25.「無人の洋館にて……。魔人メイドは仇敵と邂逅する。」
――屋敷の寝室では、物言わぬフロリア市長の亡骸が横たわっていた。
「…………」
即死――だったのだろう。
ダラリと弛緩した肉体は、そこに生命が宿っていない事を如実に示していた。
遺体に残る、鋭利な刃物による傷跡。
目撃者は誰も居ない。一帯はシンと静まり返っていた。
…………。
静寂が支配する、夜の洋館の中……。
そして――主の居なくなった屋敷の中で、今まさに『二人の怪物』が激突しようとしていたのだった……。
◇
――フロリア市長の邸宅にて、ユリティアは一人廊下に立つと、静かに暗闇の向こうを見据える。
「…………」
ガラス窓から差し込む、月の灯りだけが辺りを照らしていた。
コツコツコツ――と、乾いた靴の音が薄闇の向こうから聞こえてくる。
ユリティアは一切の隙を見せず、ただ静かにその足音を待ち受ける。
そして――その男は、姿を表すのだった。
――ゼルネシア魔導帝国
――
――『
……その男の外見を一言で現すならば、"蒼白の大男"という言葉が相応しい。
黒髪の、長く伸びた前髪と、色白だが彫りの深い険のある顔立ち。
そして、何よりも―― 2メートルに届こうかという巨大な体躯が、メイド服を着た小柄なユリティアを見下ろすのだった。
『
――普通の人間ならば、百人中百人が恐れ慄いている状況であろう。
しかし――ユリティアは物怖じすることなく、普段通りの優雅な佇まいを崩さない。それどころか――挑発的とすら言える笑みを浮かべるのだった。
「あら、まだ生きていらっしゃったんですね。……しぶといお方。あの時、
ユリティアは、その時の感触を思い出していたのだろう。
――魔王城での戦い。二人はそこで、敵同士として相まみえていたのだった。
結局戦いの決着は、付かずじまいに終わったのだが……。
一方の
「フン、それはお互い様だろう。あれほど"摘出"してやったというのに、未だ生きているとは……やはり『神の域』と言わざるを得まい。しかし……意外だったぞ。まさかあの"誇り高き魔人"が、剣聖の元に
――そして、二人の視線がぶつかる。
ユリティアと
「…………」
そして――やがて
「やはり適合に失敗したようだな。クズめ。……折角"神なる御業"を授けてやったというのに……所詮は『女神教の背信者』ということか」
詰まらない物を見るような視線で、
「……成る程。
……やはりこの無残な惨状は、目の前の男が引き起こした物だったらしい。
『
――人体実験も厭わない、『
「『実験』、だと? 不愉快だな。『実験』などという一言で片付けられるのは、あまりに不愉快だ。……何しろこれは、『神へと至る崇高な
「『神』ですか……全く、お笑いですわね。貴方の下らない御託には興味ありません。私が聞きたいのは、魔王さまの事だけです」
ユリティアは、そう言ってキッパリと言い切る。
ユリティアの最大の目的――それは、帝国の手にある魔王を取り戻す事、それだけだった。この男の思想など、ハナから興味など無い。
「フン、主思いのメイドと言った所か。……だが、安心するが良い。彼の者には、傷一つ付けてはいない。何しろ彼は、我らの大切な『協力者』なのだからな……」
その一言に、ユリティアはニヤリと笑みを浮かべる。
「それを聞いて安心しました。後は貴方を倒し、魔王さまを取り返すだけです」
そしてユリティアは、魔人の力を解放――漆黒の剣と化した右腕を差し向ける。
しかし――それでもなお、
「フン、私を倒すか……それは不可能だな。何故なら貴様は、ここで物言わぬ『標本』になるからだ。――我が"フラガラッハの魔剣"によってな!」
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