ、そしてギブリール。

 そして、そんな彼らの輪の中心に居たのは――やはり、天使ギブリールだった。


 特にエレナが、天使という存在に興味深々なようで……

 天使にまつわる様々な噂について、色々と熱心に質問をしていた。


 一方でギブリールの方も、二人と僕の関係について興味津々といった様子で、色々と突っ込んだ質問をしたりして。


 この場での最終目標ミッションは『リゼとエレナがギブリールと仲良くなること』だと思っていたから、あまり僕が前に出ることはしなかったけれど……中々楽しい時間を過ごせていたように思う。



 ――そして、そんな僕たちのやり取りも、そろそろ終盤に差し掛かった頃。

 少しだけ、印象に残った一幕があった。


「……つまりボクは、天界からトーヤくんとリゼちゃんの『手助けサポート』をする為に遣わされた訳なんだけど」


 それまで自分の『天使としての使命』について説明してきたギブリールだったが……やがてジロジロと、意味深な視線をエレナへと向ける。


 ――じーっ。


 ……それはまるで、何かを品定めするような視線だった。


 全てを見通すようなそんな視線に、何やら居心地悪そうにするエレナ。

 そして――やがてギブリールは、納得したように呟くのだった。


「やっぱり、エレナさんも……トーヤくんやリゼと同じぐらい、『特別な運命』の下に生まれたみたいだね」


 ――ギクッ。

 そんなギブリールの一言に、エレナは面白いぐらい図星の反応を見せる。

 その反応はまるで、隠していた大事な何かを言い当てられたかのような……。


「フッ……な、何のことだか、さっぱり分からないがっ?」


「……ふーん」


 慌てた様子で取り繕うエレナに対し――ギブリールは訳知り顔で、じとーっと、そんなエレナを見つめる。


 ……一体、この間は何なんだろうかと思いつつも、自然と話題は流れていき。


 こうして唐突に始まった『ギブリール歓迎会』も、終わりを迎えたのだった……。



  ◇



 ………………

 …………

 ……



 ――そして、それから少しの時間が経ち。

 トーヤたちが泊まる、部屋の浴室では。


 リゼとエレナの二人が、朝のシャワーを浴びていたのだった。



 ……モクモクと白い湯煙が立ち込める室内に、二人の姿が浮かび上がる。


 彼女たちの頭上――壁面に備え付けられた銀白色のノズルから、まるで大粒の雨のように勢いよく温水が噴き出し、二人の体に降り注いでいた。


 ……二人とも、お互いに生まれたままの姿を晒している。

 体の凹凸が少ない『控えめボディ』のリゼに対し……エレナの『はち切れんばかりの』は、「バインッ!」と、明らかな谷間を形作っていた。


 ポツリポツリと水のしずくが、リゼとエレナのしっとりした肌を伝って滴り落ちる。


 二人とも、スタイルは引けを取らないぐらいに良いのだが。ここまで来ると、胸元の谷間だけは、圧倒的格差を認めざるを得ないだろう……。



 ――そして、そんな少女二人でシャワーを浴びるリゼとエレナだったが。

 

 普段と特段変わらない様子のリゼに対し……エレナは少し、様子が違っていた。


 伏せがちな顔に、何やら肌はほんのりと赤みが差している。

 彼女が赤くなっていたのは、何も熱々のシャワーのせいばかりではなかった。


(……な、何てことをしてしまったんだ、私は……! 仮にも私は『一国の皇女』なんだぞっ!? それなのに、あんな事まで……は、恥ずかしいっ……!)


 我に返ったエレナは、羞恥心に苛まれながら激しく後悔する。

 

 エレナの恥ずかしさの原因は、彼女のお尻にあった。

 ――エレナのお尻に残った、真っ赤な跡。

 それはよく目を凝らして見れば、『手のひら』のようにも見えなくもない……。


 そう、それは言わずもがな、トーヤとの『プレイ』で叩いて貰った跡だった。

 それも……わざわざトーヤにおねだりまでして、である。


(こ、こんな事までして……一体どういう顔をして王都に帰ればいいんだっ、私は……!)


 王都へ行けば、必然、『父上』とも顔を合わせる事もあるだろう。

 ――嗚呼、今から不安で仕方ない……。もしが、知られでもしたら……!



 

 ……が、その時。


 ――バシンッ! 突然エレナのお尻が、勢いよく叩かれる。


「っ〜〜〜!!!」


 まるで、電流が走るかのよう。

 ビクビクと体を震わせながら、エレナは声にならない叫び声を上げたのだった。


 ……こんなことが出来るのは、一人しかいない。

 そしてエレナは、犯人に向かって声を上げる。


「な、何をするんだっ、リゼっ!」

「……何だかエレナが、ぼーっとしてたから」


 相変わらずのいつもの無表情で、リゼが言い放つ。

 やはり犯人は、一緒にシャワーを浴びていたリゼその人だった。


「と、とにかく、別に私は何でもないっ! ……それと、私の尻を叩くなぁっ」

「……どうして? 昨日はエレナもあんなにノリノリだったのに……」

「っ……! そ、それは忘れろっ!」


 リゼの一言に顔を紅潮させて、恥ずかしそうにするエレナ。


 そして、その事実に――エレナは自分が『』しまったことを、嫌でも実感させられてしまう。


 ――そこにあるのは、『皇女の威厳』などではなく。


 まるで、のぼせたかのように真っ赤な顔をした、一人のただの『女の子』の姿だった……。

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