29.「"暗殺者"ギルザとの対峙――そしてメイドは、真の姿を現す」
「ありゃあ何だ? メイドか……?」
銀髪の大男、ギルザの目の前に現れたのは――白と黒のメイド服に身を包んだ、一人の華奢な少女だった。
……そして付け加えると、そのメイドは、エラい美人だった。
ギルザは生まれてこの方、女に不自由したこと無いが……それにしても、相当な美人である。
薄暗い闇夜に、青白い月を背にして、メイド少女は一人
その姿は、相当サマになっていた。
……で、なんでこんなとこにメイドなんてモンがいるんだ?
魔物蠢く森の奥だぞ、ここは。……どう見ても、場違いなんてレベルじゃねェ。
目の前にある、明らかに異質な存在にギルザは
そして何より奇妙だったのは……見るからに殺人者の雰囲気を醸し出すギルザ達を見ても、少女の眉は微動だにしていないということだ。
――そして、ただ一言。
「招かれざる客の皆々様……
ここから先は、お引き取り下さいませ」
そして少女は、優雅に一礼する。
そのどれもが、一部の無駄もない洗練された所作だった。
その様子に、ギルザはしばらくキョトンとしていたが、やがて愉快そうに笑う。
「カカカッ、俺達に、このままスゴスゴと引き下がれってか? そいつは無理な相談だな、嬢ちゃん。ま、一人で出てきたその度胸は認めるがよ……」
そしてギルザは、メイドの少女を素直に称賛する。
確かに、これは中々出来ることじゃねェ。小娘なら尚更だ。この肝の座り具合……コイツ、ただモンじゃねェな。
しかしそんな笑顔のギルザだったが、眼だけは据わっていた。
そして抜け目なく、今ある状況を計算し始める。
剣聖には確か、勇者学院から同級生が二人が同行し、それに加えて王都から派遣された騎士と従者が一人ずつ着いていたハズだ。
……なら、大方コイツは例の剣聖の従者だろう。
しかし、一つ疑問がある。
「だが、何故わざわざ俺たちの前に出てくる? ……まさか、剣聖どもは逃げた後じゃねえだろうな……」
「いえ。リゼ様とご友人は、この先の"オアシス"でお休みになっておいでですわ。それともう一つ、私がここにいる理由ですが――」
「――あなた方程度のお相手ならば、わたくし一人で十分かと」
「…………!」
ざわざわ……少女の一言に、その場の空気は一変する。
挑発とも取れる少女の言動に、ギルザよりむしろ、周りの部下達の方が殺気立っていた。
『親方』と慕うギルザに対する侮辱――それは、親に対する侮辱に等しい。
彼らが怒るのも、無理なからぬ事であった。
しかし、一方のギルザは……仮にも、若くして暗殺集団の頭領を務める程の男である。このような安い挑発に乗るような玉じゃなかった。
そんな彼は、荒れ狂う部下に囲まれて、冷え切ったように冷静で、周りの状況を観察していたのだった。
これだけの狼藉者相手に挑発をかますとは……コイツ、イカれてやがるのか?
それとも……
そして当のメイド本人は、気にも留めていない様子で――ただ一人『
「それで、大人しく引き下がって頂けませんか?」
「そりゃあ無理だな。俺たちの顔を見た以上、テメェにはここで死んでもらう」
「あら、怖いですわ」
メイドはギルザの殺人予告にすら動じることなく、茶化す余裕すら感じさせる。
そんなメイドの態度が、ギルザの部下達には、余計に
「俺達のことを舐め腐ってるっスよ、アイツ!」
「早く殺っちまいましょうよ!」
ギルザの指令を今か今かと待ちきれず、荒れ狂う部下達。
彼らは目の前の少女が、ただのメイドだと信じて疑わない。
しかし彼らのリーダー、ギルザには、別のモノが見えていたのだった。
(ただのメイドとは思えねえ……何モンだ? アイツ……)
ギルザは知らぬ間に、目の前のメイドに対し、最大級の警戒を向けていた。
武術家として
――そして結局、この場で唯一彼だけが、その気配を感じる事が出来たのだ。
数々の修羅場を潜ってきた彼の本能が告げる。
……ヤツは、ただのメイドじゃねェ。アレはメイドの皮を被った、もっと別の、恐ろしい何か――最大級の警戒を持ってして尚、死を覚悟しなければならない相手であることを――。
「はぁ……困りましたわね。『無暗に人間を殺すな』との
やれやれと言った風に、メイドが呟く。
そして次の瞬間、少女の纏う雰囲気が一変するのだった。
――お
そしてただ静かに、『
「……仕方ありません。そちらが"闘争"をお望みならば、お望み通り、こちらも"死ぬまで"お相手致しますわ。――【
そして――
「テメエらッ――逃げろッッ!」
ギルザは咄嗟に、背後の部下に向けて叫ぶ。
周囲には恐ろしい程の暴風が吹き荒れる。その風の中心にあったのは、まさしくその、メイドの少女だった。
恐ろしい突風に木の葉が舞い、ギルザは慌てて腕を前に、顔を庇う。
やがて風は凪ぎ――ギルザはゆっくりと顔を上げる。
そして、そこには……メイド少女の、『真の姿』があったのだった。
メイド服を着た少女の背から、大きく広げられた――人ならざる『
少女の双眸は紅く輝き――そしてその顔は、『
そしてその額には、人外の証である『
――彼女の名は、"魔人"ユリティア。
人外の魔人にして、古の昔より『大いなる魔王』に付き従う、
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