花の町フロリアと【魔導帝国】の陰謀

01.「魔の森を抜けて――花の町『フロリア』にて」

 魔の森イービルウッズを抜けて、僕たちを乗せた馬車は、街道へと合流する。

 その頃にはもう日が暮れていて、すぐ近くの町に寄ると、そこで一泊。


 そして翌朝、町を出ると、再び僕たちの馬車の旅が始まったのだった――。



  ◇



 ――王都へ向かって、はや五日目。


 勇者としての認定を受けるため、そして魔王の手掛かりを探すため――王都を目指していた、僕たちだったけれども……僕たちの旅は、特に大きな問題もなく、順調に進んでいた。


 ユリティアさん曰く、このまま何もなければ、途中、休憩に一つの町に滞在した後、明日にも王都へ到着する予定――とのこと。


 道中、トラブルらしいトラブルは何もなく……あるとすれば、立ち寄る町々で、リゼが男たちにナンパされるくらい。しかしそれも、僕が丁重に『』をすると、決まってすぐに引き下がってくれたのだった。


 引き攣った表情で立ち去る男たちの後ろ姿を前にして、僕は満足げに頷く。

 あくまで暴力は最終手段。その前に事を収めるは、『裏』で生きる人間にとって必須事項なのだ。


 彼らと僕の決定的な差――それは、踏んできた修羅場の差だ。

 魔の森で『魔寄せのお香』を仕掛けた暗殺者が来るならともかく……あの程度の相手ならば、ほんの少し『気』をぶつけてやればいい。

 要するに、僕たちが戦場で感じている緊張感を、相手にも味合わせてやるのだ。

 それだけで向こうは気圧され、その後はニッコリと笑顔で諭してあげるだけで、ブンブン頷いて、そそくさと退散していく……


 僕のあまりの手際の良さに、同行していたレオも驚いた様子だった。


「戦わずして勝つ、か……流石だな。だが、一体どんな手品を使ったんだ? 私には、ただ話しかけただけにしか見えなかったが……」

「昔、ちょっとね。……こればっかりは、企業秘密かな」


 レオの言葉に、そう言って僕は言葉を濁す。

 残念ながら、『気』の事は無闇に広めてはならないと、師匠センセイから言い含められていた。例え相手がレオであっても、それは絶対だ。


「む……しかしトーヤ、君はリゼに対して、少し過保護すぎやしないか?」

「そんなことないですよ! むしろ、リゼは僕の恩人なんですから、これぐらいやって当然です」


 僕はレオに向かって、キッパリと断言する。

 リゼは『絶世の美女』と言っても過言ではない。それに加えて、何を考えているか分からない、この無防備さ……

 きっとこれからも、命知らずの男が寄って来ることだろう。リゼ本人も、半分諦めている様子だった。


 そして、僕は決心する。

 ――僕が受けた恩、それを返すのは今しかない!

 リゼは少し『やり過ぎる』きらいがあるし……穏便に済ませるには、おそらく僕が出るのが一番だろう。

 幸い『荒事の仲裁』みたいなことは、用心棒時代から慣れっこなのだ。


 ただ……一つだけ、気をつける必要がある。

 リゼはどこをどう見ても完璧美少女だ。ただ一つだけ、欠点とまではいかないけれど、リゼが気にしていることがある。

 それは、胸の小ささ……。


 そして逆上した男たちに貶せる所といえば、そのぐらい……。


 ――あの時の情景は、今でも目に焼き付いている。僕の目の前で、何の罪もないドラゴンがバッサリと行かれてしまった姿を……。

 あの一撃は、本当に恐ろしかった……。


 ……とにかく。

 僕がやるべきは、口論になる前に、迅速速やかに争いの芽を摘むこと。

 幸い王都はすぐそこだ。王都まで行けば、流石にこのナンパ攻勢も止むはず……

 そして僕たちを乗せた馬車は、最後の中継地点チェックポイントを目指すのだった……。



  ◇



 ――花の町『フロリア』。


 それが今、僕たちがいる町の名前だ。

 "花の町"というだけあって、町中に色とりどりの花が咲き乱れていた。

 町の中央には運河が流れており、ここから王都へ物資を運んでいるそうだ。


 僕たちは水面の上に美しい曲線を描く、アーチ橋を渡る。

 一流の運び屋、スィーファさんのおかげで旅の日程に余裕が出来た僕たちは、最後の中継地点である『フロリア』を観光することになったのだが……。


『っ――! トーヤくん……!』

(……うん、気づいてる)


 僕はギブリールに頷くと、さりげなくリゼとレオの二人から離れ、尾行者に対して、逆追跡を開始する。


 探すまでもなく、尾行者の気配はすぐに捕まった。

 僕は路地裏に、僕たちの様子を窺っている男を発見。気配を消して背後から近づくと、手刀一閃。尾行者を気絶させたのだった。


『これで、三人目だねー』


 気絶して目を回している男を見下ろしながら、ギブリールが呟く。

 魔の森を出てからしばらくはこうではなかったのだが……王都に近づくにつれて、が現れ始めたのだった。


『それでトーヤくん、やっぱりこのことはあの二人には言わないの?』

(……うん。一応、事後報告はするつもりだけどね。リゼとレオには、今は無防備でいてくれた方が、『ゴミ掃除』には都合が良いから)


 万が一襲われても、あの二人なら対処は余裕だろう。

 けれどこうやって油断している所を倒す方が、ずっと安全だし、効率も段違いだ。

 

 そして僕は、足元で気絶している尾行者に目を向ける。

 格好だけは王都へ向かう観光者に偽装しているものの……ギラリとした剣呑な雰囲気は隠しきれていなかった。


 ……今回は、稚拙な相手で助かった。毎回こうだと楽なんだけど……。

 男の懐を探ると、やはり今回も『例の物』があった。

 裏ギルドで出回る、手配書だ。リゼの顔写真と共に、懸賞金が記されている。

 おそらくこの男も、懸賞金目当てでリゼをつけ狙ったのだろう。


 そして僕は、気絶した男を引き摺ると、男の体を物陰に隠す。

 この手刀の入り方なら一日は起きないだろう。この男には、ここでしばらく眠ってもらって……っと。


 この町にが三人増えたぐらい、町の人も気づかないハズだ。

 そして僕は路地裏を出ると、カモフラージュの為にパン屋さんに寄り、パンを購入。再びリゼたちと合流するのだった……。

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